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氷のような女

作者: 風風

「ロアーナ・グラキエース!貴様とは婚約破棄する!お前のような非情で冷たい氷のような女と結婚するなど寒気がする。俺は太陽のように明るく朗らかなミリーと結婚すると決めたんだ!」


 第4王子だからって、甘やかされすぎではないかしら?

わざわざ卒業パーティーの衆目に晒される中、大声で叫んでいるので確信犯ですね。

第4王子の腕の中にいる満面の笑みを浮かべている彼女がミリーかしら。

太陽と言うより、頭お花畑では?

二人揃って何も考えずに、思いつきで行動したようですね。

でもまぁ、似た者同士でお似合いです。こんな甘ちゃん王子様の面倒を見る必要がなくなったと思えばラッキーかしら。

 私は心良く返答致しました。


「…承知致しました」


 これで退屈な卒業パーティーから抜け出す口実もできて良かったです。

何やら喚ていている第4王子とミリーを無視して退出すると、さっさと家に帰って父に報告いたしました。


「第4王子と婚約破棄しただと!お前が王子を引き留めておかないから他の女に奪われるんだ!第4王子と結婚しないお前なぞ、何の価値もないっ!さっさとこの家から出ていけっ!」


「……承知致しました」 


 家族の冷たい対応は分かっていました。

 可愛げなくて無表情な顔の私なんて、見向きもされません。

 年子の弟の方が、昔から甘え上手で両親に可愛がられていました。 

 成績も優秀で、順調に家督を継ぐでしょう。

 私なんて第4王子に嫁いで、王家との繋がりが結べること以外の価値はない。


 ですので言われた通りに家から出ることにしました。

 部屋に戻って荷物を纏め、服をドレスから動きやすいワンピースに変えます。

 色々と荷物を詰め込んでいたら、夜が明けてしまいました。

 そのまま朝焼けの太陽を拝みつつ、食材を納入する業者の荷馬車に乗せて貰って家を出ます。

 街に着くと恐縮する業者さんにお礼を払い、街を出る荷馬車に乗りました。

 とりあえず国を出るつもりで南へ向かいます。

 私は氷属性の魔法を習得しているので、何とか生きていけると思います。



 ***



 平民として暮らすって大変ですね。

 旅の途中ではトランクを盗もうとした人が、盗難防止用の凍結魔法にかかって手が凍傷になってしまいました。

 危害を加えようと襲ってきた男性たちは残らず氷漬けにしました。

 その後は誰もが恐怖の表情で私を避け、声を掛けてくることはありませんでした。

 今までの人々と変わらない態度ですね。


 無事に国を出ると、冒険者になることにしました。

 魔物は氷魔法の雹や氷柱、氷結を使えば、簡単に倒せます。  

 私は氷魔法しか使えない役立たずでしたが、冒険者には向いていたようです。


 冒険者になるために冒険者ギルドに登録に行くと、居合わせた冒険者たちにヤジを飛ばされました。


「貴族のお嬢様が冒険者になるって?そんなヒラヒラのスカートを履いてかよ。まだ娼婦が来てくれた方が嬉しいぜ!」

「ああ!?冒険者は魔物退治を生業にする仕事だぞ。実力もない奴がここに来るな!」


 ふむ、ワンピースは冒険者には不適切な服装でしたか。

 しかし冒険者は実力があれば、誰でもなれると聞いています。

 難癖をつけられるのも面倒ですし、ここは実力を見せて黙らせましょう。


「分かりました。実力をお見せします。吹雪」


 冒険者ギルド内に白い雪が吹き荒れ、氷点下の気温が冒険者たちを襲いました。


「ひぃいいいいぃーーー!! お、お、俺たちが悪った!この吹雪を止めてくれぇ」


 冒険者たちは凍えて、恐怖の顔に染まっています。食事や飲み物も全部凍っていました。

 問題なく実力を示せたようです。

 先輩冒険者の忠告通りにズボンを履き、服装を変えて冒険者として出発です。

 凍結すれば倒した魔物の品質を落とすことなくギルドに納品できました。

 食堂でワインを冷やして飲んでいると、自分もやって欲しいと頼まれました。

 銅貨3枚で引き受けました。

 ケチだと言う人もいましたが、お金を払って冷やしたお酒を飲んだ人は美味しそうに飲んでいます。

 でも食堂の人に自分たちの食事に勝手に上乗せするなと怒られて、上納金を支払うことになりました。

 他人の店で商売をするのは、不味いようです。

 商業ギルドで登録を済ませると、商売を始めることにしました。

 市場で品落ちした果物を買うと、孤児を雇って潰した果実を凍らせて売りました。

 屋台売りでしたが、好評で売り上げを伸ばしています。

 上納金を要求した食堂はその後いかなくなりましたが、酒を冷やせるサービスを始めたと吹聴した後、できないと知ると客の評判を落としていました。


 何だか貴族の方に目をつけられたようで、街を出て旅に出ることにしました。

 立ち寄った村で魔物退治を求められました。 


「頼む!この村を救ってくれ!魔物が毎日人を攫いに来るんだ!領主に嘆願したが見向きもされない。貧しい村では冒険者を雇うお金もないが出来るだけ払う。あんたしか頼る人はいないんだっ!」


 困窮していてお金も払えない状況でも、村から逃げずに魔物を退治してくれる冒険者を待っていたそうです。

 私はお断りしました。

 すると血も涙もない冷血人間と罵られました。

 これ、私が悪いのでしょうか?村人は近隣の冒険者ギルドに依頼を出したが、誰も来てくれないと愚痴を溢していました。しかし報奨金が低すぎて誰もこんな金額で来てくれませんよ。

 逃げた方がいいですよと言いましたが、村が大事だから逃げないと言います。

 困窮している村に価値を見出せないのですが?領主もそう判断して兵士を派遣しなかったのでしょう。

 色々と固執している人たちで話が通じなようです。

 さっさと通り過ぎることにしました。


 南の暖かい街に辿り着きました。

 近くにダンジョンがあるので、強い冒険者が揃っているそうです。

 南の街で仲間を得ました。

 猫獣人で斥候のマーニャと盾使いのマルクです。私は後方でバンバン氷を飛ばしました。

 暑がりのマーニャが私が売っていたアイスや氷の虜になって誘ってきたそうです。

 私は南の太陽で日焼けしないように、マントを被り、中を冷房していました。

 それが羨ましかったみたいです。

 この街では商売繁盛しました。

 アイスやシャーベットが売れ、ただの氷の塊が売れ、氷魔石が売れました。

 氷屋商会を立ち上げて、倉庫を借りて、倉庫一杯の氷を作り出しました。

 これで私がいない時でも、従業員が氷を取り扱うことが出来るようになりました。

 金銭的余裕もでき、気の合う仲間もできました。

 充実した生活を送っていると、ギルドから指名依頼が来ました。


 生国で火竜が出現して、暴れているそうです。

 氷魔法を操るS級冒険者「氷姫」に退治してほしいそうです。

(「氷姫」は私に付けられたあだ名です)

 うーん、気乗りしないですねぇ。

 今さら生国に恩も義理もないですし、良い思い出もないので行きたくないです。

 しかしマルクが行ってもいいんじゃないかと言いました。


「その国、ロアーナが話していた生国だろ。いい機会だから俺たちと行こうぜ。婚約破棄の時の慰謝料や家族からの虐待の損害補償金を分捕って、火竜討伐の依頼金を吹っ掛けてやろうぜ!色々と復讐するいい機会じゃないか。俺たちも噛ませろよ」

「そーだそーだ!おバカ第4王子とお花畑女を氷漬けにして、毒家族を廃嫡させて、貴族の同窓生たちに吹雪をお見舞いしよう!楽しそうでしょ!」

「フフフ、そうね。そう考えると楽しそうねぇ」


 生国が呼んだのはS級冒険者(英雄)ではなく、復讐者だったみたいですね。 

 生国に向かう道中、どんな復讐方法をしようか三人で考えるのは楽しかったです。




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