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#9 欲望の果てに待つもの

彼女たちは偶然、二人同時に召喚された。

精霊召喚は最初の一回を除き、精霊ではなくアイテムも出現するようになる。

そのため、連続召喚こそは珍しくないが、星5が同時に二人というのは非常に珍しかった。


もちろん、召喚士は大喜びし、彼女たちを歓迎した。


ビアンカ、ノワールの二人は、精霊界でこそ活躍していた精霊であったが、

実際に人間界に召喚されるのは初めてということがあり、

召喚士がもともと召喚していた精霊に人間界やこちらでの制限等、色々な事を教えてもらった。



「なんでも聞いてね!優秀な仲間が増えて、と~っても嬉しい!」



バスケットを持つ女性、星3のアロマリーナだ。

彼女は全体の状態異常回復、全体回復を持ち、チャコほどではないがコストの安いサポーターで、

初心者には最高のパートナーだったと言えよう。


ビアンカ、ノワールの二人は戦闘ではアロマリーナに教わる事こそなかったが、

美味しい食べ物や人間の文化等、人間と生きていく上で大切な事をたくさん学んだ。

彼女たちからすれば初めて姉とも呼べるような存在だった。



「アロマ、次に行く街は何が有名なの?」


「次に行く街は香水が有名ね!私の専売特許なの、ふふん!」


「いつもいい匂いさせてるもんねぇ。いいなぁ。私も欲しいな」


「ビアンカちゃんにも今度調合してあげよっか?」


「いいの~?やった~!」



「……」



和気あいあいと進む精霊たちに反して、召喚士の目つきは鋭く、

眼の下にはクマができていた。



「できない……上級クエストが……攻略できない……ッ」



そう。星3のみだった彼は挑戦していなかったが、星5を二人擁するようになってから、

難しい上級クエストにも挑戦していたのだ。



しかし、結果は火を見るよりも明らかで、いくら星5が二人いるとはいえ、

属性はアロマリーナが風、ビアンカが光、ノワールが闇、

更に限界突破もさせていないため、上級のクエストは普通に攻略が難しいものとなっていた。


彼は今まで蓄えていた貯金をすべて精霊結晶集めに費やしていたため、

どんどん生活が苦しくなっていった。



「じゃ、じゃあ今日もクエストにいってきますね、ご主人様……」



いつしか、彼はただ精霊結晶を使って召喚を行うことだけが目的となり、

日々の路銀稼ぎなどは完全にアロマリーナ達に任せきりになっていた。



「星5、星5を引けば……星5をもっと引けば……僕は……」



彼は精霊結晶を求めるあまり、危険な仕事にも手を出すようになっていった。

精霊たちを使って行商人を襲ったり、危険な薬物を売買する仕事に手を貸し、

その金を全て精霊結晶に使う毎日だ。


次第に星5を召喚できない苛立ちから酒に溺れるようになり、

精霊たちに暴力を振るうようにもなった。



「クソクソクソッ!!!何で!!!何で何でッ!!引けないんだ!!星5が!!!!」


「うっ……やめて、ください……ご主人様ッ」



当然、召喚士と精霊ならば、精霊の方が強い。

もしアロマリーナが本気で反撃すれば、ひ弱な召喚士など一発で黙らせる事ができただろう。

しかし彼女はそうしなかった。

彼女は精霊を、人々を癒すことを使命とする精霊。最初から召喚士に逆らうという選択肢などなかったのだ。


ビアンカとノワールは、暴力を振るわれる事こそなかったが、自分達に良くしてくれたアロマリーナに対しての態度を見て、流石に怒りが抑えられなくなっていた。



「ノワール……流石にあいつ、もう許せないわ、私」


「ビアンカ、気持ちはわかる……でも僕らは、召喚士がいなければ人間界にとどまる事はできないんだよ」


「でも……」



「お困りですか。お嬢さん達」



そこで話しかけてきたのが、金髪の優男――、黒い装束に黒い剣。

警戒態勢を取るビアンカとノワールだが、彼の目から敵意は感じられなかった。



――それと同時刻。別の黒装束の男がクエスト中のアロマリーナに話しかけていた。



「もしや……星5の精霊が出ず、お困りではありませんか?」


「えっ……どうしてその事を!?」


「最近、私たちの界隈で様々なクエストをこなしてくれているお方がいると聞いていまして……、

耳にする機会があったのですよ」


「ええ、その通りなの。あなたは……何か方法を知っているのかしら……?」


「もちろん、我々にかかれば少し特別なルートから……精霊召喚の星を高める事ができるのです」


「本当!?ご主人様に伝えなくちゃ……!」


「お話が早くて助かりますなぁ……きっと貴方のご主人が、欲しいものをお渡しできますよ」




―――もしも、この時アロマリーナがビアンカ達と一緒にいたら、きっとこの話の結末は違っていただろう。

だが、いなかった。それだけが、運命の分かれ目となった。




『精霊解放前線』を名乗る金髪の男から話を聞いたビアンカとノワール。

半信半疑ではあるが、今の主人が異常なのはその通りだ。

自分たちは良くても、せめてアロマリーナの待遇だけでも改善できればと、彼の協力を受け入れた。



「でも貴方は、なんでそんな事をしているの?精霊たちは助かるかもしれないけど……、貴方にとって得はないでしょう?」



ビアンカは当然の疑問を投げかける。



「……そうだなあ。これは俺たちの、贖罪かな」


「……贖罪?」



3人は話しながら、自分の主人が泊っている宿屋に到着する。

すると、宿屋の周りには人だかりができており、宿屋には大きな穴、土煙―――。



「戦闘!?」


「魔物が出たのか……!」



ビアンカとノワールはそれぞれ獲物を構える。

そんな中、金髪の青年は一人、暗い顔をして呟いた。



「……遅かった、か」



そのあと、宿屋の穴から、ぬっ、と彼らの主人が顔を出す。



「ご主人、無事だったの?」


「早くこっちに!ここには魔物が―――」



その手に血まみれのアロマリーナを持って。



「ホシゴ……」



その姿は、もはや彼らの知っている人間ではなかった。

上半身は裸、下半身は完全に別の生き物に成り代わっており、

大きな足は恐竜のよう。そして羽や角も生えており、完全に人としての外見を失っていた。


光を失った目、黒いよだれを垂らしながら、ずっと、「ホシゴ」と言葉にならない言葉を繰り返すばかりだ。



「もうこうなっては元に戻す手段はない。彼をここで止めなければ、さらなる被害が出る」


「……わかったわ」


「ビアンカ、剣士の人、ご主人の相手をお願い、その隙に僕はアロマを取り戻すよ!」


「ええ、お願いノワール……光の加護よ、我が盟友を守り給え!『プロテスオーラ』!」



ノワールの体は光に包まれ、突然速度が上がる。プロテスオーラは味方単体を対象とする能力全体バフ。

さらにノワールは自身のスキルも発動させ、通常とは比にならない強化状態にある。



「とぉっ!」


「ゴアアアッ!」



主人だったものの腕を素早く切り落とし、アロマリーナを救出する。

まだ辛うじて生きているものの、見た目にも瀕死だ。

彼女はあえて休止体になることなく、自らを回復し続け主人をここで食い止めていたのであろう。



「ありがとう、ノワール君!」



金髪の青年はノワールがアロマリーナを助け出すとほぼ同時に、剣を抜き、振り上げていた。



「魔剣ティルヴィングよ……その力を示せッ!!」



青年の持つ剣が輝きを放ち、剣を振り下ろした先に巨大な斬撃を生み出す。


彼らの主人の成れの果て、凶悪な魔物は真っ二つに両断される。



「ホシゴオオオオオオッ!!!」



体を両断されてなお、蠢く恐ろしい魔物。

最初の方は人間だった上半身も、どんどんと異形化、魔物化していき、周囲で見ていた人も怖がって逃げ出している。



「ホシゴ……ホシゴッゴゴゴ……ゴォッ!」


「……とどめは、君の手で刺してあげてほしい。彼もまた、深淵の闇に飲まれたかわいそうな男だ」


「わかったよ……『オプスキュリテ・ラム』」



疾走する黒い斬撃は、見事に成れの果ての頭を破壊した。

どろどろと体は溶け、そこには黒い液体と宝石のみが残る。



「……契約石」


「持っていくといい。契約精霊は主人がいなくても、契約石を持っていればしばらくは人界で活動ができる。

マナの供給に限りができるから、マナ・ポーションでの補給を忘れないようにね」


「ありがとう、助かったよ……その、魔剣の人」


「ああ、俺の事は……そうだな、インペリア、とでも呼んでくれ。君たちは……しばらく、行くところもないだろう。

うちに来ると良い。はぐれ精霊の世話は結構慣れてるんだ」


「うちって……?」


「そうだな……おっと、これだけの騒ぎだ。そろそろ衛兵も来る、続きは場所を変えよう」



そうしてビアンカ、ノワールは瀕死のアロマリーナを連れ、

『インペリア』を名乗る男のアジト、『精霊解放前線』へ向かった。

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