#6 不治の病VSソシャゲ廃人
「クロム様、もしかしてお薬とかの知識もすごいんですか?」
「いやないよ。俺がわかるのは精霊とかの事だけ」
「ええっ?じゃあどうやって……?」
「いや、ここまできたらこれも何かの縁かなと思って」
「なるほど……?」
「まあ、見ててくれ」
「……はい!」
チャコは今までクロムが自分を信頼してくれたこと、
そして彼の指示に従った結果、格上である星3にも勝てたことを思い出す。
きっと何か考えがあるのだろう、そう思った。
「ごめんください、ギルドから派遣されたクロムと申します」
「いらっしゃいませ、ギルドの方から話は聞いております。中で旦那様がお待ちです」
ビエナの町でもひときわ大きなお屋敷があり、メイドがお出迎えしてくれる。
確かにここならポンと1万リブラを出しそうだなあとクロムは感じる。
屋敷の中もきれいな作りになっており、絨毯一枚でも彼らの装備一式全部より高いだろう。
中では裕福を絵にかいたような男性が待っていた。貴族らしいしっかりとした洋服。
少しふくよかだが芯の強そうな目をしている。彼が町長のコルデッロ・グレッジマンだ。
「ようこそいらっしゃいましたクロム様。クエストを受けて頂いたとの事で。
……正直な所、あらゆる医者、教会の方にも来ていただきましたが、
娘の容体は回復しておりません。今回もきっと、難しいとは思います。
それでも何か、何か少しでも進展があればよいと……」
そう語るグレッジマン氏は、やはり町長といっても一人の親なんだなと感じる弱さを見せる。
話しながら一行は、グレッジマン氏の娘がいる部屋に到着する。
「あ……こんにちは、新しいお医者様の方ですか?」
金色の髪に、金色の瞳、グレッジマン氏とは似ても似つかない、
天使のような美少女だ。
「この子はメリエル。私とは血の繋がっていない……所謂養子です。
しかし私はこの子の事を本当に愛している……この子の病が治るなら、金など惜しみません」
「……そう、ですか」
「ねえ、お医者様……私……治るかな?」
そういいながら彼女はせき込む。どうみてもやせ細っており、
これから回復の見込みがあるようにも見えない顔色だった。
「この子、食事は毎日食べてるんですよね?」
「え、ええ……量は多くありませんが……」
「ふむ……」
クロムは彼女を見て、名前を聞いた瞬間―――、ある『確信』をした。
「病気?はわかりませんが……彼女を元気にすることならできますよ。ちょっと時間もらえればですが」
「やはり難しいですか……仕方な……えっ?今、なんと?」
「元気にすることはできる、と……あと病気ではないと思います」
「ええっ?いや、どういう事ですかな!?娘の病気が!?治ると!?」
「いやだから多分病気じゃないんですよこれ、ちょっとその、一日時間ください」
「い、一日と言わず何日でも待ちますよ!!」
「わ、私……元気になれるの?」
近くにいたメイドさんも含めて、ありえない、が、いけるんじゃないか!?
というお祝いムードに変わりつつある。
「クロム様!ほ、本当に大丈夫なんですか!?」
「ああ、他人の空似じゃなけりゃね」
「他人の、空似……?」
「またあの万屋にお世話になるな。あ、グレッジマンさん、少し、調達してほしいものがあるのですが……」
「何でも言ってください!流石にエリクサー等の伝説のアイテムは難しいですが……!」
「町の雑貨屋にあるものでいいんです。それで彼女は元気になります!」
「ほ、本当ですか!」
そうしてクロムは説明を始めた―――。
翌日。
「……して、これを一体、どうするおつもりで……?」
メリエルの部屋に置かれたのは、大量のマナ・ポーションである。
これは精霊たちがスキルを行使した時、補充する事によってスキルリキャストを縮められる。
ターン経過を待たずして強いスキルを連発するために必須のアイテムである。
そもそも精霊たちは体そのものを『マナ』で構成しており、
人間と違って体が破壊されても死なないが、マナがなくなってしまうとこちらに居続ける事が出来ず、精霊界に強制送還されてしまうのだ。
「じゃあメリエルさん、飲めるだけ飲んで」
「……は?」
「これだけあれば十分かなと」
「……召喚士様?メリエルは魔術師ではありません、彼女はマナを使う事なんてほとんどありませんよ。それなのにマナ・ポーションを大量に飲むとは……どういう事ですかな」
「まあ一本とりあえず飲んでみてもらって……それから説明しますよ」
「はあ……メリエル、とりあえず一本だけ……」
「は、はい……お父様」
くぴくぴと小さい口で頑張ってマナ・ポーションを飲むメリエル。
小動物が水を飲んでる姿のようで愛らしい。
「飲みましたが……召喚士殿、これで一体、何が―――」
そう言おうとした瞬間、グレッジマン氏は目を見開く。
明らかに、メリエルの顔色が良くなっているのだ。
こけていた頬もすこし、元に戻っている。
「メリ、エル……?」
「お父様、不思議……私、少し元気になったかも」
「な……!?ど、どういう……」
「もっとマナポーション飲めばもっと元気になりますよ」
「……め、メリエル!がんばれるか!?」
「ええ、だって今回はこれを飲むだけでしょう?今までの治療の方が大変だったわ」
軽口を叩けるくらいにまで回復したメリエルは、どんどんマナポーションの瓶をあけていく。
ちなみに、人間が飲めるマナポーションは魔術を行使していなければ一日3本程度が限界で、許容値を超えると体が拒否反応を起こしてしまう。
メリエルはそんな常識をよそに、4本、5本と次々にマナポーションを空にしていった。
そして10本目を飲み終えたころ―――、
「ぷはーっ!元気いっぱい!」
そこには病弱だったころの面影等かけらもない。
元気はつらつな美少女が誕生していた。
「お父様!私今なら何でもできそう!!」
「メリエル!!よかった、元気になって……おお、召喚士様、私は何とお礼をすればいいか……しかし、何故、この子は……?」
「説明する必要がありますね……私が言ったアイテムは、準備いただきましたか?」
「え、ええ……なんだかよくわからないこの白い石、ロザリオ、スライムの液体等ですよね?」
「そうです。1凸素材ですね」
「へ?」
「さ、メリエルちゃん、これを持って、より強くなりたいと神に願って」
「は、はい……?」
おずおずとごちゃごちゃした素材を受け取り、メリエルは目を瞑る。
すると彼女の体が突然光り出し、彼女の背中から白い翼が生える。
「な、な……!?」
「グレッジマンさん」
「は、はい」
「この子はきっと、捨て子だったんですよね?あなたの家の前に置かれていた」
「何故その事を……」
「思い出したんです。はぐれ精霊っていう存在を」
「はぐれ……精霊?」
神々しい光とともに翼を持ったメリエルは、すっかり姿も変わり、
今では完全なる『天使』そのものだ。
「お父様、私、思い出した……」
「め、メリエル……?」
「私は精霊なの、この土地で、近いうちに良くない事が起きる。
それを防ぐために、この世界に呼ばれた……」
「……彼女の本当の名は、『チアーエンジェル・メリエル』、光属性星5の、精霊です」
「せ、精霊……!?この子が!?」
「俺も最初はわかりませんでした。皆、精霊と人間の区別がついているようだったので……人間と皆が思い込んでるなら、メリエルに似てる他人かな、と。
ただ、名前もメリエルだったし、はぐれ精霊は召喚士がいないから、マナの補充がなければ衰弱するというのを本(設定資料集)で読みました。それで、試してみたんです」
「な、なんと……」
「説明するためだけに凸っちゃいましたけど……大丈夫でしたか?」
「すみません、『とつっちゃう』とは……?」
「あー、上限解放の事です。要はメリエルさんが精霊として一段階成長しました」
「しょ、正直……、驚きが勝ちすぎて、ついていけていません。
ただ、メリエルが元気になった、それだけはわかります。
本当に、本当にありがとうございます……召喚士様……いえ、神様……!」
「いや、天使様を前に神様は言いすぎです!グレッジマンさん!」
「いいえ……私と妻の間には、ずっと子供を授かることがなかった……。
それが原因で、妻とも疎遠になり、残されたこの子が……私にとって最後の希望です。本当に心より感謝します。召喚士様……」
「――ですよね!」
しびれを切らしたかのように、チャコが早口で話始める。
「やっぱりクロム様はすごいんです!的確な指示で、この前も……」
そうして数十分にわたりクロムを賞賛する会が始まり、
その日はグレッジマン亭で夕食をごちそうになり、クロムたちは帰路についた。
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