#5 よろず屋と初クエスト
「いやァ!ありがとうねぇ!普段はああいう厄介なのはこないんだけど、今日は困っててねえ」
「用心棒とかいないんですか?こんなに治安悪いのに……」
「ちょっと用事で出かけててね」
「タイミングが悪い」
「でもあんたらには助かったよ。安くしとくから、ゆっくりみておくれ」
よろず屋の主人である老婆は、快活に笑いながら店を案内してくれる。
クロム達が持ってきた素材も相場よりも高く購入してくれたため、ある程度路銀には余裕ができそうだ。
「……これは!」
クロムは片隅に無造作に置かれた杖を見つける。
「反逆の天秤……!こんな所でお目にかかれるとは!」
「あんたそれ知ってんのかい」
「ああ、ちなみにこれはいくらですか?」
反逆の天秤――入手にはかなり苦労する星5クラスの召喚士用レアアイテムだ。
リレファンでは精霊と別に、召喚士本人も戦闘に参加できる。
もちろんサポートのみで、攻撃対象になることは無い。少なくとも、
元のゲームの話では、だが……。
「これは昔、冒険慣れした召喚士さんが売りに来たんだけどねえ。
まったくもって大したもんじゃなかったみたいで、ずっと売れ残ってる。
あんたが欲しいなら300リブラでいいよ」
「いいんですか!?買った!」
「物好きだねえ……」
リブラはリレファンのお金の単位だ。
だいたい1リブラ100円くらいのイメージである。
アイテムの類は1000リブラ前後が多いので、300リブラは割と破格である。
「あとこっちの風切り羽のマント、風水晶の杖が欲しいんですけど……」
「ほんと珍しいねあんた……どっちもあんまり売れないから安くしとくよ」
「助かります」
風切り羽のマントも召喚士用の装備、これは使う事で精霊のダメージを軽減する事ができる。召喚士の行動は精霊の行動と別で取れるので、ダメージを抑えつつ攻撃したいときに使う。
風水晶の杖は風属性魔術師系のみ使える装備で、かなり限られた精霊が使える装備だ。もちろん他の精霊でも装備はできるが、風属性攻撃1.2倍の恩恵はない。
「すげ~掘り出し物が多くてウキウキしちゃうな……」
「クロム様、この世界に来てから一番目がキラキラしてますね……」
「やっぱこういう瞬間はどんなゲームでも外せないからな……あ、あとこれを……」
そういってクロムが取ったのは可愛らしい髪飾りだ。
綺麗な黄色の花があしらっており、無骨そうなクロムには縁のないものに感じる。
「それも安くしとくよ。この子に似合いそうだしねぇ」
「えっ、わ、私にですか!?」
「お前以外に誰が装備するんだよ。ほら、装備して」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
「?」
クロムは全く理解していないが、可愛らしいアクセサリーを貰って、チャコの顔はちょっぴり赤くなる。
わたわたと自分の髪の毛に着け、鏡の前でニコニコしている。
「まさかランシスフラワーの髪飾りがあるなんてなあ……。最初にここに来れたのは運命だったのかも……」
「売れ残りを買いあさってくれるのは本当ありがたいねえ」
その後も一通り店を探し回って、回復用の汎用アイテム、
携帯食料等、必要なものを購入した。
「いやあ!いい買い物だった!ただちょっと使いすぎたな。適当なクエストでも受けてお金稼ぐか」
「クエストも知ってるんですか?なんか私、案内役のはずなのに何もできていないような……」
さっきまでニコニコだったチャコの顔が曇る。
クロムはこの世界に来てからまだ二日なのだが、知識としてはチャコよりもはるかに詳しい部分がある。リレファンのプレイ時間は1000時間を下らないうえ、設定資料集も読み込んでいるからだ。
「いや、チャコには助けてもらっている。気を落とすな。またわからないことがあったら聞くさ」
「は、はい!何でも聞いてください!」
元気よく返事をする。この元気さこそ、彼女の取り柄なのだろう。
そうこうしているうちにギルドハウスに到着する。
ギルドハウスは活気に満ちており、昼から酒を飲んだりする奴もいる。
クロムは目もくれず、サクサクと掲示板まで歩いて行く。
何故か言葉がわかる事、何故か文字が読めることは今更気にする必要はなさそうだ。
「クエストの受託ですね?」
ギルド受付のお姉さんが話しかけてくれる。
「ええ、ちょっとお金が無くて。簡単そうなのでいいんですけど」
「お金が入る奴ですか……うーん、討伐系は今募集してないので……。
町長からの依頼はありますが、誰も達成できませんでしたし……」
「……その話、詳しく聞かせてもらっていいですか?」
「かまいませんよ?」
そういうと、受付嬢は一枚の紙を取り出す。
「ビエナ町長のグレッジマンさんのところの娘さんが、不治の病にかかってしまっていて……治せるお医者さんか、その情報を募集しています。報酬は1万リブラです」
「1万リブラ!?めちゃくちゃ高額じゃないですか!」
「それだけ町長さんが必死という事ですね……、実際、依頼を受けた冒険者さんは複数いましたが、クエスト成功の知らせはいまだ頂いてませんので……」
「これ、俺でも受けられますか?」
「へ?もちろん受けるだけならできますが……」
「ありがとうございます!申請書の書き方を教えてください」
「は、はい、そっちの机で申請書を記入してもらって……」
そうして、クロムたちの初めてのクエストが始まるのであった。
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