表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/26

#4 限界突破は義務教育

ビエナは特に厳しいチェック等なく、あっさり町に入る事ができた。

なんでもここは王都行きの便が出ている事から、人の出入りが多く、

あまり詳しくチェック等行っていられないとの事だ。


「よし、まずは路銀稼ぎだ。余った素材を売り払って、その後金になりそうなクエストをいくつか受けよう」


「はい!……ってあれ?クロム様、こちらの世界、初めてですよね……?」


「まあ勝手はわかってるから……」



彼からすればビエナの町も軽く100回は見たことがある。

最も、ここまで詳しく見るのはこれが初めてだが、ずんずんと町を進んでいく。



「ここだな」



クロムは見慣れた看板の前で足を止め、よろず屋に入ろうとする――と、中から大きな声がする。



「何だと!?この素材がこんなはした金のワケねぇだろ!目ェついてんのかババァ!!」


男の怒鳴り声だ。震えあがるチャコをよそめに、

クロムはよろず屋に入る。



「すみません、素材を査定してほしいんですが」


「だから言って……ああ!?何だテメェは!今俺がやってんだ!失せろ!」



怒鳴りつける男は身長190cmはありそうな大男だ。

頭はハゲている代わりに茶色いひげをしっかりと蓄えており、

もう少し背が低ければドワーフと思われそうな外見をしている。


隣には明らかに精霊とわかる茶色の虎。

あれは土属性の星3精霊『アース・タイガー』である。


「わかってんのかババァ!?俺は衛兵なんかよりも強い召喚士だ!

その気になればこの店くらい軽く潰せるんだぞ!」


「わ、わかったからやめておくれよ……」


「そうだよ、最初からそうやって素直にしてれば……」


「おいハゲ」


「ぴっ」



「……あ?」



大男は明らかにキレた様子で、クロム達の方を振り返る。

クロムは面倒くさそうに腕を組み、「やっと気づいたか」という顔をしている。

チャコは青白くなってガタガタ震えながらクロムにぴったりとくっついていた。



「今……何か言ったか……?ガキ……」


「ガキではない。もう社会人だ。確かに日本人は童顔に見えるというが……。

邪魔だからさっさとどけハゲと言ったんだ。買値に文句をつけるな。

その程度の素材でイキるな。恥ずかしい。失せろ」


「て……め……えッ!表に出ろ!上等だ!殺してやるよ!!」


「この世界では殺人は罪じゃないのか?まあいいか、わかった、出よう。

ちょっと広めの場所を探すか。そこで喧嘩しよう」


「ほう……ちったあ肝が据わってるようだな。お前、さては俺が召喚士、ゴルド様であるということを知らないな……?」


「ゴルド……聞いたことがないな」



本当に彼には覚えがなかった。

もちろんリレファンの世界には敵召喚士という概念があり、

強力な精霊を連れてくる召喚士は多々いる。

そしてゴルドというハゲの言うとおり、召喚士は大抵の場合一般兵よりも強い。

星3精霊なら一般的な兵士10人分くらいの強さはある。



「この俺様の名前を知らず喧嘩を売ってしまったとは不幸な奴だ。

今なら全財産と両手両足の骨だけで許してやろうか?」


「何故?お前はこれから負けるのに?」


「てッ……め……!!」


「クロム様!煽りすぎでは!?」



チャコはもう先ほどから生きた心地がしていない。

精霊同士はお互いが考えていることを言葉を介せず伝えることができるため、先ほどからアース・タイガーにめちゃくちゃ睨みつけられて、「殺すぞ」という気持ちを感じ取っている。


「まあまあチャコ、あとでわかるよ」


「え、ええ……!?」



そして、町を出てすこしした所で、二人と精霊たちは対峙する――。


でかいハゲ(ゴルド)がランタンをかざすと、火が一つだけ灯る。



「ガハハハッ!てめぇ星1程度でこの俺様に勝つつもりだったのか!?

俺のアース・タイガーは星3!万に一つもお前に勝ち目はねぇよ!!」



「チャコ、何だアレは?」


「え、星詠みのランタンといって、対象の星の数を計るアイテムです。

クロム様、ご存じないんですか?」


「あったな~そんなの……」



クロムは全精霊の星、属性、ステータス(レベルごと)を把握しているので、不要だった。

ちなみにゲームでは名前だけ登場するアイテムである。使うことは無い。



「よくわからんが……『その色』のアース・タイガーでこのチャコに勝てると思っているなら、お前は今すぐ召喚士をやめた方がいいぞ」


「てめぇッ……今すぐその口を塞いでやる……!アース・タイガー!まずは横の雑魚精霊から始末しろ!人間は後でじっくり叩きのめす!」



アース・タイガーがチャコめがけてまっすぐ駆け込んでくる。

戦闘、開始だ―――。



「チャコ、防御だ。杖の耐久値を使っていい。後で買いなおす」


「ええっ?は、はい!」


「『ダブルファング』だ!ブチ殺せ!」


アース・タイガーが爪を大きく振るうと、斬撃がチャコ達を襲う。

チャコはとっさに杖を前に構え、防御陣を展開する。なお、これは精霊なら誰にでもできる防御行動で、ダメージは受けるし、武器を使えば武器の耐久値を犠牲にする。



「ッ……!」



「チッ!耐えやがったか!」



「チャコ、ウィンドⅡ」


「は、ハイ!」



しかしチャコが次の一撃を打つよりも早く――、アース・タイガーの爪による一撃がチャコを襲う。見た目から大きなダメージは負っていないが、確実に体力を削られていく。


「痛いッ……でも、まだ、やれる……荒れ狂う風のマナよ……吹き飛ばせ!『ウィンド』!」



ウィンドⅠもウィンドⅡも、ウィンドⅢも、全て詠唱時は『ウィンド』と唱える。

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ等は、途中の詠唱が異なっている事で判断できる。



「グオオッ!」



強い風の砲撃を受け、壁に叩きつけられるアース・タイガー。

かなりダメージを負っているが、まだ戦う意志は捨てていない。



「やれるな、アース・タイガー!その爪で奴を切り裂いてやれ!

そして回復したらもう一度『ダブルファング』でブチ殺―――」



「チャコ、もう一発だ」


「ハイ!荒れ狂う風のマナよ……吹き飛ばせ!『ウィンド』!!」


「何ッ!?」



この世界の戦いはターン制ではない。

もちろん、先に行動したものから攻撃を行う。それは当然だ。


当然、ゴルドもそうした。クロムがチャコに指示を出すよりも、先に命令したはず―――、



「ギャウッ!!」



アース・タイガーの爪が届く前に、チャコの『ウィンドⅡ』がアースタイガーに命中する。もはやアース・タイガーの体力は完全に削られ、沈黙する。



「な、何で……だ!?」


「何故ってそりゃあ、チャコの方が早かったからだろ」


「ば、馬鹿な!最初は俺の方が先だった!ダブルファングの発動はてめぇらのウィンドの発動よりも早かっただろうが!なのになぜ……!」


「何故……って、お前、体力半減時の隠しペナルティも知らないのか」


「は……?」


「アースタイガー武器なし無凸レベル30、茶兎魔術師2凸レベル50として、

AGIは確かにアースタイガーの方が3早いが、HPが50%以下になった時のAGIペナルティが全体数値の1割だから、4.4減るんだよ。そうしたら茶兎魔術師のAGIが装備無しで1早くなるから、こちらの攻撃行動が先になる。ダブルファングはリキャストが2ターンあるから初手は防御で耐久すればこちらは体力の減少は2割で済むし……。

ていうかそもそも星1と星3という差があるからって無凸はダメだろ。

しかもアース・タイガーは土属性、茶兎魔術師は風属性、ウィンドⅡ一発で装備無しならアースタイガーのHPを51%削れるんだからさあ」


「は、は……?」


「反論がないなら俺の勝ちだが?」



突然早口で捲し立てるクロムに、ゴルドはわけもわからず倒れたアース・タイガーとチャコを見る事しかできない。



「全財産と両手両足の骨だっけ?それで許してやってもいいぞ。

それともあれか?左手の宝石砕けば二度と召喚士になれないんだっけ?やるか?」


「ヒッ……ヒィッ……!」



戦闘で体力を削りきられた精霊は「休止体」という小さい姿に変わる。

休止体になったアース・タイガーを連れ、ゴルドは一目散に逃げ出す。



「もう悪いことはするなよ~」



小さくなっていく大男の背に、軽い感じで声をかけた。



「さ、チャコ、買い物の続きに行くか」


「は、はいっ……」



チャコは自分が勝ったことを――、まだ信じ切れていなかった。

格上の星3を、味方無しで単独で倒したのは、これが初めてであった。



「おつかれ。良く頑張ったな。流石俺の自慢の相棒だ」


「…………あっ、ありがとうございます!えへへ!」



ぱあ、と満面の笑みになる。

彼女の傷は痛々しいものであったが、戦闘が終わるや否やみるみる塞がってゆく。

精霊とはそういうものなのだ。もちろん、体力が完全に回復するまでは時間を要するが。

「ブックマークに追加」や、下部「☆☆☆☆☆」にて評価を頂けると、

モチベーションにつながりますので、宜しければご協力頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ