#25 貴方はきっと今もどこかで
クロムがリレイション・ファンタジアの世界を去り、一年が経過した。
「でやああっ!」
「ふっ!やあっ!」
チャコはクロムが去った後、ビアンカ、ノワールの誘いもあって、しばらく『精霊解放前線』でお世話になっていた。
元々家事全般が得意だったチャコは非常に歓迎された。時間がある時はノワール達に戦闘の稽古をつけてもらっている。
「チャコ、本当に筋が良くなったね。そろそろ僕よりも強くなりそうだ」
「そんな事ありませんよ、まだまだノワールさんには敵いません」
「二人とも~、休憩にしましょう?」
声をかけるのはアロマリーナ、彼女もまた、以前の事件で主人である召喚士を失った一人だ。
「…………」
「浮かない顔をしているね。クロムの事かい」
「え、あ、いや……えっと、顔に出てました?」
「もう一年になるんだっけ……『微精霊』たちからは何かメッセージはないのかい?」
「そうなんです、何も……」
「んじゃあもうクロムはこないんじゃないの~?」
「こら、ビアンカ……!」
気軽に菓子をつまみながら話すビアンカ。
その言葉でまたチャコは暗くなる。
「本当に強くなったのに、性格はあんまり変わってないんだねえ……」
「どっちかというと、彼女はクロムの事になると性格が変わるというか……」
結局クロムの言う通りというか、チャコは1年かけても新たなスキルは覚えられなかった。
しかし、実践的な戦闘術や、旅をする際の心構えなどを完全にマスターし、いっぱしの冒険者として活躍していた。
「でも大丈夫です。私はマナポーションもほとんど飲んでないのに、こうして人界にいられます。
契約者のいないはぐれ精霊はいずれマナ欠如で精霊界に強制送還されますからね。これだけが私の唯一のよりどころ……」
またチャコの顔が暗くなる。
「こんな可愛い子を一年もほっといて何やってるのかなあ。クロムの奴は」
「まあ彼はもともと……こことは全く違う世界から来たって言うし」
「はい、クロム様ならきっと、元の世界でもたくさんの人々を救っているはずです!」
「そういう感じの世界なのかな?」
* * *
場所は変わって、現代、日本。
クロムは久々の連休という事もあり、ソーシャルゲーム、『リレイション・ファンタジア』のやりこみに熱中していた。
「このレア素材、1000週くらいしても揃わないの流石にイカれてるな……。運営にお問い合わせ行くんじゃねえのか?バグか?」
無論彼とてチャコ達の事を忘れたわけではない。
ただ彼としては、自分が呼ばれるタイミングはかなりイレギュラーな世界の危機であり、自分がいる以上またチャコも傷つくという事から、なるべく呼ばれたくはないなと思っていた。
そのため、前回彼が異世界への扉を見つけたような、辺鄙な土地にはなるべく近づかないようにしたのだ。
「あっ、緊急メンテ!?やっぱりバグだったのか?いやでも……こんな表示あったか?
SNSでもメンテナンスなんて話はないが……」
その時、ピンポーン、という音がする。
彼の家のドアチャイムが鳴ったようだ。
「宅配便かな?はーい、今開けます」
ドアを開けると、そこには誰もいない。
いたずらか?と思ったが、そこでクロムの耳にどこか聞きなれた声がする。
―――たすけて
「…………また?」
微精霊、一年ぶりの再会である。
「お前、こんなところにも来れたの?」
よく見るとドアを開けたすぐ先にゲートがつながっている。
家からドアtoドアで異世界に行けるようだ。
―――とくべつたいぐう
「難しい言葉頑張って覚えられて偉いな。じゃあ俺は忙しいから……」
―――たすけてくれないと せかいはもどらない
「は?世界、って……」
彼は手元のスマートフォンを見る。
その画面には『メンテナンス中』の文字が書かれたリレイション・ファンタジア。
「まさか……」
―――あなたのせかいと えんができた
「はーわかったよ……準備するからちょっと待ってろ!前回は非常用グッズさえ持っていけなかったから本当苦労したわ……」
クロムはクロムで、こういう時に備えて『リレファン非常用持ち出し袋』を準備していたのであった。
なんだかんだでやる気は満々なのである。
「今度は何だ?また星1でレイドボスでも倒せってか?」
―――がんばってね
「せめて何をさせるかくらい説明しろ!異世界転移のお約束だろ!?」
クロムの叫びは、扉に入ると共にかき消えていく。
また彼はこれから、見知らぬ土地に飛ばされる―――。
* * *
―――きたにすすんで
「………ッ!!」
それは休憩時間、チャコが一人で道具の手入れをしている時に起こった。
「ノワールさん!」
「なんだい!?」
チャコは一番近いノワールの部屋に向かい、微精霊からの連絡があった事を伝える。
「北に進んで……!?そんなふわっとした情報だけ!?」
「今、私の体が少し反応しました。クロム様がこちらの世界に召喚されたに違いありません!」
「その荷物、もう出発する気なのかい!?」
「はい、最後に皆さんにご挨拶だけでもしていこうかなと」
「気が早すぎる……!」
「話は聞かせてもらったよ」
そこに現れたのは黒装束を着込んだ剣士、インペリアだ。
「クロム君は話に聞いただけだが、どうにも他人には思えない。
捜しに行くならブルー・ワイバーンを使うといい。そして次こそこの精霊解放前線に連れてきてくれ」
「ありがとうございます、インペリアさん」
チャコがごそごそと準備をしていると、ビアンカ、アロマリーナも駆けつける。
「チャコちゃん、もう行っちゃうの?」
「はい、クロム様が戻ってこられましたので!」
「そういうのって、勝手に召喚されるものじゃないのかしら……?」
「いえ、私は召喚済み精霊なので、今クロム様が召喚を行っても私は召喚されません。
なので、実際にこちらから出向く必要があるんです。お二人共も、今日まで本当にありがとうございました!」
二人に話しつつ、てきぱきと準備を進めるチャコ。
彼女の決意は固いようで、今すぐにでも出発しそうだ。
「チャコ、最後にこれだけは言わせてくれ」
「はい?」
「離れていても、僕たちは君の仲間だ。前線の別の支部のメンバーも、きっと君の力になってくれるだろう。
困ったときはいつでも頼ってくれ。今まで本当にありがとう」
「……はいっ!私の方こそ、本当にお世話になりました。身寄りのない私に何から何まで……。またクロム様を捕まえたら、必ず顔を出しますね!」
「ああ!」
チャコはそういうと、ブルー・ワイバーンに乗って飛び立った。
「最後まで元気な子だったねえ~……」
「ああ、あの子はきっと、また大きな事を達成すると思う。僕らも負けてられないね」
* * *
川のせせらぎの音。
水中を泳ぐ大型の魚や動物……いや、魔物たち。
明らかに現代日本とは異なる空気感。「彼」は間違いなく、
自分が『リレイション・ファンタジア』の世界に転移したのだと、すぐに判断する事ができた。
彼はいつものように、ポケットを探ると、そこにはやはり、『精霊結晶』と呼ばれる石が入っていた。
彼は石を掲げ、声高に叫ぶ。
「精霊界との盟約において、我が問に答えよ……。我は導き手、汝の道を示す者なり!」
精霊結晶は光り輝き、その瞬間、地面に召喚陣が描かれる。
またここから、彼の新たな冒険が始まるのだ。
これにて『星の数で強さを語るな ~廃人ゲーマー、ソシャゲの世界で最弱の星1精霊で無双してみた~』は完結となります。
続けられるか不安だった毎日更新を達成でき、ホッとしております。
今のところ続きを書くことは考えておりませんが、また別作品の合間などに、おまけ程度のサブエピソードなども書ければいいな、と思っております。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
もしよければ感想など頂けると、励みになります。それではまたいつか、別の作品でお会いしましょう!