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#24 さようなら、リレイション・ファンタジア

カースド・トレントの討伐後、酒場にて宴会が行われた。

ミレイス、バルザ他、行方不明だった人達も参加し、酒場を貸し切って行われた。


クロムはここまでの旅路を振り返り、やっと一息つけるなと椅子に座りなおした。





―――ありがとう




どこかから声がする。外から聞こえたような気がする。


クロムは酒場を出て、声がした方向に向かう。




「そこにいるのか?」



誰もいない。ただ気配はする。そして小さな光が瞬いている。





―――ありがとう たすけてくれて




「聞きたいことはいっぱいある。この世界の住民じゃなく、どうして俺を選んだんだ」




―――あなたしかいなかった



「俺しか……?」




―――ちいさなうさぎのパートナー あなたならきっと




「……ああ、そういう事か」




チャコの『月下の激昂』は本家リレイション・ファンタジアにも実装されているスキルだ。

そして彼女のそのスキルと、複数のアイテムを活用し、チャコ単体でのカースド・トレント討伐を初めて達成したのがクロムだ。


実はクロムは、チャコには並々ならぬ思い入れがある。

初めてリレイション・ファンタジアをプレイした時、彼女のキャラクターストーリーを読んで心を打たれ、

どん底だった人生を挽回しようと一念発起した。


それ以後、彼はチャコを使ったあらゆる攻略動画を出し、界隈では『茶兎魔術師の人』と呼ばれるに至っている。

クロムがチャコに対しそういう態度を見せなかったのは、自分がこの世界の人間ではない事等、色々複雑な感情があった。



「これは……」



クロムの目の前に、扉サイズの先が見えない空間が出現する。




―――ありがとう またきてね




「もうこれで最後にしてくれよ。俺だって生活があるんだから……」




―――またよぶね



「拒否権はない感じか……」




クロムが扉を通ろうとした時、後ろから声がかけられる。




「クロム様!」




チャコだ。息を切らしており、汗をかいている。




「どうした、チャコ。もう食事は済んだのか?」


「いえ、クロム様の姿がなかったので、探しに……」


「そうか。それは悪い事をしたな。俺はそろそろ行くから、お前も達者でな」


「え……?」



チャコは信じられないものを見るような顔をする。



「く、クロム様……どういう事ですか?行くって、わ、私も一緒ですよね?次は、どこへ行くんですか?王都への定期便がもうすぐ―――」


「チャコ」



優しく、それでいて次の言葉を遮るように名前を呼ぶ。




「俺の役目は終わったんだ。元々この世界の住人じゃない。俺にも元の生活がある。だからお前とはここで、お別れだ」


「え……そん……、い……嫌です!」


「嫌ですじゃなくて……」


「嫌です嫌です!絶対嫌です!ずっとクロム様と一緒に」


「チャコ」


「う……!」



半泣きになりながらクロムの服をつかむチャコ。

クロムはゆっくりと振りほどく。




「精霊契約はそういうものだ。俺が異世界から来ていなくても、契約が終わればいつか別れは来るんだ」


「そんな……」



チャコの目からは涙がにじみ始めていた。



「もう……」


「ん?」


「もう二度と、会えないんですか?」



チャコの目からは涙があふれ、服を濡らしている。



「いやそんな事ないよ」


「え!?」


「微精霊っていうのかな、『また呼ぶ』って言ってたし、俺だったら攻略できるようなクソ難易度の世界の危機が来たらまた呼ばれるよ」


「そ、そうなんですか……?」


「だからチャコ、これはお別れではあるけど……俺たちはまたどっかで再会することなる。今生の別れじゃない」


「……」



チャコの涙は止まらないが、彼女の表情は変わっている。

服の裾をぎゅっと握りしめる。



「強く、なります」


「ん?」


「クロム様がまたこちらの世界に来た時、また私を頼って頂けるように、強くなります」


「精霊としてのレベル解放以上の成長は流石に……」


「いいえ!」



チャコにしては珍しく声が大きい。

彼女なりの決意の表れなのだろうか。



「私はきっと、貴方が知らないくらい、強くなってみせます」



涙は止まっていないものの、その眼はもう先を見据えている。


クロムはチャコのそんな表情を見て安心して、扉をくぐろうとする。



「クロム様」


「……ああ」



チャコから差し出された手を握り返す。

精霊とはいえ、小さくて可愛らしい手だ。

彼女は思えばこんな小さな体で星5達とやりあってきたのだ。



「よく頑張った。また会おう」


「…………!」



クロムが軽く頭を撫でてやると、チャコがクロムに抱き着き、

その腹のあたりに顔を埋める。


ずびずびと鼻をすする音が聞こえる。

格好よく宣言したはいいが、彼女はまだまだ心の整理はついていないようだ。



「チャコ、そろそろ」


「もうぢょっどだけ……」



鼻声で延長を要求する。扉はまだ閉まる様子はないので、そこまで急いではいないが……。

あまり長い間こうしているのもよくない気がする。


クロムは少し強い力でチャコを引き離……せない!精霊の力は思ったより強い!



「…………」


「チャコ?チャコ!?服が破れる!お前そんな力強かったの!?」


「あと五分だけ……」


「お前そう言って20分くらい続ける気だろ!離しなさい!さっきまでのいい雰囲気はどうした!?」


「だって寂しいんですよぉ……もっとお話ししたいし遊びたい……」


「わかった、わかったから、また戻ってきたら遊んでやるから」


「絶対ですよ!?約束ですよ!?」



その後もチャコとの押し問答は10分程度続いた。

ちなみに、二人が戻ってこない事を心配したビアンカも様子を見に来ていたが、

遠めから二人を見つけ「はは~ん……?」とつぶやき、酒場へ戻っていった。



「達者でな、チャコ」


「はい!クロム様もお元気で!」



こんなさわやかなセリフを吐いているが、チャコの目はめちゃくちゃ泣きはらしているし、

クロムの服にはめちゃくちゃチャコの涙と鼻水が付いている。


ずっと手を振り続けるチャコに見送られながら、クロムは扉の向こうへ足を踏み入れる。





さようなら、リレイション・ファンタジア。





クロムが通り抜けると、扉はすっと消え、そこにはチャコだけが残された。

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