#22 星の数で強さを語るな
チャコの首から下げていた、青い宝石が突然輝き始める。
宝石は一層強い輝きを放ったかと思うと、その輝きがチャコに吸い込まれていく。
意識を回復したクロムはそのチャコを見て、少し微笑んだ。
そして、突然全員の傷が完全に回復し、体力が戻る。
森の奥から、彼らの想定していない来訪者の姿があった。
「はぁ、はぁ……間に合った!」
「メリエル!」
彼女はメリエル。以前、グレッジマン家でであった病弱な少女で、
不治の病にかかっていると思われていたが、実ははぐれ精霊であることが発覚し、
マナの欠如で存在を保てなくなりそうになっていた。
それに気づいたクロムはマナ・ポーションを大量に摂取させることでメリエルを回復させ、
彼女は元気になったのであった。
ビアンカは彼女と、彼女を乗せるグリーンワイバーンが何故来たのかわかっていなかったが、
横で不敵に笑うクロムをみて「あ~また何か仕組んでたのか……」と納得した。
「ああ、俺が一応……呼んでおいたんだ」
クロムは出発前、衛兵達に手紙を渡していた。
それはグレッジマン氏に宛てたものであり、星5精霊であるメリエルの協力を仰ぎたいというものだった。
最初、グレッジマン氏はそんな危険なところにメリエルを行かせるわけには行かないと猛反対。
しかし彼女は精霊としてのすさまじい腕力をみせつけ、グレッジマン氏を説得。手紙の通り、
よろず屋で事情を話し、グリーンワイバーンを借りてここまで飛んできたというわけだ。
クロム達が全回復したのはメリエルのスキル『セイントピュアリフレッシュ』の効果で、
彼女のみが使える特殊なスキルである。弱体効果の解除、弱体耐性の付与、HPの回復に加え、戦闘中に一度だけスキルコストも全回復できる。
元気になったチャコ達は、改めてカースド・トレントに向き直る。
だがカースド・トレントも諦めてはいない。蔓の連打による攻撃を再開する。
『舐めるな!少し体力が回復した程度で、この私の攻撃を――』
「―――しゃらくさい!」
しかし、カースド・トレントの攻撃はチャコには当たらない。
寸前のところでチャコは蔓を弾き飛ばす。
『何……だと!?』
いつの間にか彼女の手に装備されているメイス、あれこそが最終解放の証、『ラビット・スマッシャー』だ。
『茶兎魔術師』のみが装備可能なアイテムで、常に攻撃力が倍になる。
「あああああああっ!!!」
チャコは雄たけびを上げながら襲い掛かる蔓を弾き飛ばし、
トレントの本体に到達、その幹を破壊し始める。
カースド・トレントの攻撃はチャコに届く前に叩き落とされる。
一発も攻撃が当たらない事を狼狽するカースド・トレント。
すべての蔓を集約して攻撃を始めるも、チャコはそのすべてを弾き飛ばす。
「あ、あれ……チャコさんは、どうなってるんですか?」
クロム達の元にたどり着いたメリエルがびくびくしながら問いかける。
「あれが、チャコの最終解放スキル『月下の激昂』だよ。自分自身に回避と、回避時にカウンター攻撃を行う。
そして攻撃成功時に自分の攻撃力を累積加算するバフを付与する」
「ああいうスキルって、ずっと続かないんじゃないの?なんでチャコちゃんはトレントの攻撃を全て躱せるの?」
「簡単だ、何度も発動してるからだ」
「へ?」
ビアンカはスキルについてはある程度知っているはずだったが、長時間の完全回避・カウンタースキルなど見たことがない。
「『月下の激昂』は発動ターンを含め2ターンの間、相手の攻撃を回避し、回避時にカウンターで通常攻撃を行う。
チャコのスキルコストは最大50、『月下の激昂』は全スキルコストを消費するが……」
クロムの説明中も、チャコはカースド・トレントへの殴打を繰り返す。
何度も繰り出される蔓の攻撃は、その全てがチャコに届かない。
HP50%を切った時、カースド・トレントは特殊攻撃である『大地の奔流』を行う。
特殊攻撃は全体に大ダメージを与える代わりに、使用後しばらくチャージ技である『カースド・フィア・ドミネーション』が使えなくなるというデメリットがある。
それ故トレントは、通常攻撃をせざるを得ないのだ。
「でりゃあああっ!」
鬼気迫る表情でトレントを殴り続けるチャコ。
クロムは冷静にメリエル達に説明を続ける。
「『月下の激昂』はAGIに関わらず必ず先手で発動できる。使用ターンにもカースド・トレントの攻撃があるから、
それを回避して通常攻撃。次のターンにカースド・トレントの通常攻撃、自分の通常攻撃がある。これで30スキルコストを回復できる。
本来ならこれが限界の数値だが……、あいつのつけている『ランシスフラワーの髪飾り』は毎ターン5、スキルコストを回復できる」
「それでも合計は40だから、チャコさんの次の攻撃までにスキルの発動は間に合わないんじゃないんですか?」
「そこでお前だ、メリエル」
「私!?」
メリエルは目をぱちくりさせる。
「チア―エンジェル・メリエルのパッシブスキル、『チアフルエール』は本人がいるだけで常時発動する。
その効果は『毎ターンHP、スキルコストを10%回復する』というもので、実際、ビアンカもスキルが使いやすいと感じているはずだ」
「そういえば……」
「私が来たからチャコさんの回復量は2ターンで50……!『月下の激昂』の効力が切れるたびに再使用しているということですか!」
「理解が早いな」
チャコはひたすらカースド・トレントを殴り続ける。
その勢いはさらに増し、カースド・トレントはチャコ以外への攻撃を行う余裕さえなくなる。
『ぐおおおおおっ……おのれ、おのれ……!星1ごときが、この我を追い詰めるだと……!?』
「星の数で、強さを語るなッ!!」
荒々しいチャコの姿に驚くノワール達だったが、
クロムは全くの逆。穏やかな表情でチャコを見つめていた。
「それでこそ、俺のパートナーだよ」
トレントのHPがもう残り僅かとなった時、トレントはまた周囲の魔物、人からマナを吸収し始める。
今までよりも本気なのか、その時間は長い。
激しい乱打を続けるチャコは、その様子に気づくことはないが――、
「チャコ!戻れ!」
「……はいっ!」
クロムの言葉には俊敏に反応し、攻撃を停止、ウィンドを使って器用にクロム達の近くまで戻る。
クロムはすぐさまチャコに近づき、チャコを突き飛ばす。
「えっ……!?」
「ここからは俺に任せろ」
カースド・トレントの『カースド・フィア・ドミネーション』が、クロムに襲い掛かる。
突き飛ばされたチャコは茫然とそれを見ることしかできない。
「……クロム様!」
『チッ……厄介な召喚士め……邪魔だてをするのであれば……まずは貴様から報いを受けるがよい!』
クロムは倒れ、動かない。
チャコはそれを見て、激しく動揺するも、クロムが自分をかばってくれた事に気が付き、
トレントへの攻撃を再開する。
「クロム様が時間を作ってくれた……!その想いを無駄にはしません……!カースド・トレント!貴方はここで討伐します!」
『ほざけ!星1ごときの矮小な精霊が!貴様もあの主人と同じように、絶望の底に叩き落してくれようぞ……!』
チャコが再びトレントに迫り、トレントもチャコを敵と認め、全力での攻撃を開始しようとした。
蔓がしなり、チャコに向かおうとするが――。
『あ……が……』
突如、その攻撃は停止。トレントから闇のオーラが噴き出す。
チャコは警戒し距離を取る。
バキバキ、ビシビシという音がトレントから発せられる。
今までにない兆候に、一同は動揺し、次の行動までの一手が止まる。
クロムから聞いていたカースド・トレントの行動に、こんなものはなかった。
クロムすら知らない、未知の攻撃という事か。
しかしながら様子がおかしく、トレントは力をため込んでいる様子もない。
それどころか、自らにため込んだマナが漏れ出ているようにも見える。
「もしかして……」
明らかに様子がおかしいトレント。
彼はその直前に何をしたか。それを思い出し、チャコはクロムの方を見る。
遠くからはよく見えないが、倒れているクロムの顔は、不敵に笑っているように見えた。
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