#21 決戦、カースド・トレント
発狂していたアンデルを倒したクロム一行。
一旦アンデルを外に放ってからカースド・トレントと戦いに向かいたい所だったが、
向こうはどうやらそれを許してくれないらしい。
「まずいな……近づけば近づくほど、攻撃が激化してくるのか」
最初は一本の蔓で攻撃してきたカースド・トレントだったが、本体が見える位置まで近づいていくと、蔓の本数が二本、三本と増えていく。
クロム達はエメラルドスフィアドラゴンを駆り、『ウィンドⅤ』で森を破壊しながら進むも、
カースド・トレントの蔓攻撃のみはウィンドを避けてクロム達に襲い掛かってくる。
「くそっ!これどれだけ増えるんだ!?」
「カースド・トレントの蔓は全体攻撃だ、俺たちのパーティが何人いようと、
最終的には全員に1ヒット以上与える数で殴ってくる」
「む、無限って事ですか!?」
「無限ではない、流石に」
ノワール、ビアンカ、クロム、チャコ。
エメラルドスフィアドラゴンに乗っている全員が蔓を頑張って弾いているが、
少しずつ手数で負けてゆく。
4人が上で戦っているために素早く回避することができず、エメラルドスフィアドラゴンのダメージが蓄積していく。
何とか攻撃を潜り抜け――、カースド・トレントのそびえたつ広場まで到着する。
『愚かな人間どもよ……死よりも恐ろしい苦痛を味わうがいい』
カースド・トレントの周囲には捕らわれた人々の姿が。
流石にこの場所では『ウィンドⅤ』は使えない。
カースド・トレントが周囲の人、魔物からマナを吸い取る―――。
「まずい!エメラルド!避けろ!」
「グオッ……!」
四人はエメラルドスフィアドラゴンにしっかりと捕まり、エメラルドスフィアドラゴンは急速で旋回、回避する。
これだけ激しい動きをして振り落とされないのも、彼女らが精霊であるが故だ。クロムはソシャゲ廃人なので何とかなった。
「カースド・トレント。あいつのチャージ攻撃『カースド・フィア・ドミネーション』は5ターンに一回、
チャージを行ってから放つ状態異常付与だ。『根源の恐怖』は攻撃対象の記憶を読み取った上で、
最も苦痛を感じる恐怖を無限に再現して相手を発狂状態にする。固有デバフだから回避以外の防御手段・回復手段がほぼない」
「めちゃくちゃ強いじゃないか!?」
「俺のいた世界ではもっとえげつないインフレがあったから完封できたが……、現状戦力だと当たらない以外の対策がないな。頑張ってくれ!」
「人任せなのかい!?」
広場でエメラルドスフィアドラゴンから降り立ち、クロムは作戦を説明する。
「エメラルドは常に空中で蔓の攻撃を避けながら、通常攻撃と固有バフ、『深緑の輝き』を使ってくれ。
あいつは全体攻撃だから俺たち全員に同時攻撃できるとはいえ、地上と空中から攻められるのは単純にしんどいはずだ」
「グオッ!」
「ノワール、チャコは前衛として、俺とビアンカの支援を受けながらひたすら殴ってくれ。
あいつはレイドバトル用のボスだから、ほかの魔物とはHPの桁が違う。長期戦になるが、
『カースド・フィア・ドミネーション』を受けないように気を付けてくれ」
「あれは気合で躱せるものなのかい?」
「予兆さえあれば俺のアイテムで躱すくらいはできるはずだ」
「わかりました!」
「クロム、さっそく攻撃来てるよ~」
「うわ早、じゃあ行くぞ!」
そういうと4人は散らばり、それぞれの攻撃を開始する。
ビアンカの『プロテスオーラ』は味方全体のバフであり、チャコにも効果はある。
さらにビアンカは相手の攻撃力・防御力・素早さを下げる『ネガティブペイン』も使える。
マナポーションを飲みながらスキルを連打し、カースド・トレントのステータスを下げながら、
ノワール、チャコ、エメラルドスフィアドラゴンのステータスを上げる。
ついでにクロムのステータスも上がったようだ。彼はいつもより体が軽くなるのを感じる。
『愚かな……我に楯突くか』
カースド・トレントの攻撃はさらに激しさを増す。
全員に対しての攻撃であるが、ノワールには味方をかばうスキルである、『ノーブル・プロテクション』が使えるため、
チャコやビアンカ、クロム達へ向かう攻撃も捌いていく。
「くっそ!流石に手数が多い……!」
「す、すみません~!」
チャコも『ウィンド』を使いながらぺちぺちと殴っているが、カースド・トレントの体力はあまり減っていない。
「まずいな、ジリ貧か……だが、そろそろいいだろう。『反逆の天秤』よ――!」
クロムが反逆の天秤を掲げると、暗雲が立ち込め、強大な黒い雷撃がカースド・トレントを襲う!
『ぐおおっ……!?』
反逆の天秤は相手とのステータス差がそのまま火力になる武器である。
星1のチャコと、本来なら数十人で倒すことを想定されているレイドボスであるカースド・トレントとの差はすさまじい。
流石のカースド・トレントもダメージを隠し切れないようだ。
「やった!」
「流石クロム様!」
倒すことは不可能かと思われたカースド・トレントだが、この調子なら時間をかければ倒しきることができる。
そう思った瞬間―――クロムが叫ぶ。
「全員!防御態勢を取れ!!」
「えっ?」
突如地面が赤く光り、すさまじいマナの奔流によって精霊達は大きなダメージを受ける。
ノワールはチャコをかばうことは間に合ったが、流石にビアンカ、クロム達は間に合わない。
「がっ……は!」
飛んでいたエメラルドスフィアドラゴンにも到達するすさまじいスキル。
これがカースド・トレントのHPが半分を切った時に発動する、『特殊技』だ。
クロムが想定していたHPと、実際のカースド・トレントのHPが違ったため、彼はこの発動を読み切れなかった。
「……ビアンカ!クロム!!」
ノワールは深手を負っているものの、まだ戦える余裕がある。
しかし、ビアンカ、クロムは完全に倒れており、この距離からでは生きているかもわからない。
エメラルドスフィアドラゴンも地面に落とされ、大きなダメージを負ってしまっている。
「く、クロム様……?」
クロムは動かない。
『ハハハハハハ!愚かな人間どもよ……!神であるこの我に、歯向かおうとするからだ……!』
チャコはクロムに駆け寄る。
「クロム様!?大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
クロム、ビアンカともに息はしている。
ビアンカは意識があり、立ち上がることもできそうだ。
しかしクロムは傷も深く、出血している。チャコはヒールを使用し、クロムの傷を塞ぐ。
『脆弱なる者どもよ、愚行の報いを受けるがよい!』
「ぐっ……!」
激化する蔓の攻撃を、ノワールは気合で捌いていく。しかしバフの効力も切れ始めており、
少しずつ押されていく。
『ハハハッ!所詮この程度か!特に――そこの兎の魔術師、貴様は星1だろう』
カースド・トレントの『カースド・フィア・ドミネーション』は攻撃対象の記憶を読み取る。
ミレイス、バルザの記憶を読み取っているため、チャコやクロムの事を知っていたのだ。
『星1ごときの脆弱な精霊を持ってしまうとはな、情けない召喚士もいたものだ!ハハハハッ!!』
カースド・トレントは高笑いする。
クロム、ビアンカを回復したチャコは、無言でゆっくりと立ち上がる。
「……しろ」
『んん?何か発言したのか?矮小な存在過ぎて――、我の耳には届かんな』
「……撤回しろと言ったんです!!今の言葉を!!」
瞬間、チャコの首から下げていた、青い宝石が輝きはじめた。
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