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#18 チャコと遊ぼう

バルザ、ミレイス達が『宵闇の森』の攻略に向かったその日、クロムは大真面目な顔でチャコに告げる――。



「チャコ」


「は、はい!」


「遊びに行くぞ!」


「はい!?」



* * *



「えー今日はチャコに似合いそうな服を探したり……、チャコが好きそうなものを食べ歩きしたりしたいと思う」



本日はビアンカ、ノワールとは別行動だ。


チャコはいつもと違いすぎるクロムの様子に目を丸くしており、

とりあえず挙手をする。


「クロム様」


「はいチャコさん、どうぞ」


「その……今日は一体、何を……?」


「絆上げだ」


「絆上げ」



手近な喫茶店に入り、クロムは説明を続ける。



「チャコには最終まで解放するための素材については話したよな?」


「はい。グリーンコア300、純粋な雫50、風のオーブ30、緑龍の鱗5、絆の結晶1、ですよね?」


「よく覚えてるな~~!偉いぞ!」


「えへへ……」



よしよしと頭を撫でられふにゃりとした笑顔を見せるチャコ。



「集めた素材はわかるか?」


「はいもちろん!絆の結晶以外の全てですよね?」


「その通り!流石だ!」


「えへへへへ~~!」



ふにゃふにゃしすぎて若干とろけているチャコを、

クロムは真面目な表情で元に戻す。



「そこで最後の『絆の結晶』を手に入れる必要があるんだ。チャコはこれについての入手方法は知っているか?」


「ええと……名前は知っています。そもそも私たちはそれを手に入れるのが目的というか……」


「そうか、精霊の中ではそういう認識だったよな……」



さて、今回に至るまで全く触れてこなかったが、そもそも『リレイション・ファンタジア』とはどういうゲームなのか。

もちろんここまでに説明した通り、精霊と召喚士で戦うソーシャルゲームなのだが、その世界観もしっかりと設定されている。


『リレイション・ファンタジア』の世界は『精霊界』『人界』『深淵界』の三つの世界で構成されている。

人界は精霊界と深淵界のちょうど中間に存在し、深淵界に棲む通称『深淵の者ども』は、

人界を足掛かりにし、精霊界に存在する膨大なマナの結晶、『ピュアクリスタル』を手に入れようとしている。

精霊界のほとんどのマナを生産し、人界と精霊界をつなぐ『ゲート』の生成に使われるピュアクリスタルが奪われれば、

精霊界に住むほとんどの精霊たちは生きていけなくなるだろう。


そこで精霊たちは、人界に住む召喚士としての才能を持つもの達に、『深淵の者ども』の排除を協力してもらう代わりに、人間にその精霊の強大な力を貸し出す契約を行っている。

そして精霊はそこで絆を深め、自らの限界を突破する事によってさらに強くなることができるのだ。


人間としては手軽に強大な力を行使できるし、精霊は人界で深淵の者どもを止める事ができるので、

お互いにとって良い契約という訳だ。


その精霊たちの最終到達点こそが、『絆の結晶』である。


絆の結晶を得た精霊たちは自らの真の力を引き出す事ができ、

精霊によっては新たなスキルを取得する、『最終解放』を行うことができる。

精霊界は全ての精霊達の力を高めさせることによって、いずれ来る深淵界との戦争に備えようとしているのだ。



「……で、この絆の結晶なんだが、文字通り、召喚士との絆を完全に深めた状態でないと手に入らない」


「ま、まだ十分ではないということですか!?」


「ああ、俺たちはこんなに仲良しだというのに……まだ足りないものがあるようだ。

今回はそれを探るべく、チャコと仲を深めていきたいと思う」


「………はいっ!」



チャコとしては、決戦に備えるのであれば、魔術や戦闘の訓練をしたり、

魔道具について教えてもらった方が効率が良いのでは?という考えも頭に過ったが、

単純にクロムと一緒に遊べるのが嬉しすぎてそれらの思考は一瞬でポイした。



「じゃあチャコ、教えてほしいんだが、お前は普段暇な時とかどうやって遊んでる?」


「暇な時……遊ぶ……?」


「チャコ?目が濁ってるぞ?チャコ?」



チャコは今までずっと最弱星1としてあらゆるパーティで虐げられており、

暇な時間は写本の内職をしたり、一人で薬草狩りのクエストで路銀を稼いだり、

魔術の本を買ってウィンド以外が習得できないか練習していた。


―――そのため、暇だから遊ぶという、発想がそもそもなかった!



「……チャコ、今日は気が済むまで遊ぼうな」


「は、はい!よろしくお願いします!」




* * *




まずは王道、服屋だ。



「いらっしゃいませ~おや、かわいらしいお嬢さんですね。妹さんですか?」


「俺の大切なパートナ―です」


「!?」


「な、なるほど……!ごゆっくりお楽しみください!」



何かとてつもない誤解を与えた気がするが、気にせずクロムは店内を進んでいく。



「こういう店って試着できるのかな?チャコ、どういう服が好みだ?」


「あ、はい!そうですね!」


「そうですね?」



チャコは先ほどの「俺の大切なパートナーです」の一言の衝撃がでかすぎて、

そのあとの言葉があまり入ってこなかった。


クロムはというと服選び中に色々とスキル持ちの装飾品などを見つけてしまい、

ウキウキになっている。


「すごいぞチャコ!この店、反逆シリーズの装飾品がある!あ、こっちは疾風の靴!掘り出し物じゃないか!」


「ふふふ……」



チャコを楽しませるために来たはずが、すっかり自分だけ楽しんでしまい、

クロムはばつの悪そうな表情をする。



「は、すまんチャコ……つい」


「ふふっ……いいんですよクロム様。私は、貴方が楽しんでる姿を見るのが一番楽しいです」


「そ、そうなのか……?」



そう言うチャコは、何気に今日一番の笑顔である。チャコは星1最弱のイメージが先行しているが、

『リレイション・ファンタジア』では意外とファンが多い。

全体的に庇護欲をそそる小柄な体躯、常に困ったようなたれ目と下がり眉、ぷにぷにとした質感を感じられる口。

その小動物のような可愛さが刺さり、弱いながらもメインキャラとして攻略に使うユーザーも少なくない。


クロムは改めて、チャコの可愛さを再認識した。



「クロム様?どうかされました?」


「……いや、何でもない。じゃあ、次に行こうか!」


「はい!」



* * *


次に訪れたのは露店だ。

ビエナは流石港町というか、こういった露店の品ぞろえは非常によく、地方にはない新鮮な食材がたくさんそろっている。



「らっしゃい!いいのが揃ってるよ!」


「じゃあこのりんごもらえますか?」


「りんご!?」


「毎度!はっはっは、いい反応してくれるねえ嬢ちゃん」


「はっ……すみません……」



クロムは台を借りて簡単にリンゴを小さいサイズに切り分け、チャコに手渡す。



「わぁい……!」


「チャコはスイーツとかよりもこっちの方が好きかと思ってな」


「大好きです!よくご存じですね!」



リレイション・ファンタジアではチャコが好物のリンゴを食べるシーンもキャラクターストーリーとして収録されている。

クロムは当然そのことも覚えていた。実はチャコは肉類が苦手で、基本的には野菜か果物、穀物しか食べない。


ベンチに座り、のんびりとりんごを食べる二人だったが、チャコはふと、暗い表情をする。



「……何か、考え事か?」


「クロム様、やっぱり……、今からでも宵闇の森に……行きませんか?」


「今から?」


「はい。もちろん、バルザさんも、ミレイスさんもとても強いのは理解しています。

ですが……、クロム様がいないというだけで、私はとても不安になるのです」


「おいおい、それを言ったらこの世界じゃ俺がいないと生きていけないみたいじゃないか。

流石に大丈夫だって、バルザはもちろん、今回は星5の魔術師も同行してくれると聞いている。

俺たちが行っても足手まといになるだけだ」



チャコは膝の上で手をぎゅっと握りしめ、うつむく。



「そう……ですよね」



きっとチャコは、ここまでしても絆の結晶が出ないことを気に病んでいるのだろう。

クロムは何とかチャコに慰めの言葉をかけようとするが、良い言葉が思いつかない。


その時、町の入り口の方から強い風が吹く。



「この風は……」


「バルザさんのエメラルドスフィアドラゴンです……!」



エメラルドスフィアドラゴンは数人の人間を載せて帰ってきたようだ。

想定するよりも早い帰還に、クロムはホッとしたが、チャコの表情はまだ暗い。



「ほら、無事だっただろ?チャコ……、チャコ?」


「……きこえる」


「何がだ?」


「エメラルドスフィアドラゴンの声が聞こえます!私に、『助けてくれ』と!」


「なんだと!?」



チャコはエメラルドスフィアドラゴンが降り立った方向に走りだす。

クロムはそれについていく。精霊の走る速度に付いていけるのも、彼がソシャゲ廃人であるからだ。



* * *



「ミレイスさん!バルザさん!」



チャコが息を切らしてエメラルドスフィアドラゴンまでたどり着くと、

そこには傷ついたバルザ、ミレイスらの姿があった。

ミレイスに至っては意識が無いようで、体から黒いオーラをまき散らしている。

レッドサラマンダーはかなりの傷を負っているが、まだ休止体にはなっていない。最後まで主人を守って戦ったのだろう。



「ぐっ……このオーラ」


「二人とも、あんまり近づかねえほうがいい、ぞ……」



バルザも同じく黒いオーラを纏っているが、まだ正気を保っているようだ。

しかしその表情は深刻そのものであり、意識を保つのが精一杯のようにも見える。



「何があったんですか」


「お、おう……敵はてめえの言った通りだった……。蔓を使った打撃攻撃、そして俺たちに使ってきたこの呪い……、『カースド・トレント』だ」


「やはり……」




バルザは『宵闇の森』での出来事について語り始めた――。

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