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#17 突撃騎士系女子、学びを得る

ミレイスのレッドサラマンダーと、クロムのチャコによる模擬戦―――、


本来であれば火属性の『ファイアブレス』は風属性のチャコの弱点のはず。

しかしながらレッドサラマンダーの『ファイアブレス』をまともに受けているはずのチャコは、ほとんどダメージが入ってる様子がない。

ミレイスは予想外の状況に、戸惑いを隠せないでいる。



「ぐっ……」


「次の手はないのか!ミレイス!それならこちらから行くぞ、チャコ!『ウィンド』だ!」


「はい!荒れ狂う風のマナよ――」


「サラマンダー!通常攻撃です!」


「ぎゃう!」



通常攻撃を行い、後ろに吹っ飛ぶチャコ、ファイアブレスと違い、確実にダメージは入っているが、

それでも致命傷には至らない。



「吹き飛ばせ、『ウィンド』!」


「ぎぎぃっ!」



チャコはいつものように自分を打ち出し、サラマンダーにケリを入れる。

もちろんこんな技は本来ないが――、これによりチャコの攻撃は風属性ではなく、通常攻撃としてカウントされているようだ。



「サラマンダー!」



レッドサラマンダーはふらついている。

あと一発でも入れば通常体を保てなくなるだろう。



「まだやるか」


「ぐっ……」



クロムがミレイスに問いかける。

ミレイスは何も言わず拳を握りしめ、レッドサラマンダーを見る。


ギリギリと音が聞こえそうなほどに強く歯を食いしばり、小さく一言、「私の、負けであります」と呟いた。


そこに、ぱちぱちと拍手の音が聞こえる。



「いい勝負だったぜ、ミレイユ」


「ば、バルザ大隊長!」


「どうだ、星1に負けた気分は?やっぱり儂の見込み違いじゃなかったようだな」


「はっ……正直なところ、現実感がありません。本来ならば一発で終わっている相手のはずが……気づけば防戦一方になり……」


「ははは!違ぇねぇ!どうだった兄ちゃん!ミレイスの奴は」


「…………彼女自身は、よく鍛えられていると思いました」


「私、自身は……?」



ミレイスはきょとんとした顔でクロムを見る。



「レッドサラマンダーは火力アップスキル、高火力のファイアブレスと、殲滅戦で非常に優秀だ。

ミレイス自身も騎士として優秀ならば、格下相手に苦戦することはまずないだろう。

属性相性の悪い水属性精霊や、遠距離攻撃をしてくる相手なら別だが、そういう相手、または格上と戦った経験がほとんどないんだろうと思った」


「うっ……」


「ほほぉ……よく見てるじゃねぇか」


「格上との戦闘経験がないということは、自分の弱点をカバーすること、相手の弱点を予想して対策を立てる事がない」


「………教えて、ください。何故、チャコ先輩はサラマンダーの『ファイアブレス』を防げたのですか?」


「実際は防いでたんじゃないんだよな。ダメージはいくらか入っている」


「ええ!?」


「私がクロム様からもらったこの指輪……『水神の恩恵』は水属性のバリアを展開してくれるアイテムです。

ただしこれは合計3回までしかバリアとしては機能しませんので、複数回の攻撃で剝がされたり、通常攻撃で攻められたら、どうしようもなかったと思います」


「さらに水神の恩恵は炎属性の攻撃を無効にするわけじゃなく、きちんとダメージは受ける。ただし風属性のチャコではなく、

水属性のバリアが受ける形だから、本来のダメージの4分の1まで抑えられるんだよ」


「そこからは私が気合で効いてないふりをしました」


「気合で!?」


「はい。クロム様の作戦で『ファイアブレスが実は効いてるとバレたら、マナポーションを使った連続スキルや、

召喚士の魔術道具発動でバリアが剥がされる可能性がある、一発ファイアブレスを打たせて、効いてないフリをするのが一番良い』と……」


「き、気合を……作戦に盛り込んだのですか」



ミレイスはあまりにも想定外の回答にがっくりと肩を落とす。

ダメージは入っていないのではない。そう見せられたのだ。自分を迷わせるためだけに。



「さらにミレイス自身が攻撃に参加しなかったのもこちらとしてはありがたかった。

一応俺も色々アイテムは準備していたが、そちらが何もしてこないなら敢えて何もしない方が、精霊同士のタイマンに持ち込めて有利だったからな」


「な、なるほど……」



確かに騎士としての戦闘能力がある分、2対2に持ち込めていたら若干ミレイスが有利になっている可能性がある。

しかし、クロムには『反逆の天秤』他、戦いを有利に進めるアイテムがてんこもりのため、逆に不利になっている可能性もあっただろうが。



「一番の敗因は、チャコを格下と侮り、何の準備もせずに挑んだ事だろうな」


「ぐっ……」



確かに、ミレイスはチャコを先輩と呼んで慕ってはいても、まさかレッド・サラマンダーを完封する手段を用意してくるとは微塵も思っていなかった。

精霊相性が良ければ勝てる、星の差があるから勝てる、その程度の知識で自分を強いと思っていたのが恥ずかしくなってきた。



「――だから、今戦えて良かったよ」


「……え?」


「きっと宵闇の森では、ミレイスがこれから戦う初めての格上になる。

今回のように無策で挑めばきっと後悔する結果になるだろう。そういう意味では、これでよかったんだよ」


「……そう、なのですね」


「はっはっは!これで明日の遠征も安心だな!ミレイス、きっちりと準備していくぞ!」


「はい!……て、もう明日なのでありますか!?」


「ああ、お前以外はもう準備もできているぞ。明日、早朝に出発する。

今回は珍しく星5魔術師の協力を得られてな!子爵のお抱え魔術師だそうだ!」



星5クラスの魔術師がいるなら安心だろう。とクロムは思うが、それでも不安要素は残る。

クロムは予想できる範囲で、ミレイスとバルザに宵闇の森の魔物について伝えることにした。



「宵闇の森について、話しておきたい事がある」



* * *



「――と、ここまでが俺の知っている情報だ。今の宵闇の森に行って調べた訳じゃないから、

おそらく違っている部分もある。参考としてほしい」


「お前……一体何者だ?魔物学者か何かか?」


「ははは……ただの召喚士ですよ」



バルザは先遣隊の情報や、聞き込みで得た情報よりも詳しく、広い情報を得て、

自分のメモを何度も見返す。



「単純な力押しでは勝てない相手……なるほど……」


「負けそうになったら一旦引くのが一番いい。まあ、バルザさんのエメラルドスフィアドラゴンがいるなら本来は負けないはずだし」


「本来は……というのが少し怖いでありますね」


「ははは!儂のエメラルドスフィアドラゴンは最強だ!魔物ごときに遅れは取らんさ!」


「やっぱりクロム師匠は明日は参加されないんですか?」


「ああ、まだチャコが最終でない以上、足手まといになることもあるからな」


「足手まとい……」



何気ない会話でさりげなく傷つくチャコ。



「チャコ先輩、落ち込まないでください。貴方は私のレッド・サラマンダーに勝ったのです

貴方の事を弱いという輩がいるのなら、このミレイスが殴りに行きますよ」


「そう……そうですよね!ありがとうございます!」



チャコとミレイス、このコンビは思ったより良いかもしれない。

ネガティブが強いチャコと、ポジティブが強いミレイスで、バランスが良いように感じる。


その日は結局夜まで話し続け、翌日、ミレイス達は宵闇の森の攻略へ向かったのであった。

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