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#15 チャコ、先輩になる。

「まだまだ殴れるのに……」


「そ、そろそろ衛兵さんたちのところに突き出すのがいいんじゃないかな?もう日も暮れてるし」



チャコを傷つけられた怒りから、クロムは無抵抗な赤バンダナの男を一方的に痛めつけ、

周囲の仲間であろう男たちも完全に戦意を喪失していた。


流石にまずいと思ったノワール達は、クロムを説得する。



「そうですよクロム様!子供たちのお母さん達も心配しているはずです!」


「一理あるな……」



なければ延々と暴行を続ける気だったのかな?とチャコ達は嫌な汗をかく。

子供たちの拘束に使っていた縄や足枷で逆に拘束されていく男たち。

先ほどの惨状を見ていたからか、抵抗するものは現れなかった。


当のボスはというと、完全に瀕死で、放っておいたら死ぬのでは?という怪我をしており、

チャコは心配になってクロムに声をかける。



「あの……ボスの人、私が治してもよいでしょうか?」


「え……?あんなに酷い事をされたのに、助けたい、って言うのか……?」



クロムは困惑するが、チャコの性格を考えれば、おかしな発言ではない。

とにかく自分を犠牲にするのが当たり前と思っているチャコは、自分の被害等は勘定に入れていないのだ。



「……はあ、応急処置だけだからな。もし少しでもこいつが変な動きをしたら言え。次は完全に殺す」



「次は完全に殺す」の言い方があまりに真剣過ぎて、彼は本当にこの前召喚士になったばかりなのか?とノワールは疑問に思った。



「コヒュー……コヒュ……ゲホッゲホッ!」


「もう大丈夫ですからね……この者に癒しの加護を……『ヒール』」



チャコは瀕死の男を治療する。男は肺に溜まっていたであろう血を吐き出し、せき込む。

おそらく骨が肺に刺さっていたのだろう。


ノワールとビアンカは子供たちを見てみるが、今すぐ治療が必要なほどの怪我はない。

話を聞くと、チャコが治療してくれたのだという。猿ぐつわを噛まされながらでも這ってまで治療をしてくれたとのことで、

子供たちはチャコに感謝しているようだ。


人攫い共を全員拘束した後、一つのロープでつなぎ、

そのロープの先をグリーンワイバーンにも括り付け、先導させる。



「オラ!さっさと歩け!列を乱したらワイバーンの餌にしてやるからな!」


「ひっ、ヒィ!」


「クロム様……」



クロムは時折杖で男たちを殴打しながら連行する。

あれだけ血気盛んだった男たちも、借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。



* * *



「ご協力、大変感謝いたしますッ!」



衛兵の詰所で迎えてくれたのは、身長180cmはありそうな長身の金髪の女性だ。

クロムもチャコも初めて会う人だが、女性の方は二人を知っているようだ。



「む……ウサ耳の少女と黒髪の東洋人……貴方がクロム殿でありますね!」


「え、はい……」



ちなみに、ビアンカとノワールは少し離れた場所で待機している。

一応彼女らはお訪ね者であるため、流石に詰所に顔は出せない。



「バルザ大隊長よりお話はお伺いしております!若いのに手練れの召喚士であると!

お初にお目にかかります。私はミレイス・フォンブルク。この度の宵闇の森遠征任務に抜擢された召喚騎士であります」


「初めまして、バルザ……さんから話は聞いてるかもしれませんが、俺はクロムです」


「茶兎魔術師のチャコです!よろしくお願いします!」


「わぁ……本当に小さくてかわいいですねえ!」


「えっ」



そう言って耳をもふもふされるチャコ。

確かに小さめのチャコからすれば、全体的に体格の良いミレイスと比べると、

大人と子供くらいの差がある。



「しかし……クロム殿は本当に精霊はこの子一人なのでありますか?

今さっきも、十数人いる盗賊団をあっさりと捕らえておられましたし……」


「ああいや、これはよろず屋さんのグリーンワイバーンの力も借りていて……」


「左様ですか……ううむ、それでもすごい……。恥ずかしながら、私も召喚騎士でありながら、

まだ目立った成果を残せたことがなく……。研鑽の身でありまして」


「いいんじゃないですか。召喚士は精霊を強くするのが目的ですし、多少の回り道は必要ですよ」


「ム……!」



その時ミレイスの足元のレッド・サラマンダーが「ぎゃう」と声を上げる。



「レッドサラマンダー……貴方もそう思いますか」


「はい?」


「師匠!!!」



突然、ミレイスがクロムに跪き、頭を下げる。



「ミレイスさん……?な、何を?」


「クロム殿……いえ師匠!どうかこの私めに、精霊について教えて頂けませんでしょうか!?」


「そんな、召喚騎士の方に俺が教えられる事なんて何も……」


「本当でありますか?」



その目は本気だ。クロムは適当にあしらうつもりだったが、これほど真剣に言われるとたじろいでしまう。



「私は召喚騎士として……星4の精霊の召喚に成功しました。それがこのレッド・サラマンダー。

星4クラスの精霊である彼を有しながらも、目立った成果を上げられていない。

それはきっと自分の力不足故……!せめて精霊の実力に相応しい成果をあげさせてやりたいのです」


「う……でも俺は、弟子とかそういうのは……」


「そうですよミレイスさん、頭を上げてください、確かにクロム様はとっても凄いお方ではありますが、

召喚騎士様には召喚騎士様の専門の訓練施設などもあるはずですし……」



「そうか……チャコ殿もクロム殿の教えを受けているんですね、だから星を上回る相手にも……」


「まあ、そうですね!」



ちょっと得意げである。

クロムは、自分の教えを受けているだけで何故こんな得意げになれるのか疑問に思った。



「バルザ大隊長は、めったに人を褒められるお方ではありません!そんな方が、

『自分が不在の際はクロムという東洋人を頼ると良い』とおっしゃっておられたのです。

ご存じかもしれませんが、バルザ大隊長は先の戦争にて非常に素晴らしい成果を挙げられた方!

私の故郷では英雄として語られております!そんな方に認められる召喚騎士に、私もなりたいのです!」



「う、う~ん……」



ミレイスは顔も美形であり、クロムとしては悪い気はしないのだが、

正直手持ちの素材や様々な観点から、そう簡単にはミレイスを強くできないと判断し、

あと今は目下の目的である、宵闇の森攻略に向けて、チャコの強化を勧めたいところというのもあり、正直お断りしたかった。


圧に耐え切れなくなったクロムはそっとチャコの方に目を向けると、

チャコは「わかりました!」という表情で、ミレイスに話しはじめる。



「ミレイスさん、クロム様は非常にお忙しいお方です。お気持ちはすごくわかりますが、

今回は諦めてください。宵闇の森の件も、クロム様がきっと何とかしていただけます。安心してお待ちください」



流石に過大評価ではないか?と思ったがあえて口は挟まない事にした。

これで諦めてくれるならよいだろう、とクロムもチャコに合わせて頷く。



「そんな……()()()()()も、そのようにおっしゃるのですか?」


「チャッ……、チャコ先輩!?」


「はい!貴方もクロム殿から教えを受けたのでしょう?ならば私の先輩という事ではないでしょうか」


「……ミレイスさん、もう一度先輩と呼んでいただいていいですか?」


「はい?わかりました、チャコ先輩」


「んっふふ……」


「チャコ?どうした?おーい?」



チャコは今まで――あらゆる場面にて、「下っ端」として扱われてきた。

彼女にとって自分より下のもの、教えるものという存在はなく、

そんな彼女にとって「先輩」呼びはあまりにも気持ちのいい言葉だった。



「仕方ありませんね……クロム様の指導は厳しいですよ!!」


「チャコ?何言ってるんだ?チャコ?」


「はい!よろしくお願いします!クロム師匠!チャコ先輩!」


「ええ……」



こうして、ミレイスの押しの強さとチャコの勝手な判断によって、

クロムに弟子ができたのであった。

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