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#1 チュートリアルはスキップで

生い茂る様々な木々。


闊歩する大型の虫や動物……いや、魔物たち。


明らかに現代日本とは異なる空気感……、「彼」は間違いなく、自分が異世界に迷い込んでしまったのだと、

すぐに判断する事ができた。




事の始まりは数十分前。彼はいつものように仕事を終え、直帰するべく車を走らせていた。


今回の商談は辺鄙な地で行われたため、あまり人通りのない山道を通って帰る。

それ故、彼も早々に帰りたかったのではあるが……。




―――たすけて




どこかから声がする。


幽霊の類か?と一瞬背筋が冷えるも、割としっかりとした声で、


どこかから語りかけているように聞こえた。



「……誰か、いるのか?」



彼は道の脇に車を止め、虚空に向かって声をかける。



その問いかけに答えるように「たすけて」 「こちらへきて」と声が続く。



明らかに幽霊の類ではないのかと、嫌な汗が流れ落ちるが、

不思議と彼はその声が、自分を騙そうとしているようには聞こえなかったのである。


それどころか、どこか聞きなれた声で―――、





そう感じながら森に入った瞬間、彼はそこにいた。


仰々しく建てられた石柱、デフォルメされた不思議な生き物。


意志を持って動く木々たち……。異世界である事以外に大きな情報はないはずだが、


彼にはすぐ、その場所がどこかわかった。



「……風の修練場。出てくるモンスターから初級か、中級か?」



彼には見覚えがあった。いや、『忘れるわけがない』


文字通り、親の顔より見た場所だったからだ。



魔物の一匹である、グリーンスライムがこちらを見据え、臨戦態勢をとる。

グリーンスライムは文字通り緑色のスライムで、頭に双葉の生えた可愛らしいモンスターだ。

しかし実際に相対するとなると、顔のついた植物の生えた液体が敵意を向けてくるという、なんともおぞましい状況となっている。


理論的に考えて、ただ迷い込んだだけの一般人が、異世界のモンスターに敵うわけがない。

だが彼には一つの確信があった。自分が迷い込むという事は、『そういう事なのだろう』と。


彼の考え通り、ポケットの中には小さな虹色の石――、彼が『精霊結晶』と呼ぶアイテムが5つ入っていた。

もちろん、元の世界で入れた覚えはないし、本来なら持っているはずのないものだ。



彼は石を掲げ、声高に叫ぶ。



「精霊界との盟約において、我が問に答えよ……。我は導き手、汝の道を示す者なり!」



精霊結晶は光り輝き、その瞬間、地面に召喚陣が描かれる。

召喚陣は人の形を作り、少しずつその姿を確定させてゆく。


ひときわ大きい光が瞬くやいなや、精霊結晶は砕け散り、代わりに召喚陣のあった場所には、一人の少女が座っていた。



「――成功だ!」


彼はぐっとガッツポーズをとる。対して少女は「えっと、ここは……?」と周囲を見渡していた。


少女は10代中盤といった風で、髪の毛は栗色のくせっ毛をしており、

茶色を基調としたローブに身を包み、小さなポシェットをさげている。


何よりも目立つのが、彼女の頭から生える長い耳。

これが彼女を「兎魔術師」系列の召喚精霊であることを物語っていた。



「……茶兎魔術師か」


「ひぃぃっ!召喚士様ですか!?すみません!貴重な石を使わせてすみません!」


「は?」



突然の自虐に、彼は追いついていけていない様子である。

気を取り直し、彼女と向き合い、自己紹介を行う。



「俺は別世界から来た、君もそうだろうが少し事情が違う。まずはこの場を乗り切るために力を貸してくれ。

名前はそうだな……うん、クロムとでも呼んでくれ」


「は、はひ……クロム様。わた、私は魔術師のチャコです。その、えっと……大変申し上げにくいのですが……」


「星1、なんだろう?精霊も自分の星を知っているのか……これはいい情報だ」


「はえっ、ご存じでありましたか」



ぶるぶると震えるチャコは、おそるおそるといった風で会話を続ける。

彼女にとって召喚されるとはどういう事なのか、少なくともあまりいい思い出はなかったようだ。


「星」という言葉が出てきた時点で、聡明な方はお気づきだろう。

この場所はまさしくソーシャルゲーム、『リレイション・ファンタジア』の舞台に他ならない。


数百、数千にも上る精霊と呼ばれるキャラクターたちと一緒に、主人公は召喚士となって冒険をしていくゲームだ。


彼もそのゲームのプレイヤーの一人であり、チャコも所有キャラクターの一人であったため、

ステータス等は熟知している。最も……。



「まず敵はグリーンスライム、現在の君はレベル1だろうからATKは15しかないが、グリーンスライムのDEFは5、

君はレベル1時点でAGIが30あるはずなので十分先制が取れるはずだ。普通に物理攻撃で良い。

使えそうならウィンドⅠで攻撃してくれ」


「わかりま……えっ!?あたっく?でぃふぇんす?あじりてぃ……?私がウィンドを習得してることもご存じなのですか?」


「説明は後だ。まずは早めにここを出ないと、二人そろって全滅となる」


「ひぃ!わ、わかりました……!わが手に風のマナを……吹きすさべ暴風!『ウィンド』ッ!」



大仰な詠唱とは裏腹に、小さな空気の衝撃がスライムにぶつかる。

「ウィンド」というと風の刃で切り裂くイメージがあるが、このゲームでの「ウィンド」は空気を使った体当たりのようなもので、どちらかといえば吹き飛ばした相手を何かにぶつけてダメージを与えるものとなる。


チャコの「ウィンドⅠ」は人間を数人吹き飛ばせる程度だが、「ウィンドⅡ」「ウィンドⅢ」と進化していくと、

岩すらも飛ばせるようになり、星5クラスの精霊がスキルとして持つ「ウィンドⅤ」は局地的な竜巻を発生させるレベルである。



吹き飛ばされたスライムは木に衝突し、動かなくなる。


スライムはどろりと崩れ落ち、石のようなものが転がり出る



「グリーンコア……」


「きれいな石ですね、何かに使えるんですか?」


「ああ、これをあと299個集めるよ」


「299個!?何がどうなってそうなるんですか!?」


「まあ詳しいことは落ち着ける場所で話そう。今は―――」



彼らの目の前には



「逃げるぞッ!」


「はいぃっ!!」



巣をつくった木を揺らされて、怒りの表情を見せるアーミー・ホーネットの姿があった。

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