深夜の雨
深夜の街、ひときわ強い雨が降る。寒くなったあなたは、咄嗟に近くのバス停に駆け込む。そこには一人の少女がいて、その子はずっと前に忘れてしまった、初恋の女の子の形をしている。
「こんばんは。今日はとっても寒いですね」
「そうですね」
怪訝に思いながらもあなたは返事をする。少女はつらつら話し続ける。
「せめてこの雨が止むまでは、ここで座っているつもりなんです。……あなたは?」
「僕もそのつもりです」
「そうなんですね。でしたら、話し相手になっていただけませんか? 生憎、充電が切れてしまって」
はにかんで、携帯をこちらに向ける少女。断る理由もない。あなたはひとつ頷く。
「ありがとうございます」
そして、少女はにこりと笑った。あの頃、あなたが好きだった女の子のそれと、寸分変わらぬ笑顔で。
途端、あなたの脳裏に、あの頃の記憶が駆け巡る。
1度も好きだ、と言えなかったことを思い出す頃には、少女は煙のように消えている。夢だったのかな。そう思ったあなたは、静かにバス停を後にした。
ありがとうございました