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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第六章 六期生(後)
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姉の代わりにVTuber 97


ゆいから発せられた言葉に、穂高ほだかはすぐに返事を返す事は出来ず、言葉に詰まっていた。


そして、少しだけ考え込んだ後、ゆっくりと話し始める。


「――別に、今すぐってわけでも無いんだろ? 引退するの」


「そうだね~、すぐでは無いよ?

――――ただ、もう引退する事は決まってるし、すぐではなくとも、近い未来だよ?」


考えが煮え切らない穂高は、一旦保留しようと、引退時期の話題に、話を逸らすが、唯も穂高をよく知っている為、この場では決断を求めずとも、決断を迫る様な口調で、穂高に返事を返した。


「――――今この場でじゃ、答えは出せない。

Zoutubeに戻る決心も付いてないし、昔と今じゃ、状況も違うからな」


「状況が違うって何よ。

はぁ~~、まぁ、今すぐにとはウチも言わないけどさぁ……」


難しい表情を浮かべ答える穂高に、唯はため息を付きつつ、穂高の言葉を承諾し、穂高の放った言葉が気になりながらも、深く追求する事は無かった。


そして、唯のその言葉を最後に、それ以上二人で、配信についての話には触れる事は無く、話題はお互いの近況の話や、昔話などに変わり、会話は盛り上がりを見せた。


ひとしきり話し合った所で、穂高は店内の時計を見やり、今の現時刻を認識する。


「――――ふぅ……、もうこんな時間か……。

結構話し込んじゃったな?」


「えぇ~~!? まだ、色々とウチは話したい事あんのに~~??

とゆうか、何で忙しいウチより、穂高の方が忙しいそうにしてるわけ~?

おかしくな~~い??」


「華の高校生だから忙しいんだよ。

青春真っ只中だからな」


「――いや、ウチは穂高が陰キャなの知ってるから…………。

今更、ウチに見栄を張らんでも……」


唯の物言いに穂高はイラっと感じたが、これ以上突っかかる事はせず、イラつきを抑え、帰るためにも、運ばれてきていたコーヒーを飲み干す。


穂高はコーヒーを飲み干し、携帯の通知を一瞬確認し、後数分したら帰ろうかと考えていると、今までずっとやかましかった唯が、珍しく黙っている事に気付いた。


唯の状況を穂高は気味悪がりながらも、呆然とした様子で、自分の来ている制服に、視線を落としている唯が気になり、恐る恐るといった様子で尋ね始める。


「――――な、なんだよッ……、急に静かに人の制服をジロジロと……」


「――え? あ、あぁ、何か懐かしいなって……制服。

穂高は、桜木さくらぎ高校だっけ?

ウチの地元からも近いし、ウチも桜木高校に進学してたら、

一年間は、同じ学校で穂高と過ごせたのかな~~って」


「なんだよ急に! 気味悪い!」


「きッ、気味悪いって言うなしッ!!

――たっ、ただ、何となくぅ~? に、2歳差だから、そんな事もありえたのかな~って、考えただけだから!!」


唯の変な話題に、穂高も何故か羞恥心を感じ、慌てた様子で言葉を返し、穂高に指摘された事で、唯は穂高以上にテンパっていた。


「――調子狂うから、変な事言い出すなよ……。

2歳しか歳違わないんだから、当たり前だろ…………」


「そ、そうだけどさぁ……。

何か、思いついてポロっと言っただけじゃんか~~……」


ひとしきり慌てた後、穂高はため息交じりに、いつもの調子を取り戻し、落ち着いた様子で呟き、穂高の言葉に、唯もようやく平常心を取り戻し、少し過去の自分の発言を、後悔するように答えた。


「まぁ、とりあえずだ……。

会計はまた俺が払っておくから、用事もある事だし、先に出るぞ~~?」


「え? ホントにもう行くの??

待ってよ~」


「待たない。 時間も無いから……。

ゆっくり、ケーキ食ってから店を出ろよ。

まだ、話したい事あんなら、Painパインに連絡しろ」


唯の言葉で、最後に変な空気にされたが、穂高は夜の配信の準備の為、本当に時間も無かった為、唯の引き留めも制し、言葉の通りお店を出ていった。


「――――穂高、いつも返信遅いじゃん……」


唯は強く止めようとも思ったが、本気で穂高に拒絶されるのも嫌だった為、強引な事はせず、お店を出ていく穂高に愚痴を吐くようにして、ボソりと呟いた。


そうして、唯は穂高に言われた通り、まだ残っている、自分のデザートが置いてあるテーブルに、視線を落とす。


(――穂高の奴、自分が頼んでたデザートはちゃっかり、いつの間にか完食してるし……。

スイーツ好きは今もなんだね……)


お互いの取り巻く環境も変わり、数年間、パタリと交流も無かったことで、唯は再び、同じように仲良く接していけるか、不安に感じた時期もあったが、ふとした瞬間に、変わらないものも目に映り、それがとても嬉しく思えた。


(やっぱ好きだなぁ~~、ウチ……。

穂高の事…………)


唯は、頬を染め、耳までも少し赤らめせながら、そんな事を思い浮かべ、昔からの思いを再確認した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「んん~~~~ッ!! 久しぶりの我が家ッ!!」


美絆みきは晴れて、病院から外泊届が受理され、数か月ぶりの家に着くなり、家の中の大量の空気を吸い込み、大きく伸びをしながら、声を上げていた。


「数か月ぶりだからな、なんだかんだで……。

――でも、ゆっくりはしてられないからな? 姉貴……」


「もう……、分かってるって……。

せっかくの帰省に水を差さないで!」


「帰省って言うのか? コレ…………」


穂高は大げさな美絆にため息を付きながら、リビングのソファへと腰を掛ける。


「――配信、久しぶりだろ?

リハビリがてらに、テキトーに何か配信するのか??」


穂高はソファにもたれ、テレビを付けながら美絆に尋ねた。


「う~~ん、まぁ、やっときたいけど……、ちょっと悩み中……」


「ん? なんで??」


「い、いやね? な、何か久々過ぎて、緊張するっていうか……。

もうちょっと、怖じ気付いてるというか……」


不思議そうに伺う穂高に、美絆はいつも堂々とした様子でなく、もじもじとしながら、穂高の質問に答えた。


「なら、尚更、事前にやっといた方が良いだろ?

慣らす意味も交えて……。

明後日だぞ? 本番……」


「――わ、わかってるよ~~。

ちょ、ちょっと、胃薬…………」


「――ま、マジかよ………………」


緊張といっても、穂高は少しだけ甘く考えており、そこまで大きな緊張でないと、そう思っていたが、緊張からか、腹痛を抑えるために、胃薬を取りに行こうとする美絆を見て、大きな不安を感じ始めた。


(デビュー当初みたいなのはやめてくれよ~?

ただでさえ、リムは中身が今二人いて、不安定な状況にあるんだから……。

もし、配信で変な事でもしたら…………)


穂高は美絆の様子からどんどんと嫌な妄想が生れ、最悪のケースを想像してしまい、思わずゾッと感じていた。


穂高は大きな不安も感じつつも、遂に、五期生一周年のイベントが、間近にまで、差し掛かっていた。


そして、まずは明日、五期生一周年記念、一発目の配信となる、モーリアとリムの配信が控えていた。


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