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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第六章 六期生(後)
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姉の代わりにVTuber 96


 ◇ ◇ ◇ ◇


(――ヤバい……、佐伯さえきさんと姉貴の圧に押されたせいで、結局、あの企画を断れてねぇ……)


美絆みきと佐伯、つばさと別れた穂高は、自分の家へ向けて歩いていた。


病院から駅へ、そして自宅の最寄り駅に付いたところで、穂高は、自分が企画に参加しない旨を伝え忘れていた事に気付いた。


(まぁ、却下しても、あれだけ乗り気な運営と姉貴を止められる自信は無いけど……。

やりたいかやりたくないかで言ったら、絶対にやりたくねぇしな……)


説明を詳しく聞いた上でも、穂高は美絆の提案した企画に賛同は出来ず、実行する流れにはなってきていたが、まだ気持ちの面で、前向きに取り組むことは出来なかった。


そして、もしやることになった未来を想像し、穂高は大きなため息を付いた。


(――とりあえず、あの無茶な企画をする為には、いくつもの大きな障害があるし、今のところは五期生のイベントに集中しよう……)


考えれば考える程、嫌な想像が浮かび上がってくる穂高は、それ以上、地獄企画に関して考えるのは止めた。


そして、俯き気味だった穂高が顔を上げ、一先ずは、今夜の配信に付いて、頭の中で整理しようとした、その時だった。


「ほ~~だかッ! 何してんの? こんなとこで……」


穂高は、右肩をポンっと軽く叩かれ、聞き覚えのある声が穂高の耳に届いた。


そのまま、声のする方へと視線を向けると、そこには晴れやかに笑みを浮かべる、ゆいの姿がそこにあった。


「――ハチか……。

お前こそこんなとこで何してんだよ」


穂高は以前にも、駅近くで唯と会ったことがあった為、そこまで驚きはしなかったが、こうも何度も会えるとも思っていなかった為、意外に感じていた。


「なに~~、その嫌そうな雰囲気は~~?」


「――別に嫌じゃねぇよ……。 急に話しかけられてビビっただけで。

とゆうか、忙しくないのか? 大物配信者だろ??」


穂高は周りに気を使いながら、声を絞り、会話から正体がバレるような事は無いよう、注意を払いながら唯に尋ねた。


「あんねぇ~、配信者がそんな年がら年中配信してるわけじゃ無いんだよ??

っというか、私は元はと言えば動画勢だからッ!!

何か、歌っているのを収録して動画を上げるだけだったんだからッ!」


「――おぃッ……、声ッ! 大きいって…………。

人がせっかく、気を回してんのに……」


周りに気を使っていた穂高に対して、唯は少しだけ声のボリュームが大きく、身バレを恐れるよりも、穂高に文句を言い返す方が、唯にとって、優先順位が上になっていた。


「はぁ~~~、何、相変わらずビビってるのかな~~?

こんなんでバレっこないでしょ? 何年、バレずに活動してきてると思ってんの??」


「そうやって余裕ぶっこいて……。

身バレしても知らんからなぁ?」


唯に絡まれた事で、足を止めてしまった穂高だったが、会話に区切りがつくと、再び歩き始めた。


「――うおぉッ! ちょ、ちょっと待ってよ!」


急に歩き始めた穂高に、唯は慌てた様子で穂高の腕を掴み、引き留める。


「――――なんだよ……。

俺、用事あんだけど?」


「用事~~?? バイトもしてなそうな暇な高校生がぁ~~??

どうせ、大した用でもないでしょ? 引退もして、配信してないんだから、付き合ってよ!」


「相変わらず強引だな……」


唯の事をある程度分かっている穂高は、唯の諦めの悪さを知っており、断るにしても、多少は手間取る為、どうするべきか、少しの間、考えた。


今後の準備を考えた上、穂高は駅前にある大きな時計台で、現時刻を確認すると、再び唯に視線を戻す。


「――ホントに用事あるから、ちょっとだけだぞ?

また、喫茶店でいいか?」


「しょうがないな~~。

妥協してあげるよ!」


穂高はため息を一つ吐くと、そのまま言葉通り、唯を連れ、喫茶店へと向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――ではッ! 席にも無事に付けたところで……。

てっちんさぁ~~? こないだ、南室なむろで会った時、女連れだったよねぇ~~?

あの子達は一体何なのかな~~??」


穂高は席に着くなり、先に席に付いていた唯から、いきなり触れられたくない話題を出された。


「そ、その件か……。

――普通に学校の友達だよ……。

友達?……っというか、クラスメートか…………」


穂高は面倒そうな表情を浮かべながら、当時、唯と出くわした時に居た、春奈はるな瑠衣るいの事を説明した。


「クラスメートねぇ~~。

私の知ってるてっちんは、そこまで異性と交遊関係広くないように思ってたけど……」


「はぁ~~、今も昔と変わってねぇよ……。

昔と変わらず、仲いい女子はいないし、モテないし……」


「ホントかなぁ~~??」


何度否定しても、何かと関係を疑ってくる唯に、穂高は内心ウザったく感じながらも、変に突き放すような態度は取らず、質問には面倒がりながらもきちんと答えた。


(――昔、何も言わずにZoutube辞めた事を根に持ってるしな……。

面倒ではあるけど、無下には出来ねぇよな)


「はぁぁ~~~。

これ以上、深く聞いても何も出なさそうだし、もういいか…………」


止まぬ追及に、半ば諦めかけていた穂高だったが、穂高の思いが通じたのか、穂高の対応で追及を諦めたのか、唯は大きなため息と共に、あの時の事を追求する姿勢を崩し始めた。


「――どうせ、てっちんだし、女の子にそうそう手も出せないでしょう……」


(な、なんか、癪に障る言い方だけど、これ以上追求されないのはありがたいな……)


とても不名誉な事を言われた気のする穂高だったが、変に突っかかって再び追及されるのを恐れ、言い返したい気持ちをグッと堪えながら、唯の言葉を受け止めた。


そして、唯の追及が止んだことで、穂高も唯に直接聞きたい事があった事を思い出す。


「そういえば、俺もお前に聞きたい事があった。

こないだ会った時だけど、どうして佐伯さんと一緒に居たんだ??

佐伯さんは知り合いだから、佐伯さんが何をしてる人なのか知ってるけど、もしかして、88(ハチハチ)と『チューンコネクト』で何かやんのか?」


穂高はあの日、飲食店の前で唯と出会ったから、佐伯と唯の繋がりがずっと気になっており、佐伯に一度聞いた事もあったが、上手くはぐらかされ、詳しい事は聞けずじまいだった。


「――あ、あぁ……、あれね……。

う~~~ん……、てっちんと言えど、これは……、言えないなぁ~~」


「なんだよ、もったいぶって……」


「てっちんも昔、配信者だったから分かるでしょ~~?

まぁ、企業案件?みたいなもんよ。

色々と情報規制されてるから、詳しい事は言えない」


「俺は、ハチみたいに案件が飛んでくる程の、配信者じゃないから分かんねぇよ……。

まぁ、今説明されて何となくは分かったけど」


少しばつが悪そうに話す唯に、穂高も昔とは違い、『チューンコネクト』の関連で唯の気持ちはよくわかり、口ではテキトーな事を話していたが、無理に聞き出すのも悪く思い、唯と同じように、深く追及することは無かった。


しかし、今度は違う話題を穂高が投げかけようとした時、唯は続けて話す様に声を発した。


「――まぁ、詳しくは言えないけど、これだけは言えるかな……。

近々さ? ウチ、88として活動するのを辞めるかも」


唯の言葉に穂高は目を見開き、驚きの表情を浮かべたまま、少しの間硬直した。


そして、唯の言葉の意味を反芻し、理解すると、我に返ったように、唯に問いかけ始める。


「――――おい……、その情報だけで、いろんな事が思い浮かぶんだが?」


「ホント? やっぱ言っちゃマズかったかなぁ~~?」


真剣な面持ちで話す穂高に、唯は少し困ったようにしながら、ヘヘヘッといったように、笑みを零した。


「とりあえず……、辞めて、どうするんだ?

もう、配信者としては活動しないのか??」


「ん? う~~ん、これはまぁ、言えないけど……、一先ず、88としての活動は終わりにするよ!」


「な、なんッ…………」


穂高は反射的に理由を尋ねようとして、途中で思い留まり口を紡ぐ。


(――これは、俺が聞ける立場じゃないよな……。

俺だって辞めた人間だし…………。

ただ、本当にコイツはこれからどうするんだろうか……)


質問を思い留まった穂高ではあったが、唯のこの決断に関しては、聞きたい事が沢山あった。


そんな悶々とする穂高に、唯は今日話していた中で、一番の柔らかい声で、視線は穂高を真っ直ぐに捉え、声を上げる。


「――――ねぇ、これで88としては、本当に最後だし、最後の配信はてっちんも出てくれる?」


透き通った耳障りの良い声は、穂高の耳に一文字一句違わず伝わり、唯は柔らかい笑顔を見せていたが、その姿は何処か、悲し気に、穂高には見えていた。


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