表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第六章 六期生(後)
97/228

姉の代わりにVTuber 95


 ◇ ◇ ◇ ◇


チヨ炎上から四日後。


穂高ほだかは、もう恒例になりつつある、速下校をし、再び美絆みきの元へと訪れていた。


「――――来たぞ~~。

――って、佐伯さえきさんは分かるけど、何でまた月城つきしろさんがいるんですか……」


病室に入ると、来る予定にあった佐伯の姿と、またもお見舞いに来ている月城の姿がそこにあった。


「今までできなかった分のお見舞いです。

別にお仕事のお話は邪魔しませんよ」


「――いや、そこは心配してないですけど……。

月城さんだって色々と忙しいでしょうに……」


穂高はそう呟きながら、美絆の元へと歩み寄ると、今度は美絆に耳打ちをする。


「――おい、姉貴……。

まさかとは思うけど、あれから毎日ってわけじゃないだろうな?」


「毎日じゃないよ。

今日で二回目。 こないだ穂高が来た時以来」


「流石にか…………。

――いや、だとしてもペースはおかしいけどなッ!?」


二人にしか聞こえないくらいの音量で、美絆と穂高は情報を交換し合うと、今度は佐伯が口を開く。


「穂高君、何度もごめんね? 忙しいのに……。

――美絆、こないだ送ってきためちゃくちゃな企画見たわよ」


「あッ! 見てくれた??

どう? 結構面白そうじゃない?」


佐伯と美絆の会話に、穂高はすぐにあの地獄のような企画を思い出し、心の中で「通るわけがない」だろうと高を括った。


「確かに、面白うそうではある……」


「はぁ??」


数秒の間で、心の中で思っていた事と間逆の意見が飛び、穂高は思わず声を漏らした。


「――でも、あんな自らでネタにしてくなんて、『チューンコネクト』らしくないし、危ない企画でしょう?

まぁ、上に回したら意外に通っちゃって、特に社長が気に入っちゃったみたいだから、採用されそうではあるんだけど……」


「ホントッ!? やったねッ!」


穂高を置いてきぼりに、佐伯と美絆との間でどんどんと話は進んでいき、焦った穂高は思わず、口をはさんだ。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいッ!

――え? 通ったって、あのリムの弟とチヨの兄貴がってやつですか??

冗談ですよね……??」


穂高は顔を青ざめながら、恐る恐るといった様子で佐伯に尋ね、心の中で冗談であってほしいと、強く願っていたが、そんな穂高の願いは簡単に打ち砕かれる。


「あぁ、流石に美絆から聞いていたのね……。

そう、その企画よ?」


「ま、まま、待ってッ!!

いや、無理ですよ? 無理ッ!

余計に炎上しますって!!」


この場では唯一、自分の一番の味方であり、理解者だと思っていた佐伯に、思わぬ言葉をもらった事で、大きく動揺し、企画の危険性について、穂高は強く指摘した。


「まぁ、最初、私もそうゆう風に思ったのだけど、これが意外にそうも思えないのよね?

大まかな企画だけ聞けば、絶対やらせられないけど、内容を聞けばね?」


穂高の周りは既に美絆の根回しが効いており、一番の協力者が既に美絆側にいる事を、穂高は今理解した。


そして、二日前、美絆と翼、穂高が三人で病室にいた時の事を思い出す。


(――――そういや、姉貴の奴、ニヤついた顔で、俺にやって欲しい事があるって言っておきながら、結局その日には言わなかったな?

もしかして、話を円滑に進める為に、先に会社に話を通してやがったな??

最初に通した企画じゃ通らないと思って、多分、内容を詰めたんだ……。

あの日の姉貴の口ぶりじゃ、まだ思い付き……みたいな感じだったしな)


穂高はようやく状況を理解し、美絆の方へと視線を向けると、美絆はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、穂高を見つめていた。


(ハメやがったなぁ~~~ッ!! 姉貴の野郎……。

――た、ただ……、まだだッ!! 事この企画に関しては、俺に一番の決定権がある!

姉貴の企画の穴をつついて、絶対に拒否してやる!!)


絶望的な状況に近い穂高だったが、美絆の作った地獄のような企画をやるつもりは一切なく、まだ、諦めてはいなかった。


「企画、詳しく聞きますよ?

勿論、俺は今の持ってる情報だけじゃ、反対ですからね?」


穂高は一気に緊張感を感じながら、真剣な面持ちで企画の説明を佐伯と美絆に求めた。


「――そうね。 この企画に関しては、穂高君の協力は必要不可欠だから、説明しないと……。

まず、穂高君はどこまでこの企画について聞いてるの?」


「あんまりですね。

ホントにリムの弟とチヨの兄貴を、配信上で会わせて喋らせるって事しか……」


「なるほど……。

まぁ、大まかに言っちゃえば確かにその通りなんだけど。

まず、穂高君とチヨのお兄さんが出演するのは、あくまで動画でね?」


「――――動画……?」


「そう、動画……。

事前に穂高君とお兄さんで収録してもらって、その動画をチヨとリムの配信で流す」


佐伯の話を聞き、穂高の思っていた内容と少しズレてきたことから、穂高は首を傾げた。


そして、配信するうえで何よりも重要な事を穂高は、佐伯に尋ねる。


「――――それって……面白いんですか?」


「まぁ、当然、ただ撮ってて流すんじゃ面白くないわね。

――チヨとリムには、その動画を初めてその配信で視聴してもらって、バライティ番組とかでよくある、副音声みたく動画について話してもらうの。

勿論、穂高君達が事前収録で話す話題は、チヨとリムの恥ずかしい話や、裏話ね??

家族でしか知りえない話だと、なお面白いわッ!」


「――ま、マジでそんなのやるつもりなんですか……? 正気じゃない……。

誰も得しないですよ? そんなの…………」


何故か嬉々として語る佐伯に、穂高は驚愕の表情を見せ、美絆も何故かソワソワとした様子で、話を伺っていた。


穂高は視界の端に移る、そんな美絆の姿に気付くと、今度は美絆に言葉を投げかける。


「い、良いのかよッ!? 姉貴ッ!

赤裸々になるんだぞ? 後悔しかしないぞ??」


「ふふッ……、それが『チューンコネクト』古来からある地獄企画だもの!

みんなで傷つけば怖くないッ!!」


「――頭がおかしいッ…………」


美絆の反応に、穂高はもはや恐怖すら感じ、絶対に大やけどする未来しか見えなかった。


「先輩達が残した伝統、地獄企画。

企画の内容は様々だけど、演者が羞恥に悶えるなんて、まさに伝統通りの企画じゃない?

まさか、六期生の中で一番真面目なチヨがその餌食になるとは思わなかったけど……。

美絆が一番初めに地獄企画を提案してくるだろうっていう予想は当たってたけどねぇ~~」


「――残しちゃいけない、悪い伝統ですよそれ……」


穂高も一般人としてその企画に関わるため、無傷に済むとは全く思えず、何が起こるか分からない分、余計に恐怖を感じていた。


そして、そんな恐怖におびえる穂高を見て、今まで散々利用されたりしてきた事もあってか、翼はクスクスと笑みを浮かべ、穂高の様子を楽しんでいた。


「――まぁ、真面目な話、チヨの今の状況は美絆からも聞いているし。

チヨの担当マネージャーも相当、ケアで苦労してるみたいだから、復帰一発目で、この事件を綺麗にネタとして払拭しちゃうのもアリだとは私も思う。

きっと一人で配信するのも怖くなってしまってるだろうし……。

自分発信じゃない、仕掛けがある程度用意されてる、チヨからしたら受動的な配信で、少しずつ慣らしていく目的もあるから」


「――な、なるほど……、そんな事も考えてるんですね……」


穂高は面白い思い付きで、勢いで企画が通ってしまったと思っていた為、佐伯の話を聞き、素直に関心をした。


「でも、正直、この配信で本当に大変なのは、穂高君じゃなくて、生で配信する美絆よ?

まず第一に。久遠先輩のコラボ配信と同じように、チヨの復帰に合わせて、外泊届が取れるかどうか……。

そして、チヨを含め、企画の大本であるチヨのお兄さんの許可が下りるかどうか……。

穂高君に関しては、事前収録になるし、流れが微妙なら編集でどうとでもなるけど、ウチたちが用意した動画を上手く、面白く出来るかは、最終的には美絆とチヨの技量になってくるからね??」


「――分かってる。 心配しないで」


「ふッ……、別に心配はしてないわよ?

面白い配信、期待してるからねッ!?」


自信ありげに答える美絆に、佐伯も信頼しきっている様子で、きっぱりと返事を返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ