姉の代わりにVTuber 94
「聞きましたよ~……。
お二人、相変わらず無茶な事を企んでるみたいですね」
穂高とのいがみ合い、美絆との盛り上がった会話を一通り終えると、翼はいつもの落ち着いた様子で、持ってきた見舞いの花を花瓶に移しながら、穂高達に話しかけた。
「いやぁ~~、無茶かなぁ~~?
久遠先輩との連絡は上手くいってるし、結構現実的になってきてるのかなぁ~~って、自分では思うんだけど……」
「成否の話ではないです。
未だ、病院にいる身なのに、コラボの配信をしようとしている事が、無茶苦茶なんですよ」
「それは俺も深く同意する」
困ったように笑う美絆に、翼はため息交じりに答え、穂高も協力はしてはいるものの、翼の意見には全面的に肯定していた。
「穂高さんも、同意してるなら止めてください!
もう既に走り出してるじゃないですか」
「この強情な姉を止める事が出来ないのは、月城さんだって分かってるでしょうに……。
下手に止めて、病院を脱走される方が危険だ」
「そこまでしないよッ!!」
「どうだか……」
穂高の言葉に強く否定する美絆だったが、病院を脱走する姿が想像できなくも無く、穂高が意見を変える事は無かった。
「――――あッ! そういえば、穂高、今日のジスコードの連絡見た??」
翼が訪れた事で、本来話したかった話題と少しズレてしまっており、穂高と話したかった事を、美絆は思い出したように話だし、穂高に質問を投げかけた。
「なんだよ、ジスコードって……。
チヨからのやつか??」
美絆の言葉に穂高はすぐにはピンとこなかったが、話している途中で思い浮かぶところが見つかり、昼間、チヨから返信が来ていた件に関してか、尋ねた。
「それしか無いでしょ~!?
――私は結構キテそうに思えるけど、穂高はどう思う?」
「どう思う?ったって、文面だけじゃなぁ~~……。
まぁ、佐伯さんの問題の動画を見せて貰った時は、結構ヤバそうに見えたけど」
美絆がチヨのメンタルの面で、話している事を穂高は何となく察し、昼間の六期生のグループチャットにあったチヨのメッセージからでは、チヨの疲労を、穂高は感じる事は出来なかった。
しかし、佐伯に見せて貰った動画では、穂高は動画をこれ以上見てられないと思う程、精神的にもやられているように見えた。
「――――ただ、ひたすらの謝罪……。
まぁ、時期が時期なだけに、同期や五期生、ひいては『チューンコネクト』全体に、迷惑を掛けてるっていう罪悪感があるんだろうな」
穂高は携帯を操作し、美絆の言うチヨのジスコードのメッセージを見返した。
チヨ こんな事になって、みんな、本当にごめんなさい。
今が大変な時期だっていうのに。。。
(中略)
もし、裏方でも協力できることがあるなら言って欲しい。
本当にごめんなさい。
チヨの謝罪は少し長文であり、穂高はいたたまれない気持ちから、何度も全文を読むことはできず、中を飛ばし、流して読む事しか出来なかった。
チヨのメッセージには、他の同期もすぐに気づき、サクラもエルフィオも、チヨを気遣うようなコメントをしており、美絆もリムとして、チヨに慰めるようなメッセージを送っていた。
(サクラもエルフィオも本気で心配してたし、今回の事で面倒事が増えたなんて、一ミリも思ってないだろうし、考えた事すらないと思う。
本当に、本心から来る、気遣ったコメントと、慰めるようなメッセージなんだろうけど、それが返って余計に、罪悪感を募らせていたりしそうだよな。
六期生の中では、一番の真面目だし……)
「――内部の事は、流石にお二人程、詳しくはないですけど、世間的にはそこまで大きな問題じゃないのでは?
事件後の『チューンコネクトプロダクション』の対応も早かったですし、ズイッターでの声明もその日の内に出ました。
配信では無いですが、チヨさんのズイッターから、本人からの謝罪と事情説明もいただいてますし…………。
事件の内容も、家族の声が乗っただけと考えれば、大したことは無い事のはず……」
穂高と同じように、翼は携帯でズイッターなどのSNSを確認しながら、そこまで大きな問題と捉えていない様子で、淡々と話した。
「――まぁ、確かに、チヨのズイッター上での謝罪の返信でも、チヨを心配する声で溢れかえってるし。
ボヤ騒動程度で収まってはいそうだけど……」
翼の言う通り、ズイッター上ではチヨを強く非難するような声は、あまり見られなかったが、それでも穂高の中には、不安が残った。
そして、そんな穂高の不安はすぐに的中することになる。
「――――穂高……。
多分、穂高はまだ知らないと思うから見せるけど、これ見て見て?」
翼も穂高も各々の携帯で、SNSを通じて情報を集めていたが、美絆も例外でなく、操作していた自分のスマホを穂高に見せた。
「――なんだこれ……、ジスコード??」
「うん。
昨日の事件のあった時に、チヨに個人チャットの方でもメッセージ送ってみたんだけど、今日、返信があってね??
穂高の携帯からも、このやり取りは見れると思うんだけど…………。
まぁ、とりあえず読んで?」
穂高は美絆が個人チャットでも連絡を取っていた事は知っていたが、確認不足であり、返信されていたコメントに気づいてはいなかった。
そして、美絆に促されるまま、チヨの返信を読む。
チヨ ごめん。
リムちゃんは六期生のまとめ訳みたいな所もある
からさ、リムちゃんにだけは言うけど。。。
私、もう配信出来ないかも。
「なッ!?」
チヨとリムとのやり取りを読み進めていくと、チヨの悲痛なメッセージが目に飛び込み、穂高は思わず声を漏らした。
「――これは……、深刻そうですね……」
美絆が穂高に見せたスマホの画面を、翼も穂高の隣から覗いており、穂高の声に続くように、神妙な面持ちで呟いた。
穂高は、美絆とのやり取りを詳しく見る為、美絆から携帯を受け取り、自分で操作しながら、何故こんなメッセージが飛び交っているのか、詳しく頭からやり取りを追っていく。
そして、数分が経ち、全てのやり取りを読み終えると、穂高は静かに美絆に携帯を返し、少しの間、誰も声を上げる事は無かった。
「――――トラウマ……、でしょうね。
私は、チヨさんの配信を見てはいないので、どんな惨状になっていたのか分からないですけど……。
まさか、本人の口からコメント欄を見るのが怖いと出る程、精神的にきていたとは」
少しの間流れた静寂に、一番初めに声を上げたのは翼だった。
翼は状況を整理するように呟き、この中で一番身近な存在と思える、穂高や美絆の表情を伺った。
「チヨの配信スタイルからして、一番こういった炎上とかけ離れてるからね。
配信の雰囲気は平和そのもの……。
エルフィオとかは、よくリスナーと言い合いになったり、偶にサクラもリスナーと喧嘩したりしてるけど、チヨは今までそういった事も無かったから。
否定的なコメントが一気に流れたりしたことが、やっぱりショックだったんだと思う」
「性格も関係してるだろう。
姉貴みたいに、やらかしたら土下座でもしてあやまりゃいいやみたいな、楽観的な性格でも無いし。
上手くコメントもスルー出来ずに、真に受けたんだろうな」
「――ちょっと……、一部聞き捨てならないんだけど??」
穂高の言葉に納得いっていない様子で、美絆は睨むように眉を顰め、穂高に抗議したが、穂高はそんな美絆を気にすることは無く、真剣な面持ちで、再度美絆に言葉を投げかける。
「――で? また、こうして俺を病室に呼んだんだ。
やりたい事があるんだろ??」
「今回は呼び出したわけじゃ無いよ……、私の電話の内容が気に食わず、勝手に来たんでしょ……??
――――まぁ、穂高の言う様に、やって欲しい事はあるんだけどね?」
穂高の言葉にため息交じりで答えた後、続けて、今度はニヤリと笑みを浮かべながら、美絆は穂高に言葉を返した。




