姉の代わりにVTuber 93
◇ ◇ ◇ ◇
桜木高校 放課後。
全ての授業を終え、最後のHRの終わりを告げるチャイムが鳴ると、いつもチャイム通りに、HRが終わる3年B組は、一気に生徒達の雑談で賑わった。
「――お~~い! 穂高~~!! 今日は一緒に帰ろう……って、あれ…………??」
ガヤガヤと賑わう教室の中で、武志は穂高の席へと、歩み寄りながら声を掛けるが、言葉の途中で穂高が既に教室にいない事に気付く。
「また、逃げられたのか? 松本……」
武志に少し遅れて、瀬川も穂高の席へと来ると、穂高がいない事を確認し、呆れ口調で武志に声を掛けた。
「あいつ、まぁ~~た一人で帰りやがって~~……。
な~んか、最近忙しそうにしてんだよなぁ~~。
昨日もすぐ帰ったし……」
「――お前が何か嫌われるような事したんだろ?」
「してねぇッ」
穂高がいなくなり、穂高の机の前で会話する二人を、少し離れたところで、春奈もその光景を見つめていた。
「なぁ~に、寂しそうに見つめてるの?」
呆然と既にいない穂高の席を見つめていた春奈に、ニヤニヤといたずらっぽく笑う瑠衣が、声を掛けてきた。
「さッ、寂しそうになんて別にッ……。
ただ、何か最近珍しいなって」
「天ケ瀬君? そうだね~~。
忙しいそうだよね~~」
穂高の最近の下校のスピードには瑠衣も気付いており、理由までは流石に知らなかったが、それでも不思議に思えた。
「まぁ、順当に考えればバイトとかじゃない??
バイトしてる子は、下校早いし……。
まぁ、天ケ瀬君は元々、放課後にあんまり残ってるイメージ無いけど……」
「うん……。
確かにね……」
春奈に話を振る瑠衣だったが、春奈の返事は何処か上の空の様子で、返事にも覇気はあまり感じられなかった。
「――――やっぱり、寂しい??」
「さび……、だ、だからッ! そうゆうのじゃないってッ!!」
「お? 惜しかったなぁ~~」
気の抜けた所がチャンスだと思い、瑠衣は再度同じ質問を春奈にしたが、言いかけた途中で、春奈は我に返り、茶化す瑠衣に対して強く否定した。
「――たく……、ホント瑠衣は油断も隙も無い……」
瑠衣に茶々を入れられたことで、春奈はそれ以上穂高の机の方を見る事無く、今日は部活があるため、穂高の後を追う事も出来ない為、そのまま潔く、放課後の練習へと向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇
東橘総合病院。
「――着いたぞ! 姉貴ッ!!」
穂高は急いで下校する成り、家には寄らず、そのまま直行で美絆の元へと訪れていた。
「ちょお~~~、ここ病院~~!
静かに入ってきなさいよぉ~~」
「それどころじゃねぇよ! 昨日あんなメッセージ投げてきたと思ったら、今日、あんな電話しやがって……」
少し大きな声で入ってきた穂高を、諫める様に美絆は声を上げたが、穂高はそれどころじゃないといった様子で、話しながら美絆の方へと歩み寄った。
「えぇ~~、ちょっとしたお願いじゃん~~」
「ちょっとじゃねぇ~~!! 無茶なお願いだッ!!」
駄々をこねる美絆に、穂高はその言葉を強く否定した。
◆ ◆ ◆ ◆
時は少し遡り、桜木高校の昼休み。
穂高は、武志達といつものように昼食を取っていると、昨晩のメッセージの通り、美絆から電話が掛かってきていた。
前々から伝えられている事でもあった為、穂高は特に驚く事は無く、武志達に一言伝えると、そのグループから抜け出した。
「――なんだ? 姉貴?」
「なんだとは何よ……。
昨日、電話するって言ったじゃん」
「いや、それは知ってるよ……。
要件を聞いてんの」
昼食を中断させられた事もあり、穂高は少し面倒そうに、美絆の電話に答える。
「まったく、姉からの電話だというのに、冷たい反応……」
「最近の姉貴は、何かしら面倒事を持ってくるからな。
自分の行動を悔い改めるんだな」
「酷いッ!!」
慣れた様子で、お互いに軽口を叩き合った所で、穂高が本題を促す。
「――――で? マジで何の用なの?」
「まぁ、用って言うよりは、またお願いなんだけど……。
昨日ね? 佐伯さんのチャットを見てて、面白い企画思いついちゃってさ~~」
「待て、既に嫌な予感がする」
浮ついた声で、電話越しに楽しそうに話す美絆に、穂高は昨晩感じた悪寒と同じものを感じ、全てを聞く前に美絆を言葉で制したが、美絆は止まる事無く、その思いついた企画を言い放った。
「一度やってみたかったんだよねぇ~~。
地獄の企画。
リムの弟とチヨのお兄ちゃんを合わせて、会話させてみよ~~う!!
どうッ!?」
「却下」
自信満々で話す美絆に穂高は酷く冷たく、一言でその企画を拒否した。
「えぇ~~! 良い企画だと思うのにぃ~~。
面白そうじゃん!!」
「ふざけんなッ!! 面白がってるのは姉貴だけだろ!」
「――はいはい。 とりあえず、企画は佐伯さんに通しておくから!」
◆ ◆ ◆ ◆
穂高は、今日の昼の出来事を思い出し、再度沸々と怒りが燃え上がってきた。
「――絶対にやらないからなッ!?
何より、佐伯さんがそんな企画通すわけがない!」
「えぇ~~~、通ると思うけどなぁ~~」
「無いな……。
――っていうか、なんで付き合い長い姉貴がそんな風に思えるんだよッ!?」
穂高と美絆が言い争いをしていると、美絆の病室の扉が、ガラガラと音を立てて開き始めた。
「――はぁ……、穂高さん? ここは病室ですよ??
静かにしないと、美絆さんのお体に障るでしょう」
誰かが入ってきたことに、穂高と美絆が気づくと、そこには一度もここに訪れた事の無い、珍しい人物がそこに立っていた。
「つ、月城さんッ!?!? な、なんでここに……」
「――あッ! 翼ちゃんッ!? 久しぶりッ!!」
病室に訪れたのは、リムの生みの親であり、穂高と美絆、両方と関りのある月城 翼だった。
翼は片手には手提げのバックを、もう片方の手には、お見舞い用の花束を携え、美絆の見舞いに来たといった様子で、そこに現れた。
「穂高さんがいつになっても全く、病院と病室を教えないので、佐伯さんにここを聞きました。
仕事の報酬として、半分脅し気味に聞いたら、穂高さんとは違って、快く、教えてくれましたよ?
――美絆さんッ! お久しぶりです!! 具合、大丈夫ですか??」
穂高を目を細めながら、怪訝そうに見つめ、美絆の元へと歩み寄りながら穂高に伝えた後、今度は一気に表情が明るくなり、心から心配するように美絆へと声を掛けた。
「お見舞いありがとう!! 体調は大丈夫だよ!
――チャットでは説明したけど、改めて、ホントにごめんね? こんな事に成っちゃってて……」
「いいえ! 美絆さんの誠意の籠った謝罪とご説明で納得致しました。
私の方こそ、お伺いするのが遅れてしまい申し訳ございません。
――いらない邪魔が入ったもので…………」
穂高の知らないところで和解したのか、リムの成代わりに関してのわだかまりに関しては、二人の間では解決されており、翼は最後に穂高を睨みつける様にして、美絆の言葉に答えた。
「――――あの~~、俺との対応と違いすぎませんか?」
「当たり前です、貴方が私にしてきた今までの事を考えれば……」
異論を唱えた穂高だったが、翼は当然の対応だと思っており、翼の態度を見て、穂高はその事に関して、これ以上深く追及したりはしなかった。
「――ちッ! 佐伯さんめ……。
もう少し、姉貴の情報で、リムのコラボとかにlucky先生を引っ張り出せると思ったのに……」
「――――穂高さん……、貴方まったく反省してないですね?」
穂高は美絆の情報を餌に、何度かluckyとしてリムの配信に引っ張り出した事があり、その手が使えなくなったことを嘆くと、かなり根に持っているのか、翼は増々怪訝そうな表情を穂高に向けていた。




