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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第六章 六期生(後)
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姉の代わりにVTuber 90


「炎上……って、一体何が……?」


全てが順調に思えた状況で、穂高ほだかは、あまりにも嫌な言葉を佐伯さえきから聞き、恐る恐るといった様子で、具体的な説明を求めた。


穂高から説明を求められた佐伯は、一呼吸置き、落ち着いた様子で淡々と話し始めた。


「――――チヨの配信中に、チヨの声じゃない、別の人の声が入り込んじゃったの。

ただ、声が入り込んだだけなら、問題は無かったんだけど、

配信中の対応と、入り込んだ声が男性のものだったのが、結構大きな問題になっちゃって……」


「――声…………。

配信中の対応って、何かマズい事をしちゃったんですか……?」


穂高は一瞬、「そんな事で」とも思ったが、配信中には、自分も起こりうるはずは無くとも、一応気にかけていた事であり、穂高よりも、まだ入院する前だった、姉の美絆みきが何より、細心の注意を払っていた事でもあった。


ファンの中には、そういった事を気にする層がいる事も、頭の中では分かってはいたが、炎上を経て、改めて、穂高はその事の重要性を再認識した。


「――百聞は一見に如かず……。

多分、口で説明するより、実際に配信を見てもらった方が速いわね」


穂高の問いかけに、佐伯は自身のスマホを取り出し、素早く操作すると、穂高に渡した。


「これ以上、炎上を大きくする理由も無いから、Zoutube上の動画は消してあるの……。

ただ、配信は会社が保存してあるから、私のスマホからなら、問題があった配信を見返せるわ」


操作されたスマホには、問題が起こった箇所まで、動画を進められており、再生するとすぐにその場所を見られるようになっていた。


穂高は佐伯の言葉を聞きながら、手渡されたスマホを操作し、動画を再生し始めた。


「――――これか……。

確かに配信に入っちゃってるな……」


穂高は問題のシーンを見て、深刻そうに呟いた。


穂高が見た動画には、確かに、チヨ以外の声が配信に入ってしまっており、なんと言っているかまでは、聞き取れはしなかったが、男性の声だというのは、何度見返さずとも、分かってしまった。


そして、問題のシーンの後、穂高が見た動画には、配信画面にその時の、リアルタイムのコメントが流れており、男性の声が入って以降、明らかにコメントの内容が、異様なものへと変わっていったのが分かった。


(――――見てらんねぇな……)


男性の声が入ってしまい、それが配信を見ていたリスナーにも、知られてしまった事にチヨが気づくと、途中から明らかに調子を崩し、コメントには必死に気づかないフリをしながら、何とか配信を続けようとしていた。


ただ、急な事で、頭の中はパニックになっているのか、時折会話が支離滅裂なものになってしまい、あまりにも痛々しい配信に、穂高は心は暗く重い、どんよりとしたものを感じた。


配信側の気持ちがよく分かる為、事情はどうあれ、穂高はチヨに深く同情した。


(――偶に、この状況を楽しむような、おちょくるようなコメントや、誹謗中傷も流れてる……。

この配信は、Zoutube上にはもう無いって、佐伯さんは言ってたけど、多分、消しても拡散はされちゃうんだろうな…………。

悪意の含むコメントは、この配信以上にもっと増えるだろうし、今はもっと辛いだろう……)


穂高は佐伯のスマホで、置かれた状況がよく分かり、借りたスマホを佐伯の元へ返した。


「――――とりあえず、今はチヨのマネージャーが、チヨと連絡を取って、事態の収拾を図るために、配信に入ってしまった声の事を聞いてるところよ?

まだ、私達もあの配信で一体何があったのか、全てを理解している状況じゃないの…………。

――そして、何より、私達が今一番に考えなくてはならない事……、それは…………」


「五期生一周年記念ね……」


佐伯の言葉を代弁するように、美絆が言葉を遮るように声を上げ、美絆の言葉で穂高は、チヨが今動けない事で出てくる弊害が、自分が思っている以上に大きい事を、再認識した。


「リム達の配信を見ているから、五期生一周年記念のお祝いアートが、もうじき完成する事は知ってる。

多分、完成させる事……、その事に対しては問題は無いと思う。

――ただ、今日予定されてる六期生の配信……、確実にそこのコメント欄が荒れる」


佐伯は真剣な眼差しで穂高を見つめ、佐伯の視線から、穂高は佐伯が自分に何を期待しているか、何となく察した。


「――そうゆうコメントは極力拾わないです。

チヨの問題に関しては、俺達からじゃ無く、『チューンコネクトプロダクション』の方から正式なコメントが出るでしょうから……」


「――極力じゃ無くて、絶対よ……?

ウチの会社も伊達に六期生までデビューさせてないわ……。

こういった炎上にも経験がある。

ノーダメージとはいかないけれど、上手く対処は出来るはず。

ただ、一番問題なのは、演者達の精神的苦痛……。

渦中のチヨもそうだけど、穂高君も悪意あるコメントには充分気を付けて、自衛して……」


佐伯はバックアップとして、配信外でならば穂高達に、最大限に力を貸し、支援することが出来たが、配信中では何もすることが出来ず、ただ穂高に心構えをする事、それを教える事しか出来なかった。


自分の無力さを佐伯は感じながらも、力強く、穂高に言葉を投げかけた。


佐伯の成功を祈る様な、力の籠った言葉に、穂高は深く頷くと、今度は美絆が話し始める。


「一先ず、今日の配信は、穂高、サクラ、エルに頑張ってもらうとして……。

問題は、五期生の一周年記念の本番よね……。

佐伯さん、チヨは何日間くらい、活動休止をするの?」


(休止…………?)


美絆の言葉を、穂高はあまり予想していなかった。


「――まだ、事情が分かってないから何とも言えないけれど、

過去、似たような炎上で、違う子が二週間休止してるわ……」


「二週間も…………?」


佐伯の言われた期間に、穂高は驚きつつも、頭の中で、すぐさま今後のスケジュールに、活動休止になる期間を当てはめる。


「――――一周年記念に間に合わない……」


「そうなるね……」


穂高は一周年記念の開催予定の日にちと、休止期間が被ってしまう事に気づき、穂高の言葉に、美絆も深刻そうに呟いた。


「一周年記念にチヨが参加できないとなると、六期生が企画していたもう一つの事……。

五期生の一周年配信に、一人一人がコラボしていく企画が出来なくなるわ。

金城かねしろ せな、モーリア、田中たなか ゾフィの三人はコラボ相手がいるものの、今回、チヨと抜擢した黄昏たそがれ 久遠くおんの相手がいなくなる。

誰か代役を立てないと…………」


「――――代役……」


佐伯の言葉は、現状では仕方のない言葉だったが、今回のこのコラボは、一つ下の後輩である六期生が、五期生の為に、色々と企画し、祝うというコンセプトであった為、そこで代役を立てると、コンセプトがブレてしまうように、穂高は思えた。


しかし、そんな考えがあったとしても、佐伯の出した案よりも、良いものがすぐに思い浮かぶはずも無く、久遠には少し申し訳ないと思いながらも、佐伯の案を尊重するしかなかった。


「――――佐伯さん、代役って言っても、すぐに決まるものなの??

準備もそれなりにあるし、ゆうても、みんな忙しいよ?」


「そうね……、でも、それ以外方法はないでしょ……」


代案を立てるのも簡単な事ではないが、穂高も佐伯もそれしか方法が無いと、そう確信していた、その時だった。


「――――代役を立てるのもいいけど……、リムが久遠先輩の配信にも出るのはどう?」


「はぁッ??」


唐突な美絆の提案に、穂高は思わず声を漏らした。


「馬鹿っていってんな! モーリアとのコラボで俺はいっぱいいっぱいだぞ!?」


「またまた~~、穂高なら何とかするでしょ~~??」


穂高は内心、また美絆の無茶ぶりが始まったと思い、今回の提案ばかりは絶対に否定しようと、そう思った所で、美絆は更に続けて話し始めた。


「――っとまぁ、それは流石に、穂高にも酷だよね……、準備大変だろうし…………。

まぁ、おねぇちゃんは、穂高はそれでも出来ると思うんだけど……、

おねぇちゃんもそこまで鬼じゃ無いから強要はさせないよ……。

――――ただ……」


美絆はそこまで言いかけたところで一度、会話を途切れさせ、一呼吸置いた後、真剣な眼差し、そして自信満々な表情で続けて言葉を発した。


「――私が配信して、久遠先輩のコラボ配信に出演するよ!!

勿論、リムとしてねッ!」


美絆の自信満々な表情から発せられた言葉に、佐伯も穂高もすぐに言葉を返す事が出来なかった。


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