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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第六章 六期生(前)
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姉の代わりにVTuber 88


 ◇ ◇ ◇ ◇


桜木さくらぎ高校 通学路。


一通りの授業を終え、沢山の生徒が帰宅する中、穂高もその流れの中にいた。


(やべぇ……、結局、俺の種目決まってねぇ…………)


穂高ほだかは、球技祭の種目決めの事を思い出し、焦りを感じていた。


球技祭の種目決めは、あの後も白熱し、結局、サッカーと野球だけ人数が決まり、肝心のバスケと、あまり力を入れていない球技である、バレーだけが残っていた。


その原因として、穂高と同じように、優勝を目指す雰囲気のクラスに、自分が足を引っ張りたくなく、運動に自信の無い者が、軒並みバレーに流れたのが一番の原因だった。


(結局、あの時話してた面子で決まらなかったのは、俺だけ……。

日にちもそんなに無いし、次の学級会では意地でも、バレーを取らないと……)


穂高は、今日の反省を踏まえ、次の種目決めの際には、絶対に第一候補である、バレーの種目に確定されるよう頑張ることを決意した。


そんな決意に漲る穂高は、珍しく一人で下校しており、部活があるあきら瀬川せがわはさておき、武志も今日は、学校で居残り補修があるため、一緒に誘って帰る事が難しかった。


穂高も、いつも通り、帰ればリムの配信が予定されているため、あまり長く学校に居座ることが出来ず、武志を見捨てる形で学校を出ていた。


(他の仲良い奴らは、クラスちげーしな……。

HRが終わるのも、クラスごとに違うし、ウチのクラスのHRはやけに早く終わるしな……)


穂高は、周りが友達などと一緒に帰っている為、少しだけ心細く感じていたが、心の中で簡単に理由付けし、それ以上は考えないようにした。


(とっとと帰って配信、配信……)


穂高のここ最近の配信はほとんどが、五期生の一周年記念にあてたもので、六期生とのコラボ配信も順調に進み、残す所はあと一枠のみで、お祝いアートも完成真近といった感じだった。


そして、今日がその最後の仕上げを行うコラボであり、既に行う事、段取りは済んでいる状況ではあったが、抜かりが無いよう念入りに準備を、穂高は行うつもりでいた。


意識が配信に向いた事で、穂高の足取りは速くなり、少しだけ急ぐように、歩き始めた、その時だった。


「――――あ、あま……せ、君~…………。天ケあまがせく~~ん!!」


少し遠くから何かを呼ぶ声が聞こえ、その声は段々と穂高へと近づいていき、何度目かの呼びかけで、ようやく穂高は自分が呼ばれている事に気付いた。


歩くスピードを速めた穂高であったが、呼ばれている事に気付いた事で、その場で足を止め、声のする方へと振り返った。


「――ん……? あれは……、杉崎すぎさきか……??」


声のする方へ視線を向けると、そこには穂高の方へ走ってくる、春奈はるなの姿がそこにあった。


春奈の姿を見た事で、穂高は一瞬、色々な雑念が思い浮かび、関わるのはやめておこうかと、そんな考えも過ったが、無視できる状況に無い事と、妙な噂で自分が気を使う事を馬鹿馬鹿しく感じ、こちらへ向かってくる春奈を、その場で素直に待つことにした。


「――はぁ……、はぁ……、やっと追いついた……。

天ケ瀬君、帰るの速いよね」


穂高の元へとたどり着くと、春奈は息を切らしながら話始め、途中、一呼吸入れると、運動部な事もあってか、すぐに正常な呼吸へと戻っていった。


「まぁ、杉崎みたいに学校に残ってだべる事も無いからな……。

――っとゆうか、部活は??」


「え? あ、あぁ、今日はオフだよ!

毎週この曜日はオフになってるから……」


「ふ~~ん」


穂高は、春奈に聞きたい事を聞くと、簡単な相槌を打ち、再び歩き始め、穂高に続くようにして、春奈も歩き始めた。


「――あ! そういえば、こないだPainパインのメッセージありがとね?

色々、ネットとかで、二次試験の面接の内容を調べてくれたみたいで……。

凄い役に立ったよ!」


穂高の隣に並ぶようにして、歩き始めると、春奈は一番話したかった話題を振り始めた。


(あぁ、姉貴になんとか聞き出した。面接での質問内容の事か……)


穂高は春奈に言われ、病室で美絆みきにからかわれた、余計な事も思い出し、少しだけ嫌な気分に陥った。


「そりゃどうも……。

ネットでの情報だから程々に宛にしろよ~?

まぁ、変な事質問されないようだし、自信を持って自分を出していけば、大丈夫だろ」


「――う、うんッ……、そうだねッ……」


淡々と話す穂高に対して、春奈は今、既に緊張している様子で、面接を想像してか、体に変な力が入っていた。


「今から緊張してたら、持たないぞ?」


「だ、だよねぇ~~……、分かってる……、分かってるんだけど……」


穂高の忠告は、春奈には効いておらず、春奈も穂高に言われた事が、頭では理解できていたが、どうしても、面接の事を考えると、無意識に体が反応してしまっていた。


そんな、春奈を見て、穂高はため息を一つ吐くと、励ましになるかは分からなかったが、少しでも気持ちを和らげるよう、ある昔話をし始めた。


「――――昔な? リムの配信で、言ってたんだけど……、リムも面接を受ける前は、相当緊張したらしいぞ?」


「――――え?」


穂高は、昔の、『チューンコネクト』に入る前の、美絆の事を思い出しながら、懐かしむように話を続けた。


「今でこそ……、とゆうか、デビュー当初から堂々としてたリムだったけどさ? すげぇ、意外だよな……。

デビュー前もそうだけどさ? 面接の時も、トイレから出てこれないくらいの腹痛で、緊張してたみたいだぞ?

――だからさ、みんな、今の杉崎と同じなんだよ。

普通に緊張もするし、嫌な想像は拭っても拭っても、すぐに思い浮かぶ」


穂高は当時、そんな状況にあった美絆に、何度も休んだり、日にちを変えて貰ったらどうかと、提案したりしていたが、穂高の提案を振り切り、腹痛の薬を片手に、デビュー配信や、面接へと向かっていた。


穂高はそんな美絆の後姿を見て、心から尊敬し、凄いと感じていた。


この話が、春奈の緊張の和らげに繋がるかどうか、穂高には分かりかねていたが、今デビューしている『チューンコネクト』のライバーも、今の春奈と同じような時期があったと、それだけは伝えたかった。


(小さい頃から、何でもできて、冗談なく無敵に思えた姉貴が、あそこまで弱るなんて、当時は驚いたけど。

それだけ、このVtuberの世界に掛けてたんだろうな……。

ただ、あんな状況にあった姉貴にだって、乗り越えられたんだ。

素人の俺から見ても才能があることが分かる、杉崎に出来ない事はないだろ)


穂高は、春奈に対して、何故か絶対的な才能を感じており、その才能は、姉である美絆が持っている物と、同じような物を春奈に感じていた。


昔から、穂高のその勘は、妙に当たり、姉である美絆にも感じていた為、いくら彼女が弱ろうと、成功を疑う事だけは無かった。


「へ、へぇ~~、リムもそんな緊張を抱えてたんだ……。

確かに、天ケ瀬君の言った通り、意外……」


「だよな? デビューしてからすぐにハチャメチャやってたのにな?」


六期生の中では、一番フットワークが軽く、大先輩にも容赦なく、コラボを持ち掛けていた大胆なリムとは、かけ離れたイメージに、春奈は感慨深そうに呟き、気付けば、体に入っていた妙な力も、抜けかかっていた。


「トイレに籠るぐらいの腹痛はないだろ? 流石に……。

なら、多分大丈夫!

一次試験で、配信の才能は評価してもらえてるわけだしな」


穂高は最初の問いかけに春奈が頷くのを確認すると、更に続けて勇気づける様に伝え、笑顔で語り掛ける穂高と、穂高の言葉に、春奈は不思議と安心感を覚えた。


「――確かに、一次審査……、通ったんだもんね、あたし……。

うんッ! なんだか自信が出てきた!!」


穂高の励ましは上手くいき、自信を取り戻した春奈を見て、それ以上は何も言う事無く、満足げに笑みを零した。


そうして、落ち着きを取り戻した春奈だったが、冷静になったところで、一つ疑問が浮かび上がる。


「――――あれ? そういえば、さっきのリムの話って配信で話してたっけ??

切り抜き動画でも見た事無いし、聞いた事も無いような……」


「え? あ、あぁ~~ッ! メン現配信だよ、メン現!!

俺はリムのファン、傀儡かいらいだからさ~~。

メンバー登録もしてるんだよなぁ~~」


「そ、そうなんだぁ~。

なら、知らなくても当然か……」


かなりその場の思い付きに近い言い訳で、穂高は話している途中でも、言い訳の無理やり感から、思わず乾いた笑いが零れたが、苦し紛れの言い訳は、春奈に通り、それ以上の追及は、何とか逃れることが出来た。


(――あっぶねぇ~~~。

思わず、ペラペラと喋り過ぎた……。

最近、緊張感が抜けてんなぁ、俺……。

腹痛になるぐらいの緊張感を持つべきは、俺だな)


危ないところもあったが、穂高は春奈を勇気づける、目的は果たすことが出来、春奈に自信を付けさせて、二次試験に挑ませることが出来そうだった。



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