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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第六章 六期生(前)
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姉の代わりにVTuber 79


 ◇ ◇ ◇ ◇


(ヤバい……、結局何も思い浮かばなかった…………)


休日が空け、憂鬱な月曜日を迎えた穂高ほだかは、学校へ向かい登校する中で、先週の出来事を思い返していた。


(案件終えた次の日に、配信外で六期生全員で集まって話し合ったけど、結局何するかは纏まらない……。

――――六期生って意外と決断遅いよなぁ~~……。

まぁ、サクラも含め、意外と真面目だからな、みんな…………。

下手なこと出来ないし、慎重になっちゃてるんだろうな)


穂高はリムとして、同じ六期生のサクラやチヨ、最近ではエルフィオとも交流が多くなってきた為、配信では中々見る事の出来ない、人となりが段々と分かってきていた。


知った人柄から、段々と彼女達の思考も配慮できるようになり、穂高なりに結論が出ない問題に、答えを導き出した。


(本当にもう決めなきゃいけない時期だし、何なら、もう行動に起こしてても良い時期だよな~~。

――先輩に何するか聞くのもありか?

三期生のシノブ辺りにでも聞くか??)


穂高が成り代わる前から、何かとリムと交流があり、穂高も絡みやすい先輩の一人である、三期生のシノブに、穂高は何をするかを、一先ず相談することに決めた。


(シノブ先輩も妙な縁だよな~~。

デビューでいったら離れてるし、姉貴と波長が合ったから仲が良いんだろうけど……)


元気で明るい活発なシノブは、姉のリムとは愛称が良く、コラボも人気であり、先輩であるシノブに、舐めた態度を取るリムの構図が、かなり好評だった。


穂高もシノブとは何度かコラボした事もあり、内容は完全に姉の美絆みきを参考にし、シノブに対して気を使わない形で接したりしていた。


(でも、あの人意外とテキトーだからなぁ……。

基本的には真面目なんだけど、変なところ手を抜くというか、成り行きに任せちゃうというか……。

もう、何でもよくね?とか平気でいうし……)


穂高は唯一出かけた希望も、望み薄な雰囲気が漂っていた事に気付くと、再びどんよりとした表情を浮かべ、落胆した。


そして、そのまま大きなため息を吐いた時だった。


「おはよ! また、いつになく朝、辛そうだね??」


大きな不安を抱える穂高に、明るい女性の声が投げかけられ、登校している朝方から、女性に声を掛けられる覚えのない穂高は、少し驚いた表情で声の方向へと顔を向けた。


向けた方向には、この時間に会うのは珍しい、春奈はるなの姿がそこにあり、どんよりとした穂高とは対照的に、清々しい雰囲気で、可愛らしく微笑みながら、穂高を見つめていた。


「おはよう。

いつになく朝は辛いよ……。 月曜日だしね」


穂高は急に春奈に話しかけてこられた事にびっくりしたが、特に取り乱すことは無く、春奈と話すことも依然と比べれば慣れたもので、淡々とした様子で言葉を返した。


学校に近づいて来ているこの道には、穂高と春奈以外にも、同じ制服を来た学生がちらほらと見受けられた。


その中で、やはり学校でも有名な春奈は視線を集めたが、前に一緒に下校していた頃よりは、変に視線を集めることなく、一時期異常なほどに色々と噂された二人には、その視線は慣れたものでもあった。


「――あッ! そういえば、休日に会って以降、あまり話す機会無くて、天ケあまがせ君にはまだ言えてなかったんだけど……。

先々週にね? 一次の合格発表があってね? 受かったって報告があったのッ!!」


「本当かッ!?」


春奈は嬉しそうに穂高に報告し、穂高は佐伯さえきから七期生のオーディションの話は聞いており、内容から、春奈は落ちたものだと思い込んでいた為、その驚きはひときわ大きかった。


「二次は? 二次試験は何やるんだ??」


一次試験を受かった事は、穂高にとっても嬉しい事だったが、まだ本格的には喜べず、二次試験の内容を春奈へ尋ねた。


「え? うん、二次試験は面接みたい……。

『チューンコネクトプロダクション』の社員の方と面接をするみたい」


「面接…………」


春奈の言葉を聞き、穂高は少し昔の事を思い返した。


(そういえば、姉貴もなんか面接の練習とかしてたな……。

内容に関しては、姉貴から聞けばいいか……)


デビュー後、『チューンコネクト』のメンバーも、オーディションを受けていた当時の事などを、配信で語っている事もあった。


そのため、穂高は美絆に面接の内容を聞く事に、特に躊躇する事はなかった。


穂高は春奈の二次試験で協力するか、簡単に頭の中でまとめると、少し冷静になり、改めて春奈に賞賛の言葉を贈る。


「――とりあえず、ひとまずおめでとう!」


「ありがとう。

――でも、まず一番最初はその言葉じゃない??」


春奈はすぐに穂高の発した言葉を貰えると思っていた為、少し不服そうにしながら、からかうように穂高に伝えた。


「ごめん。

まずはそうだったな……」


穂高は素直に謝ると、春奈は満足したように笑みを浮かべた。


そのまま、二人は二次試験の事について話し合い、穂高も知りうる限りの二次試験の事を話した。


「天ケ瀬君も中々知ってるね~。

――でも、ごめん……、大体聞いたことあるかな…………」


春奈は苦笑しながら、お互いに情報共有しながらも、お互いに知っている情報しかなかった事に少し、落胆していた。


「――まぁ、結局は『チューンコネクト』のメンバーが、配信で話してた情報だけだからな……。

それでも無いよりはマシなんだけど……」


「お互いに関係者じゃないしね」


「そ、そうだな…………」


春奈の最後の言葉に、穂高は言葉詰まりながら答え、現状二人が持ちうる情報だけでは、対処できない事がわかった。


「あ、天ケ瀬君……さ? 今後、また色々面接の練習とかもしようかなって思うんだけど……。

一次試験の時みたく、協力頼めないかな……??」


「――え? あ、あぁ、もちろッ……」


少し不安げに尋ねる春奈に、穂高は反射的に協力することを答えようとしたが、言葉は途中で止まっていた。


(――今の時期に手伝える余裕が俺にあるのか?

直近だと、五期生の事もあるし、他にもまだまだ控えてるイベントが大量にある。

配信だって今後も続けてかないといけないし……)


気持ちを言えば、勿論手伝いが、穂高の置かれた状況が簡単には、それを許さなかった。


(でも、あの高い倍率であろう一次試験を抜けたんだッ!

運の要素も大きかったと思う……。

もう一度受けて、一次試験を抜けれる確証はないし……)


「だ、駄目だよね……? 天ケ瀬君も忙しいだろうし……」


中々答えを返さない穂高に、春奈は申し訳なさそうに、少し顔を伏せ、呟いた。


(――だぁぁぁあッ!! もうどうにでもなれッ!!)


穂高は半ば投げやりに、心の中で叫ぶと、悲しげに呟く春奈に言葉を投げかける。


「手伝うよ。 ここまで来たら、最後まで……。

杉崎すぎさきが『チューンコネクト』のメンバーになるまで!」


今の忙しさに、春奈の手助けをできる自信はなかったが、隣で残念そうに春奈をそのままにすることはできず、穂高はキッパリと、手伝う意思を春奈に伝えた。


「な、なるまでって……。

今回の試験で落ちるかもしれないのに……」


「なんで落ちる前提なんだよ。

今回の試験で受かる気でやらないと。

――まぁ、落ちても変わらず協力はするけど。

一度乗った船だしな」


穂高は発言した後に、勢い良く答え過ぎたかと感じたが、春奈にはそれほどまでに、『チューンコネクト』のライバーになって欲しいと思ってもおり、発言に後悔はなかった。


「ありがとう……」


結局は、はっきりと協力すると答えた穂高に、春奈はぼそりと小さく呟くように答え、隣にいる穂高に表情を見られないように、先ほどよりも顔を伏せていた。



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