姉の代わりにVTuber 68
◇ ◇ ◇ ◇
(――――何でこんなことに……)
南室駅周辺。
穂高は、自分の地元から電車を乗り継ぎ、約束の場所へ訪れていた。
この先に起きるであろう事を想像すると、どんどんと気分がどんよりとしていく中で、自分の隣に立つ一人の女性に視線を向けた。
「――――なにか?」
穂高の視線に気づいたその女性は不満そうに、眉をひそめながら穂高に言い放つ。
「――いえ……、なにも…………」
更に気まずい雰囲気が流れる二人は、目的を果たす為、再び沈黙し、他の約束している人物たちを待つ。
(少しは打ち解けたかと思ったけど、まだまだ壁は厚いよな……。
元々、男嫌いって聞いてるしなぁ~~……、事情は聴いてるけど、なんで俺なんだ…………)
穂高は、lucky、リムの母とも呼べる、リムのキャラクターを生み出した月城 翼と駅で待ち合わせをしており、翼の頼みの為、休日を返上し、翼の用事に付き合っていた。
「――え、えぇ~~っと……、まだ来ないですね……」
「そうですね……」
すぐ隣に立つ翼だったが、会話の様子から穂高との心の距離はとてつもなく大きく離れており、気まずさを解消するために穂高が会話を投げかけても、余計に気まずさが増していく状況にあった。
しかし、それでも穂高は諦める事無く、気を損ねないよう注意しながら、言葉を投げかける。
「――い、一応、チャットとかでは聞いてましたけど、今日は具体的にどんなお方が来られるので??」
「ほとんどが、私と同じ活動をなさってる方です。
プロのイラストレーターとしてそれなりに活躍していますし、知名度もある有名な方達です」
「そ、そうですか…………」
穂高は事前に聞いていた事を改めて確認し、事の重大さに、余計に委縮し始める。
「――――そ、その~~、どういった経緯でこんな事に??」
続けざまに穂高は質問を返したが、穂高のその質問は翼の勘に触れたのか、氷のような冷ややかな目線で、睨まれた。
「アナタのせいですよ? 元はと言えば……」
「――え?」
思わぬ責任転嫁に、穂高は思わず声を漏らし、驚いたが、翼は八つ当たりなどとは一切思ってはおらず、続けてその理由について話す。
「いいですか? 私は元々、表立って活動したりなんかはしてこなかったんです。
絵師としての活動は長いですが、メディアになんて出る事はおろか、ファンとの交流もズイッターで言葉を返す程度です。
――それが、穂高さん……、リムとのコラボで配信に声が乗った事で、色々と各方面からお声が掛かることが多くなったんです!
元々お話してみたかったんです~~!とか、こんどお食事行きましょう~~!!とか。
はぁ~~~、今までは、めったに他の方と交流している素振りも見せなかったから、近寄りがたい存在として活動出来たし、人づきあいが苦手だからありがたい環境だったのに…………」
穂高の質問で、今まで言いたかったことが全て溢れ出た、そしてそれらは、早口で捲し立てられ、最後には悲しそうに、寂しそうに、悲壮感漂う様子で嘆いた。
「――そ、それは……、何と言いますか…………、ご愁傷様です」
穂高の言葉は再び勘に障ったのか、翼は先程よりも鋭く穂高を睨んだ。
「すみません……」
翼の恐ろしさは、以前身をもって知っている為、穂高は素直に謝罪し、これ以上、刺激しないように努めた。
「――――そ、それで、今日の俺は、どんな立ち位置でいればいいのでしょうか?」
今日の穂高はとことん下手に、翼に尋ねた。
穂高が頼まれた内容は、絵師達の交流、お食事会の付き添いであり、勿論リムの中身とは言えない為、何か嘘でも翼との関係性を明確に作っておかなければならなかった。
「一応、助手……? 弟子?? 付き添いを一人連れてきますとは伝えています」
「て、適当ですね……」
「しょうがないでしょ? 私も急なお誘いでしたし、慣れない事でテンパっていましたし……」
翼は事前に、今日会うであろう絵師たちに、穂高を連れていく事を伝えてはいたが、翼の反応を見る限り、穂高は不安しか感じなかった。
「――――あ、あの~~……、なんで、俺なんですかね~?」
「他に急に呼びつけてこれるであろう、召使いがいないからです」
「召使い…………」
キッパリと答える翼に対して、穂高は悲しく呟く他無く、あの一件以来も、色々と借りがある為、滅多に逆らう事はしなかった。
「別に、俺でなくとも友達だったりとか~~、男の人も苦手だってお伺いしてますし、女の知り合いでも良かったんじゃ……?」
「友達なんていないです」
「――――は、はぁ……、な、なんかすみません…………」
穂高の質問に翼はハッキリと、キッパリと言い放つように断言し、してはいけない質問をてしまったと、瞬時に察した穂高は、顔を青く染めながら、声細々と、謝罪した。
「別に、謝られるような事じゃッーーーー」
ずっと気を使ってきた穂高に、翼は今日初めて、その事に関しては、気を使わせないよう言葉を返そうとしたが、その言葉は他の者の言葉によってかき消された。
「――も、もしかしてッ、lucky先生ですか?」
翼の言葉を遮り、声を掛けてきたのは男性であり、男性の後ろには数名、他の男女を引き連れていた。
(この人が今日会う予定の人たちか……?)
穂高は、顔も声も、名前すらも知らないその男女の集団に、頭に?マークを浮かべる事しか出来なかったが、翼の反応を見て、何となく目的の集団のように感じた。
「――え、えっと……、はい……。
始めまして、luckyこと月城 翼と申します」
翼は穂高と接している時よりも、思いっきり不器用に穂高は見え、傍から見た際には一見礼儀良く、社交的にも見えたが、今までのズバズバとした物言いが嘘のように、人見知りを発揮していた。
「――凄い美人…………」
「綺麗…………」
声を掛けてきた男性の後ろにいる集団から、そんな声が漏れて聞こえ、穂高も初めて翼を見た時に、そんな事を思っていた為、当然の反応に思えた。
「――は、始めまして、私は白ゴマです。
櫛田 遼太郎と申します。
今日は来ていただいてありがとうございます!」
(普通に、良い人そうだな…………)
翼の容姿に、後ろの集団同様に少しだけ怖気づいているような、緊張しているようにも見えたが、翼の言葉に丁寧に男は返事を返した。
穂高は声を掛けた来た人の他にも、後ろの集団へと目をやり、人数をざっと目で追っていた。
(女性3名、男性2名……。
目の前の白ゴマさんと、先生と俺を合わして男女4名ずつの計8名か…………。
何ともバランス良く、綺麗に集まったもんだなぁ~…………)
穂高は呆然とそんな事を考えていると、まだ振られないと思っていた自分に話が降られる。
「えっと、そちらの方がお手伝い……、アシスタントの??」
白ゴマと名乗る、櫛田は穂高へ視線を向けながら翼に確認し、穂高は翼が首を縦に振るのを確認すると、自己紹介を始めた。
「初めまして。
自分みたいなプロでもないお手伝いが今日はすみません……。
皆さんのお邪魔にならないようさせていただくので、よろしくお願いいたします」
穂高は固いとも思ったが、翼の事前の説明から、自分があまり合っていない、場違いな場でもあることを知っていた為、堅苦しく思われようとも、最初は丁寧にあいさつを返した。
「――い、いやいや! そんな、僕たちなんて大した絵師じゃないし、そんな畏まることないよ!
今日は楽しく話せたら僕たちも嬉しいから! よろしくねッ!」
「すみません、ありがとうございます!」
翼の印象だけは下げないよう、穂高は好青年を出来るだけ演じ、角が立たないように努め、そして、絵師7人と素人の穂高を含めた8人の集団は、ご飯を食べる場所として予約していた店へと向かった。
誤字報告いつもすみません。
助かります、ありがとうございます。




