表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
閑話 天ケ瀬 穂高の日常 ~紫の女性~
61/228

姉の代わりにVTuber 59


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――さぁッ! キックオフですッ!!」


長時間ゲームをしていく中で何度も聞いた、ゲーム内に録音された、当時、現実で解説として活躍していた解説者の声で、セリフが発せられると、それを皮切りに、ゲームの中のキャラクター達が次々と動き出した。


従来のロールプレイのような、自分で選手を操作し、相手のゴールを狙うといったゲームではない為、キックオフと同時に、リムはほぼほぼゲームに関してはすることが無くなり、配信に力を入れ始める。


「始まったね! それに運も良く相手ボールから!」


前半は、フォーメーション的にも、リムのチームは自分たちから仕掛けていく形では無く、自分たちの守りやすいように、相手に攻めさせ、凌ぎつつもチャンスがあればカウンターを狙っていくといった、そんな戦術を使っていた。


5-3-2……、落ち着いて行こうッ!

死んでもゴールだけは守って!!


あらかじめ、リスナーと作戦を練っていた事もあり、リスナーに趣旨は完璧に伝わっており、目指す目標を共有出来ていた。


「――リムちゃんの言ってた通り、スロースタートだね……」


「大丈夫? 勝てる??」


ゲームが始まってから、作戦と言えど、試合は防戦一方であり、ボールの支配率は圧倒的にサウジアラビアのチームだった。


見栄えとして良いはずも無く、チヨとサクラは応援をしながらも、不安そうにリムに尋ねる節が、何度かあった。


「多分、点は取られないとは思う……。

GKゴールキーパーは、強い外国人選手だから。

――まぁちょっと、リスナーがドイツ国籍だから上手いだろうって、偏見な部分入ってたけど……」


「だ、大丈夫……? ホントに……」


試合が始まり、数分が経過したばかりだったが、リムの言葉にサクラは不安げに呟き、チヨも苦笑いを浮かべ、乾いた笑い声が零れていた。


ドイツの方なんだから上手いに決まってる! 能力も悪くないし!

お金掛かってる選手でもあるからなッ! 大丈夫!

ドイツの守備は組織的だからなぁ~~、派手さは無いけど、強いしカッコいいよな

海外では人気無いけど、日本人は好きな人多そうだよな? 


リムの配信のせいか、傀儡かいらいの中にはサッカーの知識を付けた者が多くなりつつあり、また周りに感化されてか、サッカーに興味が無かったであろうリスナーも、付け焼刃程度ではあったが、それなりに知識を付けて来ていた。


「――あッ! ドイツで思い出したけど、2014年のWカップ見たよ!!」


「14年?? なんで、また……」


リムとそのリスナーである傀儡しか知りえない話題に、サクラとチヨはあまりピンと来ておらず、サクラは不思議そうに聞き返す。


「傀儡がね~~? 見ろ見ろうるさいからさぁ、一番おすすめされてたブラジル戦見たんだけど…………。

凄い、面白かった……は少し違うかな……。

試合自体は面白くはあったんだけど、なによりも衝撃的だったな」


だろッ!?

あぁ~~、あの試合ね、Wカップ偶に見る程度だけど、あれだけはよく覚えてる

当時、朝起きてブラジルが5点入れられてたのを見て、夢かと思ったもん


「――な、なんか、リムと傀儡達凄いね……。

配信をちょくちょく見てたから、何となく気付いてはいたけど、詳しくなったよね?

明らかに……」


リムとリムのリスナー、傀儡達とのやり取りをみて、サクラは驚きを隠せない様子で、ポツリと呟いた。


「まぁ、始めた当初よりはね?

段々、現実のサッカーに詳しい人も配信に来るようになって、色々教わったりしてね~~。

でも、どこの界隈のオタもそうだろうけど、推しが強くて……。

私だけじゃなく、元々サッカーに疎い傀儡達にもベストバウトをどんどんおススメされて、気付いたら私も含め、サッカーに興味の無かったリスナーにまで知識が付いちゃってさ」


「リムちゃんのファンは元々いろんな層が見てるからね……。

意外と新しいもの拒まずみたいな所がありそう」


最近の経緯をざっと話したリムに、チヨは興味深い事を呟き答えた。


(いろんな層……か…………。

そういえば、俺は姉の配信を真似て、姉貴の復帰までのバトンを繋ぐことしか、今まで考えて無かったけど、そういった需要とか、リスナーの食いつきそうなコンテンツについて考えて、研究したりするのも面白そうだよな……。

今まで、姉貴はいろんな界隈に手を出して、活発に行動していた分、意外と、他のメンバーと同じような路線を取らなくても、ウケも悪くないのかもしれない)


チヨの言葉は穂高に引っかかり、今まで現状維持が精いっぱいなところがあった穂高にとって、ハッと気づかされるようなそんな言葉でもあった。


しかし、そんな事を呆然と考えていた穂高だったが、あまり深く、長くその事について考える事は出来ず、ゲームの進行によって、集中を再び配信へと向けさせられた。


「――や、ヤバいよッ! リム!!

相手チームがまた、凄い勢いで攻め込んできてる!」


試合が始まって、もう何度目の攻撃かもわからなかったが、サウジアラビアは体制を整えると、センターからのジリジリと攻め上げ、リムのチームのフォーメーションを崩し、尚且つセンターで十分に溜めを作ったところ、両ウィングの抜け出す準備が整い、ボールは右サイドへ出された。


綺麗にセンターから上がった敵の裏を突くパスは、抜け出した右ウィングへと渡り、右サイドから一気にゴールまでボールを運んでいった。


「や、ヤバいッ!!

ご、ゴール前ッ!! ゴール前固めて!!

――――ってゆうか、今の抜け出しオフサイドでしょッ!!」


配信タイトルには一応、『サカなる』最終回と銘打っている手前、リムもこの試合で負けるわけにはいかず、ついついゲームへ熱が入る。


前半は毎回ヒヤヒヤッ!!

ヤバい、またサイドからセンターにボールが上がってくるぞッ!

相手のFWフォワード身長高いからな! 合わせられたらヤバい!


サウジアラビアの攻撃は分かっていても、中々防ぐことが難しく、リムのフォーメーションは5バックでもあった為、味方ゴール前の選手は多く、混戦になっても有利ではあったが、油断は一切できない状況にだった。


「センターに上がったッ! 止めてッ!!」


自慢の俊足を活かし、綺麗に抜け出した右サイドから、再びセンターへと放物線を描くパスが上がり、そのボールに合わせて、両チームの選手が高く飛び上がった。


そして、上がったボールを見て、自分の選手たちに願う様にリムは声を上げた。


「ゴォォォォオオルゥゥゥウウウッ!!」


リムの願いは届かず、実況の気合の入った音声と共に、『チューンコネクトウォーリアーズ』の失点が告げられた。


「えぇぇぇえええッ!! マジッ!?」


右サイドから綺麗に上がったパスは、センターゴール前で待ち構えていたサウジアラビアの選手へと届き、高身長から繰り出されるヘディングシュートになすすべも無く、ボールはゴールへと吸い込まれた。


リムは何度も防いできた攻撃パターンでもあった為、心のどこかでまたクリアできると、そして、そこから再びカウンターへと繋げられると、考えていたところもあり、驚きと、前半45分は点を取られない作戦でいた為、目的も達成できずにその落胆は大きかった。


ヤバいww、最終戦、きな臭くなってきたなwww

まぁ、サウジアラビアの攻めはもう何度も食らったしな、そろそろかとも思った

リム、最終回ってサムネイルに書いてあるけど、大丈夫か?ww


前半25分での得点に、試合の雰囲気は怪しくなり、リムのリスナーも、からかっている部分も大きかったが、リムを心配するコメントが多く流れた。


「リ、リムちゃん? 前半は点を取られないって事だったけど、大丈夫?」


「――これは……、負けた場合はどうなるんだっけ……?」


「や、やめてッ! ま、まだ負けてないから!!」


チヨとサクラは配信コメントを見ながら、不安を煽る様な事をリムに告げたが、リムの心はまだ折れてはおらず、怪しい空気をかき消す様に声を上げた。


そんな、気持ちがまだ切れてはいないリムであったが、複数の気になる配信コメントが目に入り、リムが見た同じコメントが、目に入ったサクラはそのコメントを拾った。


「リ、リム……、なんでかこっちのチームの体力が、消耗しているらしいけど大丈夫?」


「えッ!? いや、そんなはずはッ!」


リムはサクラとコメント欄の指摘に気付くと、一通り選手の体力を確認した。


そして、そこには体力ゲージを真っ赤にした二人のFWの姿がそこにあった。


(や、やべぇ……、終わった…………)


ゲームの画面を見つめる穂高は、何が起こったのか分からず一瞬思考が停止し、絶望的状況に思わず心の中で呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ