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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第四章 カグヤ騒動
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姉の代わりにVTuber 42


◇ ◇ ◇ ◇


翌日。


穂高ほだかはその日の日直という事もあり、普段よりも早く学校へ登校しており、昨日、春奈はるなから借りたDVDの件もあって、その旨を彼女にも伝えていた。


学校に着くなり、面倒な日直の仕事を穂高は手早く終わらせると、まだ誰も登校していない教室でゆったりとした時間を過ごした。


朝早い時間ではあったが、部活動で朝練を行う生徒は大半が登校しており、校庭、あるいわ部活動で使用する教室が多くある別校舎から、生徒達の元気な声が聞こえて来ていた。


穂高がいる校舎にはまだ、それほど生徒はおらず、遠くから微かに様々な音が聞こえ、完全に静まり返っているわけでは無く、遠くに人の声を微かに感じられるこの時間帯が何故か、穂高は好きだった。


この桜木さくらぎ高校に入学して、偶然、この朝の静かな時間帯を見つけてからは、偶に早く登校し、特に日直などの少し早い時間に、登校しなければならない際は、必ずこの時間帯に登校するようにしていた。


「さてと……、何するか…………」


特に何かをしようといつも決めているわけでは無く、その日、その時によって行う事は様々だったが、よく行う事は読書だった。


(一番良いのは読書なんだろうけど…………)


穂高は、本を手に取ろうとしたところで、その手を止め、携帯を操作し始める。


そして、Zoutubeを開くとすぐに、おすすめ欄の動画に『チューンコネクト』のライブ配信が、おすすめされている事に気付く。


予知見よちみチヨの朝雑談……」


穂高はおすすめから同期の配信を見つけ、イヤホンを装着すると、その動画を流しながら、ノートと教科書を開き、授業の予習へと移った。


自分の教室という事もあり、イヤホンは片方のみを付け、聞き流す程度に配信を流していた。


穂高は勉強をするには、少し雑音が多いような気もしていたが、元々、静かなところよりも少しだけ騒がしい所、家でも見る事は無くても、テレビなどが流れている方が、落ち着くという事もあってか、そこまで気にもならなかった。


そして、そんな時間を一時間程過ごしていた時だった。


遠くから、穂高のいる校舎、そして穂高のいる階層で、廊下を走る足音が聞こえ始めた。


その足音はどんどんと穂高に近づいていき、音がすぐそこへ来た時、穂高は自然と廊下へと視線を移す。


「あッ……、いたッ! おはよう!

早いね!? 天ケあまがせ君」


穂高の教室へ現れたのは、昨日、一緒に下校した春奈であり、走ってきた為、少しだけ息を切らしていた。


「あ……、おはよう。

もう部活は終わったの?」


穂高はイヤホンを外し、春奈の対応を始める。


「まぁね! 昨日の事もあったし、急いで来ちゃった!

――――あッ! それ、今やってるチヨちゃんのライブ配信??」


春奈は穂高の受け答えをしながら、自分の机に簡単に荷物を置き、あまりにも自然に穂高の隣の席へと座った。


(あぁ~~、なるほどね……。

こういうさり気ない、距離の詰め方が異性に勘違いされる理由なんだろうな。

陽キャなら当たり前なんだろうけど…………。 四天王の名前は伊達じゃないな……)


春奈の行動にそんなアホな事を考える穂高だったが、すぐにそんな雑念を捨て置き、春奈の質問に答える。


「そう、丁度やってたからね……。

チヨは早くも朝の配信のスタイルを取り始めたけど、凄いよね?

自分の長所をよく分かってる」


「ねぇ~~。

チヨちゃんの声は癒されるし、なんかふわふわした声だもんねッ!

こういうのを改めて考えながら見てると、増々自分に自信が無くなっちゃうよ」


穂高の言葉に春奈は全面的に同意し、明るく話す彼女は、傍から見て『チューンコネクト』の事が好きなんだとよく分かり、チヨと自分の練習を思い比べ、理想と現実を知り、苦笑いを浮かべながら付け足して答えた。


「ま、まぁ……、この人はプロだからね……。

まだ、比べるべきじゃないでしょ」


「えぇ~~、でも、私にこんな癒し系な声は出ないし……」


穂高の言葉に、自信がない春奈はそう答え、春奈のそんな言葉に、穂高は引っかかった。


「声も確かに重要だし、魅力の一つかもしれないけど、VTuberって別に声が良ければいいってものじゃないでしょ?

みんな、どこかに個性を見出して、それぞれの魅力で配信してる」


「そ、そうだけど…………。

わ、私の配信での魅力……、武器って無さそうで…………」


いつも活発で、四天王の中でも一番男気、度胸のありそうな春奈は、この話題になるといつも弱気になり、穂高はまず何より、このメンタルに問題があると、そう思った。


「――――はぁ~~……、仕方ねぇな」


「え……?」


穂高はいつもの少し気を使った丁寧な口調から、あきら達と話すような口調へと変わり、穂高のそんな反応に、虚を突かれたように春奈は声を漏らした。


「Vtuberに詳しい俺が、DVDを見てどこが気になったか、これから教えてやる。

素人だから宛にし過ぎて貰っちゃ困るけど、一視聴者の意見として受けて止めて貰えれば参考にはなるだろ?」


感想を伝えるだけだった穂高は急遽予定を変更、口では素人と装ってはいたが、リムとして配信した実績、更にはリムの前に数年、配信をしていた事もあった為、より配信者として具体的な意見を出す事を決めた。


自分でもここまでするつもりは無かった為に、驚く節もあったが、お節介が働き、春奈にもVtuberになって欲しいとそう思えた。


「あ、天ケ瀬君……? 砕けていいとは言ったけど、きゅ、急に口調が……。

それになんか、あの時、色々心配事があるようだったけどいいの?」


「問題無いだろ……。

今、教室に誰もいないし、四天王の杉崎すぎさきさんに慣れ慣れしい話し方しても、妙に悪目立ちする事も無いしな。

それに、本気でなりたいんだろ? VTuberに……」


春奈から見て、穂高はただのVtuberが好きなリスナーにしか過ぎなかったが、それでも何故か穂高の言葉には説得力を感じ、穂高の言葉を聞き、春奈は不意にある人物が思い浮かんだ。


「――――てっちん…………」


「ん? なんか言ったか?」


「――あ……、い、いや! 何でもないよ!

なりたいよ……本気でッ」


春奈の今にも消えそうな声で呟いた言葉は、穂高には届いておらず、春奈はすぐに我に返ると、穂高の熱意に応えるように、力強く返事を返した。


「――よし! 時間は…………、もうそろそろ部活上がりの生徒が、返ってくる頃だから今からは無理か……。

放課後、それまでに何かに要点を書いて渡すから、ほんの少しだけ時間を空けといてくれ。

とりあえず、コレ……、返しておく」


穂高は簡単に頼まれた春奈の動画だったが、自分のリムの勉強も兼ね、何度も見返しており、内容はほとんど頭に入っていた為、本来であれば、指摘するつもりが無かった箇所も、今日中に纏めようとそう考えていた。


「――――え? あ、ありがと……。

か、感想とかも放課後に?」


「端的にだったら言えるけど、それでいいか?」


「あ、あぁ、いやッ! あ、後でいいよ!

放課後ね? 分かった」


穂高は前日になんて答えるか用意してきた為、簡単に良い所と悪い所を一つ二つ答える事が出来たが、お節介が発動した穂高は、それだけでは飽き足らず、春奈も具体的に色々答えてくれるのであれば、見せれる相手は今のところ穂高しかいなかった為、それを望んでいた。


そうして、穂高と春奈が話していると、段々と他の生徒の話声が近づいてくるのが分かった。


時間も時間であり、春奈が戻ってきたこともあり、どんどんと部活終わりの生徒、あるいは普通に登校してきた生徒が、ぞろぞろと教室に向かってくるのが分かった。


穂高はそれに気付くと、昨日の放課後の件もあり、二人で話していれば、また余計な噂が立ちかねないと考え、簡単に一言別れを告げ、トイレに向かおうとした。


「あッ! ま、待ってッ」


教室に二人でいる事をあまり見られたくなかった穂高は、教室から出るつもりだったが、そんな穂高を春奈は止めた。


「あ、あの~~さぁ……、きょ、今日もお願いがあるんだけど……さ…………」


言いずらそうに話す春奈に穂高はデジャブを感じており、もう既に嫌な予感を微かに感じていた。


「下校……じゃないよな…………?」


異性であり、本来であれば、泣いて喜ぶであろうその提案は、穂高にとって恐ろしいものであり、穂高は表情を若干引きつらせながら、恐る恐る尋ねた。


「――――ダメ……かな?」


言いずらそうにしていた春奈に、穂高は気を利かせ、自分から要件を口に出し尋ねており、そんな穂高の気遣いに応じる様に、心細そうに春奈は、少し上目遣いをしながら尋ねた。


(――――ムッ……、これを駄目だと答える勇気は……、俺には…………)


「いッ、イイヨ…………。 モンダイナイ……」


壊れたロボットのように、片言の口調で、穂高の瞳は完全に死んでいた。


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