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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第一章  成り代わりVTuber
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姉の代わりにVTuber 2


◆ ◆ ◆ ◆


穂高ほだかの姉、天ケあまがせ 美絆みきはVチューバーだった。


一年前からVチューバータレント事務所である、『チューンコネクトプロダクション』のオーディションを受け、総応募者何十万という厚い壁を乗り越え、今年の春、晴れてVチューバーとしてデビューしていた。


『チューンコネクトプロダクション』とは、数年前からVチューバータレントを所有しており、先見の明から、Vチューバーが現在ブームになる前から、そのブームの走りの一角をになっていた。


世間からは『チューンコネクト』と呼ばれ、『チューンコネクト』は今、総勢24名ほど、新人のデビューは単発では無く、数名一気にデビューさえ、一期生、二期生と区切りをつけ、デビューさせる方針を取っていた。


途中からファンになった者も分かりやすく、溶け込み入りやすい、そして、美絆はその『チューンコネクト』の6期生としてデビューしていた。


◆ ◆ ◆ ◆


「―ーは、はぁ!? な、何言ってんだ!?」


穂高は姉のあまりにも突拍子の無い発言に驚き、遂に頭がおかしくなったのかとまで疑った。


「美絆、何言ってるの?

弟君で代わりが務まるわけないでしょ!? いい加減にしなさい!!」


佐伯もすぐに美絆の意見を否定し、驚いてはいたが、穂高のように取り乱しているような雰囲気では無く、聞き分けの無い子供に呆れているような、そんな風にも見えた。


「配信をしていないという期間を私は作りたくない。

入院中でも幸い、同期や先輩達とのチャットのやり取りはできる」


「そんな問題じゃねぇだろ……」


美絆の目は本気であり、配信できなければ死んでやると、宣言した時と同じ雰囲気、表情をしていた。


「無理よ……。

まず、弟君が配信するとして、大前提、声はどうするの?

姉弟とは言え、男と女……。

ハッキリいって似てる声でもない」


(突っ込むとこ、そこかよ……)


穂高は反論した佐伯にそんな風な事を思ったが、もちろん彼女にふざけているような様子は無く、一つ一つ現実的な問題を美絆にぶつけていき、理詰めで諦めさせようとしているようにも見えた。


穂高ほだかなら、私の声は真似られます。

やれるよね?」


急な流れに穂高は、付いて行けてない節もあったが、睨むように真剣な表情でこちらを見る美絆の意図は、何となくわかったいた。


「メラニー法か……」


穂高は嫌な予感しかしなかったが、姉の期待に応えるように、美絆の考えを察し、代弁するように答えた。


しかし、佐伯はピンとは来ていない様子で、顔をしかめた。


「二時間、三時間と私の声を真似て配信できるでしょ?」


「無茶いうなよ。

やった事無いし、数分だって難しいぞ?」


どんどんと穂高が代わりに、配信する流れへ話を進めていく姉に対し、穂高は必死で無謀な事を伝えた。


「ちょ、ちょっと待って!

なんの話をしてるの? 無理に決まってるでしょ!?」


非現実的すぎる話で、穂高を代わりに仕立て上げようとする美絆に、佐伯はたまらず声を上げた。


そしてそのまま、佐伯は声を上げた後、真っ先に一番気になっていたであろう話を、疑問形で問いかけた。


「メラニー法?」


「あ、あぁ、ボイストレーニングの一種です。

男性が女性的な声を出すために行う。

昔、やってた事があるんです」


「か、仮にそのメラニー法を行ってたとして、弟君は美絆の声を出せるの?」


「真似をしてたんで、似せた声を出すことは出来ます。

でも、メラニー法で配信なんてまずやった事ないです」


「そう、出来るのね……。

――でも、やっぱり長時間出来ないのであれば無理よ?

特に、最初は物凄い頻度と長い時間配信をするわ……。

必ずボロがでる」


(――ん? 今…………)


穂高がメラニー法での話と、姉の声を出せるという事を佐伯に伝えた瞬間、一瞬表情が明るくなったように見えた。


しかし穂高は、そんな些細の違和感など気にしている場合では無く、姉の暴走を止める事に集中した。


「深夜の配信は難しいですけど、それ以外の時間帯の配信であれば、私も何かの形で穂高には指示も送れます。

基本的には穂高一人の戦いにはなるかもしれないけれど、穂高もストリーマーとしての経験はあります」


「そうなの?」


美絆は話せば話す程に冷静になっていき、淡々と自分の代わりに穂高を立てる方向へと話を持っていき、佐伯をその気にさせようとしている意図が見えた。


美絆はまるで何か企画をプレゼンしているかのように、問題を一つずつ解消していき、佐伯もやはり、本音では休業をさせたくない、配信を止めたくないのか、美絆の話に耳を傾けている節があった。


「穂高の配信経験は三年です。

それもほとんどが一人語りか、何かテーマを設けて話すような事をしてました。

企画も立ち上げたり、個人でやってましたが、リスナーもそれなりに集めれてます」


「もしかして、穂高君も人気配信者を目指してた……とか?」


「い、いやッ!? 単なる趣味です……」


穂高は恥ずかしい過去を暴露されたかのように一気に顔が熱くなり、咄嗟に佐伯の言葉を否定した。


しかし、そんな穂高の行動も空しく、早々に腹を括った美絆は、淡々と真実を話した。


「穂高はラジオパーソナリティを目指してたんです。

タレントや芸能人とかでは無く、ただ純粋にラジオ一本だけをやっていく……、ラジオDJ」


「ちょおぉッ!? 姉貴ッ!?」


流石に耐え切れず、穂高は姉にくぎを刺す様に、声を張り上げた。


確かに、穂高はラジオDJに、特に中学生の頃に強く憧れていた。


ハマるきっかけは本当にひょんなことがきっかけであり、偶々気分が落ち込んでいた時にあるラジオを聞き、そこからその世界に興味を持っていった。


最初は聞くだけだったが、途中から熱心に、はがきやお便りを送るようになり、SNSを駆使し、ハッシュタグをつけ、番組宛にメッセージを送ったりと、気づけば昔で言う、はがき職人のような事をするまでになっていた。


そして、気づけばその世界に自分も入りたいと思う様にもなっていた事があった。


「ラジオに出たいの?」


佐伯は案の定珍しいものでも見るかのように、驚いた表情を浮かべながら、穂高を見つめ呟くように尋ねた。


「あ~、いや、まぁ、昔に目指してた事はあったかもしれないです……」


穂高は火のない所に煙を立たせた美絆に、恨み節を心の中で呟きながら、額には冷や汗をかきつつ、誤魔化す様に答えた。


「穂高は高三に上がってからは配信してませんが、中学3年からずっとストリーマーとして、ラジオパーソナリティになる為に、主に雑談をメインに活動してます。

芸能人でもなく、有名人でもないのに、ライブ配信で同時接続5000を突破してます」


「5000!?」


「いや、めちゃめちゃまぐれです!

基本は1000程度しか集まってないです。

それも二年目の最後の方での話で、最初はもっと酷いです」


美絆の提案に乗るとも思えなかったが、勢いに押され気味の佐伯に、穂高は恥ずかしい事だったが、事実をそのまま伝えた。


「『チェーンコネクト』のネームバリューでもやっていける、リスナーの満足いく配信は作れるはずです。

活動休止は痛すぎます。 試してみる価値はあると思います」


美絆は少し懇願するようにも見えたが、自身のマネージャーにきちんと弟でもやっていける可能性、休止しなくてもいい選択肢があることを伝えた。


(ヤバい……、姉貴は本気だ…………。

俺を代わりにって話が出た時から嫌な予感はしてたけど……)


穂高自身、代わってやれるのであれば代わってあげたいが、現実的に考えて問題が多すぎた。


まず、いくらよく知っている家族と言えど、姉の真似をし続けるのは無理だった。


声は最悪どうにかなったとしても、咄嗟の行動、会話の中での自然な返しの真似は無理があり、姉のデビューした時と比べ、穂高が影武者になった時に違和感が生れ、仮にリスナーが穂高に慣れてくれたとしても、美絆の復帰した際にまた違和感が生れる。


確かに長期の休止は無くなるが、あまりにもリスクが大きかった。


「姉貴は多分本気なんだろうけど、無理だぞ?

さっきマネージャーさんも言ってたけど、絶対ボロが出る。

例え、モノマネを芸にしているプロがやったとしても、確実にバレる」


穂高は自分の密かに抱いていた夢をばらされ、その事に対して腹も立っていたが、真剣な表情のまま、覚悟の決まっている姉に、再度確認するようにそう告げた。


「私はもう腹を括った。

穂高、一生のお願い……」


このまま何もせず休止に追い込まれれば、本気で自ら命を絶ちかねない、美絆の一生の願いは、あまりにも重く、穂高に引き受ける以外の選択肢は無く感じた。


しかし、それでも、ここまで美絆の圧に押されても尚、理性がそれを受け付けない。


「――――い、いやッ! 駄目だッ!!

冷静に考えてみろ、あねッーーーー」


「――穂高。

お願い…………」


ギリギリのところで拒む穂高だったが、穂高のそんな抵抗は、美絆の声に遮られた。


ここまで強引に話を進めてきた美絆は、最後の最後で、穂高に縋るように頼み込み、穂高は遮られた言葉の続きを飲み込んだ。


「――――分かった、俺も覚悟を決める。

どうなっても俺は知らんぞ? それに、俺だけの承諾じゃ通らないからな??」


穂高はそう告げると美絆から視線を逸らし、姉のマネージャーである佐伯に視線を向けた。


穂高の視線、そして遅れて向けられる美絆の視線を感じ、佐伯は自分の返答を求められている事を自然と察し、ゆっくりと話し始める。


「――現実的に考えたら絶対に許可できない。

常識的に考えても今は、休止するべき……。

ただ、わがままをそこまで通したいならこっちにも条件があるわ」


穂高は流石にそこまで、すんなりと認めてくれるとは、もちろん思っておらず、条件を出されることは必然的だとも思っていた。


その為、あまり驚きもしなかったが、緊張は走り、思わず生唾を呑んだ。


「まず、先んじて今週の一週間だけは、確実に休止にする。

そして、この一週間の間で、弟君には姉の配信を真似た動画を三本、そして三日間、関係者各位だけを含めてプライベート配信にて、ライブ配信をしてもらう。

ライブ配信の際にはきちんと学校にも行く事。

学業を両立してできないのであれば何の意味もないから。

そこで、『チューンコネクト』の社員の同意が得られなければ、強制的に完治まで活動休止。

その条件をクリアしてなら活動を許可してもいい」


「正当な判断で、何の思惑も無く判断してくれますか?」


穂高は思わず佐伯の提案に、難癖をつける様に返事を返した。


「当たり前でしょ? 約束する。

ウチとしてもできるのであれば、活動休止の手段はできるだけ取りたくないの。

正当な目で判断するわ。

美絆もその条件でならいいでしょ? これが飲めないなら活動は休止」


「分かった。 約束する」


そうして、この病院で、三人だけが知る、穂高が姉の成替わりのVチューバーを行う方針が決まってしまった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 穂高に断る以外の選択肢は無く感じた 断る以外の選択肢が無いって書いてあるのにすぐに受けたのはなぜですか? 前後の文章的に、受ける以外の選択肢が無い、ように感じられるんですが
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