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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第三章 母なる者
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姉の代わりにVTuber 28


「――――あなたが今、リムさんの中に入っている方ですか?」


会議室で待っていたと思われるluckyラッキー先生に、声を掛けられ、部屋の空気は一気にピリつく。


「は、はいッ! 初めまして。

六期生 堕血宮おちみや リムの中身、

天ヶあまがせ 美絆みきの弟、天ヶ瀬 穂高ほだかです」


穂高は先生の迫力に押され、用意してきたセリフを忘れ、思わず彼女の流れに乗るように自己紹介をした。


穂高の目の前に座る女性は若く、そこまでの歳の差を感じなかったが、彼女には有無を言わせぬようなオーラがあり、穂高はそんなオーラに飲まれ気味だった。


「そうですか……。

私は、luckyという名で絵を書いてます。

月城つきしろ つばさと言います。

ここに来たのは言うまでもなくッ…………」


「すみませんでしたッ!!」


翼が全てを言い終える前に、穂高はその言葉を遮るように、声を上げ謝罪をし、再び頭を下げた。


「――――何がですか?」


翼の声は依然として冷たく穂高に掛けられ、穂高は顔を上げるとそのまま質問に答えていった。


「先ほども申しましたように、先生には絵を書いていただいているのにも関わらず、このような重大な事を相談しませんでした。

その上、バレるまでは名乗る……、打ち明ける事も無く……、騙すような真似をしてしまいました」


「――――はぁ~……。

私だけでは無く、視聴者も騙しているんですよ?

一体どうゆうつもりなんですか?

訳を話してください……、話していただいたところで納得は出来ないと思いますが…………」


穂高と会社全体で不義理を働いている『チューンコネクトプロダクション』に、呆れるようにため息を話すと、翼は穂高達に事情説明を求めた。


そして、そんな翼の要望に応えるように穂高達は、今に至るまでの経緯を具体的に話し始めた。


「――――なるほど、事情は分かりました。

お姉さん……、美絆さんの願いを叶える為にリムを演じる事になったと……。

そして、『チューンコネクトプロダクション』としても、それを許したと……」


翼は軽く握った右手を口元までもっていき、下唇に沿う様に、人差し指を軽く当てるようにし、考え込むようにそう告げた。


そして、呟くように話した翼の最後の言葉に、鈴木はピクりと反応をし、佐伯も少し顔をしかめた。


その反応の意味するところを穂高は分からなかったが、続けて話した翼の話でそれは明らかになる。


「鈴木さん、佐伯さん……、私が『チューンコネクト』の仕事を引き受けた理由。

そして、貴社と私で結んだ契約を覚えていらっしゃいますね?」


穂高への追及は一時中断され、矛先は『チューンコネクトプロダクション』ひいては、社員である鈴木と佐伯へ向いた。


「は、はい、覚えております……。

男性VTuberへの絵の担当はしない。

そして、仕事を引き受けていただいたのは、リムが女性VTuberであり、中身が女性であるからです」


「そうですね…………。

そして、佐伯さん? あなたはその話をしている時、その場にいたはずです」


鈴木の答えに翼は軽く頷き、今度は視線を佐伯へ一点に絞り、追及するように質問した。


「――――は、はい……、おっしゃる通りです」


まるで尋問のような翼の言葉に、申し訳なさそうに佐伯は呟き、それを認めた。


「今回の件、バレなければ私に報告するつもりも無かったのでしょう……。

弟さんの立場、美絆さんの事情には同情しますが、会社として『チューンコネクトプロダクション』は、もう信用できません」


「この度の不手際については、一切申し開きのしようもございません」


正論を淡々と述べる翼に、佐伯はそう答えながら頭を下げ、鈴木もそれに続くよう頭を下げた。


そんなぐうの音も出ない鈴木達に、翼は追撃の手を緩める事無く、今度はゆっくりと席を立った。


「――――今日来た目的は果たせました。

経緯も良く分かりましたし、もうこれ以上話す事は無いでしょう」


話し合いを打ち切り、その場から立ち去ろうとする翼に、鈴木と佐伯は声を出し止めようとしたが、実際に言葉が出る事は無く、全面的に鈴木達が悪い為、なんと声を掛ければいいのか一瞬では分からなかった。


そんな、二人に変わり、同じ当事者でもある穂高が声を上げる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!」


穂高の声に翼は一瞬ピクリと体を跳ねらせ、驚いたが、すぐにいつもの雰囲気を取り戻し、穂高に答えた。


「なんですか?」


出会った時から一貫して変わらぬ、氷の様に冷たい視線に、穂高は一瞬、躊躇ためらいながらも、一度発した言葉を引っ込めず、聞きたいことを素直に告げる。


「告発……なさるんでしょうか?」


「いいえ……、そんな事はしません。

ただ、私が今後、堕血宮 リム、『チューンコネクト』関連に関わる事は無いでしょう」


「そ、それは、リムの今後の衣装……、あるいは、公式イラスト等全てから手を引くという事ですか?」


「そうなります。

私がリムの絵を描く事は無いでしょう」


恐る恐る尋ねる穂高に対して、翼は淡々と穂高の質問に答えていき、最悪では無いにしろ、それに近い形の状況にある事を、鈴木達は再認識した。


翼の絵は、世間から高い評価を得ており、かねてから絵の活動もしていた為、彼女のイラストのファン、ひいては彼女自体のファンも多くいた。


そして、男性嫌いという、彼女のデメリットをもってしても、翼に絵の依頼は多く入っていた。


(ここでリムの担当絵師を降りたら、今後新衣装、他グッズに関するイラストも他の絵師が担当することになる。

もちろん、リムの絵を今後書かない事は、公表するだろう。

たとえ公表しなくとも、ファンの多いlucky先生だ……、必然的にバレる。

そうなった時、嫌でも変な噂は経つ……)


穂高は翼の言葉から、今後の活動に及ぼす影響を考え、そしてすぐに結論は出た。


「凄く勝手な事ですが、どうか、リムの担当を続けていただく事は、出来ないでしょうか?」


「無理ですね」


藁にも縋る思いで放った穂高の一言は、考える間もなくバッサリと翼の言葉で切り捨てられる。


「それは、俺が男だからですか?」


穂高は自分でもどう話を振っていけば良いか、分からなかったが、このまま何も言わず、彼女を返す事だけは、してはならないと分かっていた。


「――――それ以上に大きな問題があるかと思いますが……、それも一因ですね」


淡々と話し続け、こちらへ何かを譲ってくれそうにも無い翼に、穂高は完全に八方ふさがりであった。


(い、一体どうすれば…………。

もう、この人に担当をやって貰うのは無理なのか?

説得するにもここまできっぱりと断られたらどうしようも…………)


穂高は遂に諦めかけた、その時だった。


前日、姉の美絆と話していた会話を思い出した。


そして穂高は、おもむろに話し始める。


「先生は、極度の男性嫌いなんですよね?」


「そうですね……、この世から滅んで欲しい程に…………」


(そ、それはどうなんだ……? この世から人間が絶滅するぞ…………)


翼の言葉に、穂高は背筋に冷たい汗を描きながら、話を続ける。


「先生って、なんでリムの担当は引き受けたんですっけ?」


「ッ! そ、それは……、『チューンコネクト』を以前から推していて…………」


穂高の投げかけた最初の質問を受け、初めて翼の表情が変わり、穂高はその翼の表情を見逃さなかった。


「ほんとにそれだけですか?」


「そ、それだけとはどうゆう意味ですか……?」


今まで淡々と話していた翼は、言葉に一瞬詰まる。


そして、そんな翼に穂高は美絆から聞いた話を、翼に付きつけるよう投げかけた。


「姉貴から、こんな話を聞きました。

六期生の打合せ、担当絵師と中身の配信者が、初めて顔合わせと挨拶をした時、声を凄く褒められたと……。

そして、姉貴はッ…………」


「待ちなさいッ!!」


穂高が話を言い終える前に、翼は大声を上げ、穂高の話を遮り、最後まで内容を言わせる事を防いだ。


穂高は内心、この手が卑怯にも思えたが、ここで彼女を返すわけにはいかず、その話題を躊躇なく出し、今まで無表情で、涼しい顔を浮かべていた翼は、初めて焦りを見せ、穂高をキツく睨みつけた。


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