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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第二章 自分のスタイル
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姉の代わりにVTuber 21


「いやぁ……、ホントにハルは好きだね~~。

Vtuber……、とゆうより配信がかな?」


春奈はるな穂高ほだかの話を今まで、黙って聞いていた瑠衣るいは、話の区切りがついたところで呟いた。


「確かに意外ですね……、あんまりこうゆうのに興味無さそうっていうか……。

こういう事言ったら変ですけど、やっぱりオタク系の趣味ですし…………」


春奈に対しては、何となくタメ口で言葉を返せる穂高だったが、四条しじょう 瑠衣はお嬢様であり、穂高はそれを知っていた為、嫌でも背筋が伸びてしまう。


「ねぇ~~? ハルは学校では硬派でクールのキャラクターで通ってるのに……。

とうゆうか、天ケあまがせ君??

私もタメ語でいいよ!

なんか、同い年でも敬語で話してくる人が多くて、いつもそれが気持ち悪いし……」


「あ……。ご、ごめん。

で、でもやっぱり、四条さんはほら、お家がさ??

この辺に住んでて知らない人はいない程の名家だし……。

そりゃ、緊張したりもするって……」


「一緒にテニスした仲なのに??」


「ちょ、そ、それは関係ないと思うんだけど……」


穂高は元々女子が得意では無かったが、中でも瑠衣のような天然で、距離を詰めてくるタイプが一番苦手とするタイプだった。


もちろん、今日一緒に遊び、お嬢様でありながら気さくで接しやすく、良い人なのは充分分かっており、嫌いではないが、少し神経質な、自分のパーソナルスペースを大事にする穂高は、得意なタイプでは無かった。


そして、思わぬ話題から、それどころでは無かった穂高は、自分が最も苦手とする、自分一人に対して女子複数という空間に、今置かれていた事を改めて理解した。


「瑠衣~~。 天ケ瀬君困ってるでしょうに!

名家のお嬢様が嫌な絡み方しないの!!」


「えぇ~~、ダル絡みしてないよ。

ね? 天ケ瀬君??」


穂高はどんどんと自分の苦手な状況に、そして流れになっている事を気付き、危険を察知した穂高は自分の話題から、再度相手の話題へ、話を逸らす。


「そ、そんな事よりさ!

何で杉崎すぎさきさんは、配信者とか好きなの??

してんのッ……、じょ、女子の話題とかだったらさ、あんまりそうゆうの上がらなそうじゃない?」


「――え……? あ、あぁ……、それは…………」


穂高は瑠衣が放った言葉を疑問に感じており、何気なく春奈にその事を尋ねると、何故か途端に春奈は言いよどみ、言葉を詰まらせた。


そして、そんな春奈を代弁するかの様に、瑠衣が変わって声を上げる。


「初恋だよねッ!!」


「――――は…………??」


「ちょ、ちょっと瑠衣ッ!!」


声を発した瑠衣に対して、穂高は何が起こったのか分からないといった様子で放心し、春奈は勢いよくその言葉に食いついた。


「初恋……? えっと……、ちょっと意味が…………」


穂高は当然な反応を見せ、困惑していた。


「あぁ~~、実はね?

ハルには好きな配信者がいてね~??」


穂高は堂々と、しかもあまり関係の深い間柄でもない自分に、そこまで友人の事情を、赤裸々に語っても大丈夫なのかと疑問に思ったが、隣にいる春奈もそこまで強く拒絶する様子も見せなかった為、素直に話を聞いた。


「それは、男性Vtuberとか??」


「いやいや、普通に配信してるよ!!

流石に配信者の名前は、ハルが可哀想だから言わないけどねッ!!」


「へぇ~~、そんな人が…………。

なんか、学校の人が聞いたら、嫉妬で狂いそう」


「アハハハッ! 確かにねッ!!」


穂高の話を聞き、瑠衣は情景がすぐに思い浮かんだのか、いつものような気取った笑みでは無く、心から笑ったような笑みを見せ、穂高の言葉に同意した。


「ハルの好きだった配信者は、別に有名な人じゃなかったんだけどね??

派手な動画を投稿するのが主流の中で、彼の動画は地味だったし……。

ラジオみたいな事をしてる配信者だったよ?」


「へぇ~~~…………」


(俺も、似たような事やってたな…………。

四条の話にある「有名じゃない」レベルにも含まれない、ホント、凄い小規模な活動だったけど…………)


瑠衣の話に穂高はそこまで強い興味は無かったが、自分も同じような活動をしていた経緯があった為、不思議な事もある物だ程度にしか、考えてはいなかった。


「今も活動してるんです?

そのラジオの配信の方……」


穂高は会話の流れで自然にその問いかけを、瑠衣にしたが、その問いを受けた途端、空気が重く、暗くなる。


その瞬間、穂高は地雷を踏んだと自覚し、質問を投げかけた事を後悔したが、思ったよりもすぐに返事は返ってきた。


「――――もう、活動してないよ! 引退しちゃった……。

ってゆうか、ベラベラとばらし過ぎだからッ!

これ以上言ったら、瑠衣の秘密もバラすからねッ!!」


「えぇ~~~ッ!!?」


すっかり機嫌の悪くなった春奈に、瑠衣は追いすがるようにして、機嫌を取ろうとしていたが、そんな二人の姿を見て、穂高は少し考えこんでいた。


(あの感じからして、もう活動はしてないんだろうな…………。

あの業界じゃ、そういうのは当たり前だしな…………)


春奈は笑顔で引退したことを告げていたが、その表情には悲しさが付きまとい、引退してしまった事を、未だに引きずっているのは明らかだった。


(自分の好きだった配信者が引退してしまった事…………。

それを当時ファンだった自分が、口に出して認めてしまう事…………。

俺は追っかける立場に立ったことは無いけど、それが何より辛いのは、考えなくても分かる…………)


春奈の表情を見て、穂高は今、自分がいる立場がどれだけリスナーにとって重要であるか、そして何より、成り替わっている自分でリムを終わらせては、絶対にいけない事を改めて自覚した。


(引退する時に、中身違いました~~じゃ、流石に洒落にならないもんな…………)


穂高はそんな最悪な状況を想像しながら、目の前でワイワイとはしゃぐ春奈達を呆然と見つめていた。


◇ ◇ ◇ ◇


「天ケ瀬君はさ~、なんか他の男子生徒と違うよね?」


穂高と春奈、瑠衣の三人で話していると、途中、春奈は瑠衣に愛想をつかす様にその場から離れ、穂高は再び瑠衣と二人きりになっていた。


他の男子から見れば、学校の4大美女と謳われる、桜木高校四天王の一人と二人っきりという夢のシチュエーションだったが、女子が基本的に苦手な穂高にとっては、気を遣うだけの嫌な時間になっていた。


「なんか違うって何がかな?」


「う~~ん、雰囲気が??

大人な雰囲気があるよ!」


瑠衣の話し方は段々と砕けていき、瑠衣のやり口が段々と分かってきていた。


(あぁ~~、なるほどね……。

これが天然お嬢と呼ばれる所以か…………)


瑠衣は育ちが良いためか、基本的に初対面で話すときはとても礼儀が良かった。


しかし、彼女は人と打ち解けるのが速く、彼女の天然さも相まって、距離が深まった事で勘違いする男子が多く、告白される人数も四天王の中で一番多かった。


(別に悪い事じゃないんだろうけど、魔性だよな……。

それに加えて四天王と別称が付く程の美貌…………。

虜になる男子は哀れだけど、同情も出来るわな……)


穂高は瑠衣に対して、警戒心を強めた。


「なんで俺に、篠崎さんの事をあそこまで話してくれたの?

篠崎さんも別にそこまで嫌がっている様子じゃ無かったからいいにしろ、

誰にもああいった事を言ってるわけじゃ無いよね?」


穂高の真面目な問いに瑠衣は、考え込むようにして少し間を置き、ゆっくりと答え始めた。


「――――天ケ瀬君の雰囲気がハルの好きだった配信者に似てたからかな…………」


「え……?」


穂高はまるで心当たりがなく、思わず声を漏らす。


「実はさ! ハルの好きだった配信者って、私も動画を見た事あるんだ。

ハルが好きだったからどんものかとね……?

人気配信者とは、お世辞にも言えなかったけどさ! 素敵な配信をする人だったよ」


「へ、へぇ~~……」


「でもね? 急に音沙汰も無くなっちゃったんだ……その配信者。

それから、ハルには元気がなくなって…………。

今でこそ普通に戻ったけど、配信しなくなった時とかは、落ち込みようが凄くて…………」


穂高は、自分も有名で無いにしろ過去に配信者として、活動していた経歴があり、自分も似た様に別れを告げるわけでもなく、配信をしなくなった事があった。


そのため、人の話ではあったが、心に来るものが穂高にはあった。


(あんま聞きたくねぇ話だな……。

俺の配信なんて見に来る奴に、そんな熱心なファンはいなかっただろうけど…………)


穂高は、決めつけにも似た思いで、自分には関係の無い話だと思い込んだ。


「天ケ瀬君はさ? なんか雰囲気が似てるし、それでね?

そんな、天ケ瀬君にさ……、ひとつお願いがあるんだ」


「俺に……??」


まだ、瑠衣の意図が見えない穂高であったが、瑠衣の話を聞き、そんなリスナーは自分にはいないと思いながらも、似たような事をした過去から、罪悪感はぬぐえず、叶えられる範囲であれば、瑠衣の願いに応えてもいいと、そう思った。




誤字脱字報告すみません。

ありがとうございました。助かります!

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