姉の代わりにVtuber 226
「し……しんどい」
ハムスターランド1,2を争う、人気のアトラクションを体験した穂高は、乗り物から降りるなり、ゲッソりとした様子で、愚痴を零した。
「穂高君、弱いんだねぇ~~。絶叫系」
肩を落とす穂高に対し、聖奈は楽し気に声を掛け、穂高を少し揶揄うような、そんなニュアンスも含んでいた。
「苦手だって言ったろ……。
あの落ちる感覚が嫌なんだよ」
「えぇ~~、あれが良いんじゃん!」
未だにアトラクションの興奮が、冷めやまない聖奈に対し、穂高は一言「お手洗い」と告げ、トイレへと向かった。
手短に用を済ませ、大貫達の所へと戻ると、未だに先程乗ったアトラクションのグッズを、各々が物色していた。
穂高がいない間、聖奈は菊池や武志、彰とそれとなく見回っており、距離を離し、大貫と瑠衣、春奈のペアが、お土産を見て回っていた。
聖奈との行動が多かった穂高は、聖奈の方へ向かわず、自然と春奈達の方へと向かっていった。
「ここで、買い物するつもりなのか?」
穂高は、特定の誰でなく、何気なくそんな言葉をかけ、穂高の登場に、春奈だけが異様な驚きを見せた。
「わッ! ほ、穂高君??
お手洗いはもう行ったの?」
「まぁ、空いてたし。
男だからな」
春奈の変な質問に、穂高は違和感を感じつつも、特に気にする事無く、素直に春奈の言葉に答えた。
「天ケ瀬君、絶叫系苦手なんだねぇ~~?
中々、疲れた様子だったけど??」
穂高と春奈の会話に、自然と瑠衣が加わり、穂高は数分前に似たような、からかわれ方をしたのを思い出した。
「お前もか…………。
別に苦手でもいいだろ~~?
こんな所じゃないと経験できないような、非現実的な体験……、得意な方がどうかしてると思うけどな」
「ま、確かに、慣れない経験を、得意げに楽しむのは、変かもだけど……。
――とゆうか、変な理屈で、丸め込めようとしないで。
殆どの人が楽しんで乗ってるから~~、このアトラクション。
それにここのテーマパークは『夢の国』ッ!!
非現実を楽しむコンセプトだから!」
穂高の言葉に、瑠衣は一瞬惑わされかけるが、鵜呑みにはせず、そんな会話に大貫も、必然的に加わる。
「なっっさけないなぁ~~、天ケ瀬~~。
男だったら楽しんでみろよ~~、こんなアトラクション。
ここのテーマパークの絶叫系は、絶叫系アトラクションの中では、大した事ないんだぞ??
○○県にある、谷Qランドの絶叫系の方が、凄まじいぞ?」
大貫の言葉に、穂高はムっと苛立ちを感じ、反論しようとするが、そんな穂高よりも先に、春奈が声を上げた。
「――な、情けなくなんてないよ?
苦手な人だって当然いるだろうし……、穂高君は、た、頼りになるし…………」
フォローに入ったものの、春奈は恥ずかしいのか、最後は語彙が弱くなり、弱々しく弁明した。
「えぇ~~?
でも、こういうの得意って事は、勇ましいって事でもあるだろ??
いざって時に、大切な人を守ってくれなさそうじゃん」
「絶叫系の得意不得意でいちいち、勇ましさなんて判断できないだろ。
中学生か」
「なにぃ~~??
じゃあ、次も絶叫系乗ろうぜ?
勇ましさんなんて判断できない、中学生の度胸試しレベルの、アトラクションなんだからさぁ」
「嫌だね、疲れた。
今度は緩いので、休憩するね」
大貫の挑発には、穂高は乗らず、淡々とした様子で答え、続けさまに大貫に話しかける。
「大体、絶叫系だけが醍醐味のテーマパークじゃないだろ??
絶叫系は人気だから、必然的に並ぶし……。
変な時間にいったら、お昼のパレードとか見れないぞ?」
「――へぇ~~、天ケ瀬君、お昼のパレードとか、視野に入れてるんだ。
結構、そうゆうの好きなの??」
穂高の意見に、大貫は悔し気な表情を浮かべ、そんな大貫を尻目に、瑠衣は、穂高の意外な言葉に興味を持った。
「意外と乙女チック? メルヘンチックだね」
「パレードの好みに性別は関係ないだろ?
男でも見るし、毎回テーマが違うから見れるのなら見たい」
「んん~~。 成程ね」
穂高の好みを聞き意外そうな表情を見せる瑠衣に対し、穂高の意見に共感できる部分があるのか、春奈は穂高の主張を、縦に首を振りながら聞いていた。
「パレードなぁ~~、まぁ綺麗だし見たいけど、別にそこまで重要かって言われると……」
「まぁ、私も俊也に賛成かなぁ~~。
見たいけど、アトラクションの方が重要かも……」
穂高の意見にあまり好意的でない大貫は、素直に自分の気持ちを話すと、瑠衣も大貫の意見に同意した。
「わ、私はパレード楽しみだなぁ~~!
何だかんだで一番記憶に残るし……。
パレード見て、あぁ、夢の国にいるんだなぁ~~って、改めて感じれるし」
「流石、春奈、良い事言うな。
お前らなぁ……、非現実がどうこう言うなら、一番重要なのはパレードとか、ショーだろ?」
「だ、だよねッ!?
夜のパレードなんかは、見ないと終わった気分にならないし」
穂高の意見には、春奈が賛成し、二人は意気投合した。
「結局、家族で行っても、カップルで行ってもみんな見てるし……。
学生の仲良しグループだって、みんな集まって見てるしね!」
春奈が付け加えて、パレードの良さを話すと、瑠衣はニヤリと笑みを浮かべながら、話し始める。
「成程ねぇ~~、確かにね?
盛り上がるし、カップルでならそこで告白しちゃったりぇ~~??
シチュエーションもロマンチックだしねぇ~~。
流石天ケ瀬君、ロマンチストでもあるんだね」
「お前……、褒めてそうで、褒めてないだろ……」
瑠衣のちょっかいに、穂高は怪訝そうな表情を浮かべ、瑠衣の言葉に納得いかないのか、すかさず春奈は「ロマンチストでもいいじゃんッ!」とツッコミを入れていた。
そしてそんな状況に、何かに気付いた様子で、大貫が声を上げる。
「ッ!? た、確かに、ロマンチックではあるよな!
お、俺も、カップルで来るなら確実にルートに入れるぞッ!!」
「――お前……、現金な奴だな」
あからさまに、春奈の機嫌を取るような振る舞いをする大貫に、穂高は誰にも聞こえない程の、小さな声で呟き、そんな四人でのやり取りに、遠くで話していた聖奈達も合流した。
再び、穂高は聖奈と二人のペアになり、集団で行動しつつも、交流が多くあるわけでは無かった。




