姉の代わりにVtuber 224
「浮足立ってるって……、別にそんなんじゃないけど?」
武志に指摘された彰は、心当たりがあったが、素直に答える事は無くはぐらかした。
しかし、武志の中では確信できる根拠があるのか、そんな彰に詰め寄る。
「別に貸す事ないだろ~~?
誰にも言わないし、出来ることがあれば、協力もするって……。
――まぁあ? その見返りと言っては何だけどぉ??
俺のお願いも、聞いて貰いたいなぁ~~なんて……」
下心ありありの武志に、彰は呆れた様にため息を付いた。
そして、しばらく考え込んだ後、武志にソレを教えても、大した問題ではないと判断した彰は、ようやく口を割った。
「いや、今日な? 修也が告白しようとしてるんだよ。
春奈に……」
「――え?」
彰の言葉に、武志は意外だったのか、目を丸くし彰を見つめた。
「こ、告白?? 大貫が?
しかも、今日??」
大貫が春奈に好意を寄せている事は、知っている人がそれなりにおり、文化祭を境に、かなりの人数がソレに気付いていた。
そんな状況もあり、武志の反応を見た彰は、「相変わらず、疎いな」と思いつつも、武志なら仕方ないかと、呆れ気味に納得もしていた。
「俊也が春奈の事好きなの、知らなかったんだろ?
お前らしいっちゃらしいよ。
そうゆう話好きな癖に、自分も彼女欲しいとか言ってる癖に、あんまり知らないよな? そうゆう事。
――昔、彼氏持ちの先輩に告って、大惨事になったの、思い出すなぁ~~」
「え? あ、いや、別にそうゆう事じゃなくって……。
あれ? 大貫が好きなの?? お前もじゃなくって??」
昔を懐かしむ様に話す彰に対して、武志は酷く混乱した様子で話し、武志のそんな言葉に、今度は彰の方が驚きの表情を浮かべた。
「――は? 俺??」
何の冗談だと言わんばかりに、不思議なものを見るかのような、そんな視線を飛ばす彰に対し、武志は怯むことなく続けて答える。
「いや、俺にはそう見えてたけど……。
勿論、大貫の噂も聞いたりはしてたけど、お前の印象が強くて」
ふざけた雰囲気は無く、ただ混乱したように話す武志に対して、彰はそんな武志の意見に興味を持った。
「な、なんでそんな風に見えたんだ?」
「――え? んん~~、どうしてって言われても、勘としか……」
「はぁ? そんな不確かな……」
武志のフワフワとした意見に、彰は興味を持って損したと言わんばかりに、がっかりした様子で呟いた。
「いや、別に不確かって事でも無いぞ?
まぁ、勘って言っちゃ勘ではあるんだけど……。
――――お前さ、中学3年の頃、覚えてるか??」
「中3??」
理由を説明する為に、昔話を振る武志に、中3の頃に員状的な出来事が無いのか、彰はピンと来ていない様子だった。
「覚えてないのか? 自分の事なのに……。
――ほら、昔にあったろ? クラス1人気のあった女子生徒を、お前が好きになったって話」
「あ、あぁ~~、奏ちゃんの話ね」
武志に話題を振られて、ようやく話が分かった彰だったが、武志が今になって、何故その話をしだしたのかは、理解できなかった。
「あの時、結構ギスついてたというか、何と言うか……。
まぁ、昔の話だから、ギスギスしだしてた事に関しては、何も話さないけど、お前。
――結局あの時、手を引いただろ??
お前も好きだったのに、譲ったっていうか、自らフェードアウトしていったというかさ……」
武志は話しずらそうにしながらも、昔の出来事について触れた。
過去、彰には三角関係になった女性がおり、彰が呼ぶ奏と彰は、端から見てもかなり良い雰囲気の二人だった。
しかし、奏には小さい頃からの幼馴染がおり、その幼馴染と彰も友人であった為に、友好関係が崩れる前に、彰は奏から手を引いていた。
「そのことね……。
手を引いたよ? 好きだったのは、認めるけど、付き合うとかまでは考えられなかったしねぇ~~」
「――ふ~~ん、そ……。
まぁ、お前がそういうなら別にそこに付いては、何も言及しないけど」
当時の心境に関して、直接聞いた事が無かった武志は、彰の答えを聞き、関心深く呟いた。
そして、そんな武志に対して、今までずっと疑問に感じていた事に関して、今度は彰から追及する。
「ふ~~んって……。
てゆうか、さっきの話だけど、なんで俺が春奈の事が、好きだなんて思ったんだ??
昔の話聞いてもさっぱり……、やっぱり、テキトー言っただけか??」
「いや、勘だからテキトーっちゃ、テキトーだけども……。
まぁ、なんて言うんだ? そのぉ~~、昔の……、手を引いてた時の雰囲気を、つい最近のお前から感じた事があったから……。
その時、特に仲良くしてそうだったのが、杉崎さんだったし、好きなんだろうなって」
言い淀む様に、自信なさげに話す武志であったが、武志が自分で言うように、勘と言うには、あまりにも信憑性があり、妙な説得力を持っていた。
武志にそんな事を言われた彰は、驚きた表情を見せ、思わず体が固まった。
そして、そんな彰に対して、武志は追い打ちとばかりに、続けて話す。
「過ぎた事だし、今更、お前にこんな事言っても仕方ないけどさぁ~~。
最近、風の噂で聞いたんだけど、その奏ちゃんの幼馴染いたろ?
俺らと同じ進学先じゃなく、奏ちゃんとその後も同じ所に行った幼馴染。
その幼馴染が、高校入って一年目で、奏ちゃんに告白してたらしい」
「――――そ、そうか……」
武志の話は、彰が聞いた事の無い話題であり、相槌を打つ彰の声は、一見、興味無さげに聞こえたが、武志は続けてその話題を話した。
「振られたって……。
好きな人が忘れられない、付き合えないって。
――結局その事が原因かは知らないけど、二人はそれから疎遠気味らしい……、今も。
別に、お前の判断だし、彰は俺とか穂高よりも、しっかりしてるから、今まで何も言わなかったけどさ??
空気を読むとか、周りに合わせ過ぎも良くないと俺は思うぜ?
穂高にも似たような事言われたんだろ?」
武志は彰にとっては、少しだけ厳しい事を告げていたが、声色にはどこか優しさが溢れており、忠告というよりは、彰を心配するかのような、そんな雰囲気が漂っていた。
そして、彰は球技際の時の穂高の言葉が、自然と脳裏に過る。
いつまでもそんな危うい人間関係に振り回されて、疲れないか?
いつでも空気を読み、最近は、特にその傾向が強く、今の仲のいい友達の関係を壊さないように、荒波を立てないように、その事だけを考えて来た彰にとって、穂高の言葉は、強く印象に残っていた。
「まぁ、なんにせよ。
今日は、大貫が告白するんだろ?
俺は勿論、邪魔しないし、出来る事があればフォローもする。
――どうせ、既にお前は、自分の気持ちにケリつけてるんだろ??
とゆうか、俺はそれどころじゃない!
俺も彼女欲しい!! 菊池さんや四条さんとお近づきになりたい! マジで!!」
武志は自分の考えを伝えた後、少し重い雰囲気になった現状を、吹き飛ばすかのように、急激にテンションを上げ、いつもの調子で、自らの野望を口にした。
「またそれか……。
いつもブレないお前が羨ましいよ、ホントに」
「モテ男が言うと、嫌味にしか聞こえんな」
武志の調子に乗せられ、彰もいつも調子に戻り、二人は談笑を続けたまま、目的の場所へと向かっていった。




