姉の代わりにVTuber 221
◇ ◇ ◇ ◇
1限目と2限目の間。
授業間の小休憩に、穂高は瑠衣に呼び出されていた。
「ねぇ、天ケ瀬君って、結構チャラくて、女の子を泣かせるタイプの人??」
空き教室に呼び出された穂高は、開口一番、瑠衣にそう尋ねられ、瑠衣は心底不機嫌そうに、穂高を見つめていた。
そして、状況が理解できてない穂高は、瑠衣の態度と、質問の意味が理解できなかった。
「――はぁ? 何を急に……」
「急にじゃないでしょ? 普通に。
――あのね? 天ケ瀬君?? 今日の朝のアレはなに!?
なんで、愛葉さんを遊園地に誘ってるわけ??」
ピンと来ていない様子の穂高に対し、瑠衣は途中、呆れた様にため息を付きながら、言葉を濁すことなく、端的に尋ねた。
「遊園地? あ。あぁ。アレの事。
アレは別に、文化祭の時に、聖奈達の約束を守れなかったから、お詫びにってだけで……。
――っていうか、俺はチケットを渡すだけで。別に一緒に行くつもりじゃ…………」
「いやいやッ! 天ケ瀬君ッ!!
あんな渡し方じゃ、一緒に行こうって誘ってるのと同じだからね!?
天ケ瀬君にどんな思惑があろうと。チケットだけ渡して、「ハイッ、後はお好きにどうぞ」なんて、ならないからッ!
しかも、渡してる相手も愛葉さんだし……」
穂高の弁解は、瑠衣には通用せず、弁解すればするほどに、瑠衣の機嫌が悪く、怒っているようにも見受けられた。
「あのさぁッ!? 天ケ瀬君ッ!
いくら、鈍感で鈍い天ケ瀬君と言えど、気付いてはいるんでしょ?? 愛葉さんの好意に」
大親友の春奈の為、瑠衣は変に臆することは無く、言葉も選ばずに、穂高に続けて尋ねた。
「好意って……、別にそこまでの事じゃないだろ?
薄々、所々に感じはするものの、四条の言う好意も一時的な物だろ? 多分……。
言わずもがな、聖奈はモテるし、偶々変に目立った俺に、今は興味を持ってるだけで、多分そのうち飽きるだろうし……。
地味な俺には、ちょっかい掛けて遊んでるだけだろ」
穂高は瑠衣の言葉に、嘘偽りなく、自分の考えを話し、聖奈の好意を感じてはいるものの、そこまで大事に考えてはいなかった。
「――なにそれ…………。
じゃあ、天ケ瀬君に告白した春奈に対しても、そんな風に考えてるの??」
穂高の考えに、瑠衣は増々不機嫌になり、穂高を睨むようにして、冷たく言い放った。
「い、いや、別に春奈は…………。
――っていうか、やっぱり知ってるのか」
「誤魔化さないでッ!
春奈と愛葉さん、どう思ってるのッ!?」
穂高は。話を逸らすつもりは無かったが、瑠衣にとって、春奈に対して穂高がどう思っているのか、それ以外に興味は無く、少しでも話題が逸れる事を嫌った。
「どう思ってるって別に、普通に友達だと……。
昨日の今日で俺もまだ、頭の整理がついてない」
「整理付いてないって、嫌いなのッ!? 好きなのッ!? どっちッ!」
珍しく弱々しい様子を見せる穂高に対し、瑠衣はここで決着を付ける勢いで、尋ねた。
「す、好きとか、嫌いとか、俺にはまだよく……。
それに、春奈には告白されはしたものの、別に付き合うとか、どうとか……」
煮え切らない返事ばかり返す穂高に、瑠衣はいよいよ気をそがれ、今日一番の大きなため息を付く。
「――天ケ瀬君。
かなり、この手の話題はポンコツだね…………、ホント……。
いや、私の知らない所で、かなりハルを助けてくれてたみたいで、天ケ瀬君に対しては、凄い良い印象を持ってはいたけど……、ちょっと、どうかと思うよ??」
怪訝そうな表情を浮かべ、訝しむような視線を穂高に向け、瑠衣は歯に衣着せぬ物言いで、キッパリと話した。
「あのね? 天ケ瀬君。
分からない分からないなんて言って、碌に答えも出さずに、このまま居たら、春奈を誰かに取られちゃうよ??
あんな美人で良い子、すぐに誰か良い男が寄ってくるんだから」
「は、はぁ……」
瑠衣の言葉は、穂高には上手く刺さらず、穂高の表情もピンと来ていない様子だった。
しかし、そんな穂高の反応にも、瑠衣はめげる事は無かった。
「それに、今の天ケ瀬君の状況。
天ケ瀬君が故意に作り出したわけではないにせよ、優柔不断な状況だと思わない??
愛葉さんの好意にはうっすらと気付いていて、春奈には気持ちを伝えられて……、そんな中、答えも出さずに愛葉さんと遊園地に行く。
不純だよ、私から見れば。
春奈に対して、キープみたいな事する気??」
「ちがッ! そんなつもりは……。
――はぁ~~~……、でも、そうだな、四条の言う通り、そう見えても仕方ないよな」
穂高は完全に参っている様子で、大きなため息を付き、少し考え込むようにした後、思い立ったかのようにゆっくりと顔を上げる。
「――断ってくるか…………」
穂高はボソりとそう呟くと、瑠衣はほんの一瞬明るい表情を浮かべるが、すぐに疑問が浮かび、表情は再び険しく戻る。
「――ちょっと待って、天ケ瀬君!
断るって何を??」
「え? いや、春奈に今の気持ちを伝えようと……」
穂高の言葉に、瑠衣は慌てふためき、今にも行動に起こそうとする穂高を、全力で止める。
「ちょっと待って! 待って!!
気持ち? 何て??
もしかして、さっき言った通りに言うつもりじゃ……」
「そのつもり。
――春奈からは、別に付き合うとか、そういうのをお願いされたわけじゃないけど、春奈は勇気を出して、きっちり告白をして、自分は何も言わずにだんまりなんて、親友の四条からしてみれば、不順にも見えるよな」
罰の悪そうに話す穂高に、瑠衣はあたふたした様子で穂高を見つめ、余計に拗れていく状況に、更に頭を悩ませた。
「駄目ッ! それを伝えるのは駄目!!
天ケ瀬君。まだ頭の整理が付いてないんでしょ? 春奈も気持ちを伝えただけで、ちょ、ちょっとニュアンス曖昧だし……。
まぁ、今までの春奈にしては。凄い進歩なんだけどぉ~~……。
――あぁ~~~ッ、もうッ!! なんで、天ケ瀬君はチケット渡しちゃったわけッ!?!?」
思うように話が進まない瑠衣は、いよいよ頭がパンクし、ここまで悩む事になった発端の穂高を、途端に非難した。
「いや、そんな事言われてもな……。
聖奈の約束を破った穴埋めをしただけだし」
たじろぐ穂高に、瑠衣は思考を巡らせ、悩みに悩んだ上、穂高に声を上げる。
「天ケ瀬君ッ! チケットまだあるよねッ!? 何枚ある??」
「え? あぁ、遊園地の??
後、二枚だな」
「頂戴ッ! どうせ愛葉さんに渡した二枚で、二人で行くんだろうし、もう必要ないでしょ??」
「ま、まぁそうだけど……」
ポケットからチケットを出し、残りの枚数を見せた穂高に対し、瑠衣は穂高からチケットをぶん取り、今後の方針を考え始める。
「――二枚かぁ……、足りない分は、ウチにも招待券ありそうだし、チケットの補填はするとして……、どうやって、誰を巻き込むか…………」
瑠衣はブツブツと呟きながら、計画を練り、空き教室から出て行こうと、穂高に背を向けた。
穂高はそんな、瑠衣を不思議そうに見つめていたが、背を向けたはずの瑠衣は、思い出したかのように、体を捻り穂高に向ける。
「――――あッ! 天ケ瀬君!
もう余計な事しないでね!? 春奈に対しても、変に答えを急がない事ッ!!
そもそも、天ケ瀬君は「好き」って言われただけで、「付き合って♪」とは言われてないんだから。
勘違いして、行動に移さないように! 分かった??」
対応がコロコロと変わる瑠衣に、穂高は不満を感じつつも、元々特に穂高から告白に対して言及するつもりも無かった為、瑠衣の言葉に承諾する返事を返した。
穂高の返事を聞くと、瑠衣は再び難しい表情を浮かべながら、教室を後にし、穂高一人その教室に取り残された。
「――な、なんだったんだ……、この時間は…………」
穂高はため息を一息つき、瑠衣に続いて、空き教室を後にした。




