姉の代わりにVTuber 220
◇ ◇ ◇ ◇
桜木高校 教室。
春奈の告白から日をまたぎ、気持ちを整理した、とゆうより、昨日の事に関して、深く考えるのをやめた穂高は、心穏やかに、いつも通りに自らの教室へ向かう。
そして、廊下を歩いてきた穂高は、教室に入る前に、今一度、平常心を保つ為、一呼吸置き、ゆっくりと教室へと入っていく。
騒がしい朝の登校の時間、すれ違う同級生たちの声を聞きながら、自らの席へと向かい、その席を向かう中、ふと春奈の方へと視線を振る。
何気ない視線だったが、偶然にも春奈も穂高へと目を向けており、二人の視線はぶつかった。
目が合ったその瞬間、春奈は体をビクつかせ、「ガタッ」っと少し大き目な音を立て、いきなり自らの席から立ち上がった。
春奈の周りには、いつもの中の良いメンバーがおり、親友である瑠衣を含め、周りにいる友達は全員、春奈を不思議そうに見つめていた。
「ごめんッ! 私……、少しお手洗いぃ~~」
友人達に注目を浴びた春奈は、そんな一言を弱々しく呟いた後、そそくさと教室から出て行った。
(――さ、避けられてる…………)
そんな春奈を見て、穂高は気付かないわけなく、深く考える事を止めていた昨日の事を思い出す。
教室から出て行った春奈から視線を外し、春奈の元居たグループに目をやると、今度は、春奈の親友である瑠衣と目が合った。
瑠衣は、穂高と目が合うなり、軽く噴き出す様に笑い、瑠衣のそんな反応を見て、穂高は瑠衣が、昨日の出来事を知っていると確信する。
(四条は、知ってるっぽいな……、昨日の事)
瑠衣の反応から、春奈に事情を聞いたと仮定し、穂高のその考えは間違っていなかった。
瑠衣の反応は、小バカにされているようにも感じられ、穂高は必要以上に、瑠衣と視線を合わせる事無く、本来の向かうべき場所へと視線を戻した。
そして、自分への席へと再び歩みを向けた瞬間、意識外から、急に強い衝撃が穂高を襲う。
「――ほ~~だかくんッ! おはよッ」
元気な声で、穂高に抱き付き付いてきたのは、愛葉 聖奈であり、穂高は、軽くよろける程の衝撃を与えられた。
聖奈のその行為は、明らかにクラス内で目立ち、穂高と聖奈は周囲から、恋人関係だと思われても、不思議ではない状態だった。
「ちょっと、愛葉さん??
迷惑だから離れてくれるかな??」
「――えぇ~~~!? いいよッ?」
穂高はわざと、聖奈を名字で呼び、聖奈はわざと周りに見せつける様に、教室で抱き付いた。
そして、目的を果たした今、穂高がこういったスキンシップを苦手とする事も、重々承知である聖奈は、長い間抱き付くといった事はせず、すぐに穂高から離れる。
「――もう! てゆうか、苗字呼び止めてって言うたじゃん~~」
「俺も抱き付くのは、止めろってこないだ言った気がするけど??」
「いやいや、それはしょうがなくない?
ついつい、衝動的に抱き付きたくなっちゃうんだからさ??」
冷たく見える穂高の対応に、聖奈はこんなやりとりでも楽し気に、ニヤニヤと笑みを浮かべながら答える。
「まぁ、ここは穂高雲が折れてよ?
――文化祭、貸しあるでしょ?? 私に」
「――――そ、それは……まぁ…………」
聖奈に言われ、穂高はそれ以上反論できず、文化祭の出し物を回る際の出来事を思い返す。
穂高は、美絆達の来訪の際、事前に予定していた、聖奈達との約束を反故しており、その際の借りが、未だに返せていない状況にあった。
「それでぇ~~? 穂高君はいつ、埋め合わせをしてくれるのかなぁ~~??」
聖奈は穂高を煽るように、そう捲し立て、穂高は観念したように一息つくと、あらかじめ用意していた提案を聖奈にする。
「――知人の紹介で、某リスのテーマパークのチケットを貰ったんだけど、いるか?」
「え…………?」
穂高がそう言うと、聖奈は驚いた表情を浮かべたまま、穂高を見つめ、完全に硬直した。
硬直した聖奈に反応することなく、穂高は鞄からチケットを取り出しながら、話しを続ける。
「これ、4枚。
良かったら友達と……」
「にッ、2枚でいいよッ! 2枚でッ」
穂高がチケットを渡そうとするなり、聖奈は穂高から二名分だけを受け取り、心底嬉しそうに、噛みしめるような笑みを浮かべていた。
そして、受け取った後で、穂高の言葉に気付いたのか、今度は指摘するように声を上げる。
「――と、とゆうか、ほ、穂高君と二人で行きたいんだけど?? 私はッ!」
「は? なんで、そうなる」
「なんでも何も、穂高君が埋め合わせするって言ったんじゃんッ!
――チケット有効期限は、今月までかぁ~~……」
状況に付いていけてない穂高に対し、聖奈は、当然すっかりその気であり、携帯で予定を確認し始めた。
「ちょっと、急だけど……、まぁ、予定空けられない事も無いし……。
――穂高君ッ! 今は時間無いし、また後で! 予定決めようねッ」
有無を言わさず、聖奈はそう言い放つと、嬉しそうに自分の席へと戻っていった。
「よ、予定って…………」
聖奈の勢いに負け、離れて行く聖奈の後姿を見る事しか出来ず、穂高はポツリと呟いた。
そして、大きくため息を付き、穂高も自分の席へと戻ろうとした瞬間、再び別の女子から呼び止められる。
「――天ケ瀬君、ちょっといい??」
聞き覚えのある声に、穂高は視線を向けると、そこには明らかに、不満感を漂わせ、不機嫌な表情を浮かべる瑠衣の姿がそこにあった。




