姉の代わりにVTuber 219
放課後の校舎屋上。
人気のない校舎屋上には、冬の訪れを感じさせる冷たい風が吹き、部活動に勤しむ生徒達の声がこだまする中、二人の男女の生徒が立ち尽くしていた。
何も言葉を発しず、立ち尽くす二人は、顔を見合わせ、男子生徒、天ケ瀬 穂高は、驚いた表情を浮かべたまま硬直し、もう一人の女子生徒、杉崎 春奈は、顔を真っ赤に染めながら、硬調くしていた。
数分の沈黙を経て、ようやく穂高が口を開く。
「――えっとぉ……、今、なんて?」
春奈の呟いた言葉を、穂高は聞き取れてはいたが、唐突であった事と、聞き間違いの可能性も考慮し、赤面している春奈に問いかけた。
「えッ!? あ、いや……、へ、変な意味じゃないよ??
と、友達としてって言うか……、なんと言うか」
「――あ、そう……、そうだよな?
わ、悪い、俺も変な風に捉えて。
ありえないよな~~、無い無いッ」
取り繕うように答えた春奈に対して、穂高も春奈の雰囲気に当てられてか、少し動揺した素振りを見せながらも、そう答えた。
嘘を付いた春奈に対して、穂高の放った言葉は本心であり、少しでも雰囲気に流された事を、穂高は恥ずかしく思った。
「無い無いって、そんな強く否定しなくても……」
穂高の反応に、春奈は、今度は相手に聞こえない程の小声で呟き、ぼそりと呟いた自分の独り言で、脳裏に浜崎 唯と愛葉 聖奈の事が過った。
(――穂高君のこの感じ、私とそうゆう風な恋愛関係になるって、微塵も考えてない様子だ。
唯さんも愛葉さんも、穂高君に対して凄いアピールをしてる。
対して私は……、オーディションも受かって、穂高君とは益々接点が無くなってる。
忙しくもなって、どんどんやり取りも減って…………)
春奈は、聖奈と唯が脳裏に過った事で、段々と冷静さを取り戻し、ここ最近は、オーディション等も経て、行動力も付いてきた事もあり、大胆な事も、怖気ず実行する事が出来て来ていた。
そんな春奈は、バクバクと脈打つ鼓動を少しでも抑えるよう、自分の胸に手を置き、呼吸を整えると、真っすぐに穂高を捉える。
「穂高君、ごめんやっぱり今の無し!」
「――え?」
晴れやかな声と、笑みを浮かべながら春奈はそう言い放ち、穂高が呆気に取られている間に、続けて宣言する。
「好きだよッ!! 変な意味でッ!」
春奈の鼓動は、限界ギリギリだったが、一言も噛む事なく、しっかりと告白でき、突然の出来事に、穂高はフリーズした。
そして、告白をした春奈は、限界だった為に、硬直した穂高の隙を付くように、その場から退散しようとする。
「――へ、返事とかはいいからッ!
た、ただ、言いたくなっちゃっただけだし…………。
つ、つつッ、付き合うとかも…………、か、考えてな…………そ、それじゃあねッ!!」
堂々とした春奈は、一瞬の出来事であり、その場から退散しようとする春奈に、堂々とした様子は見る影も無く、穂高が呼び止めようとするも、すぐに言葉を吐き捨て、その場から退散していった。
足早に逃げられた春奈に、穂高は屋上でただ一人、取り残された。
そして、穂高は春奈の言った言葉を理解する為に、その場に数十分程留まる事になった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――なんだったんだ……、あれは」
放課後の出来事を終え、帰宅した穂高は、部屋に籠るなり、先程の出来事に関して、思考を巡らせていた。
(春奈が告白……? 俺に?? なんで?)
放課後の屋上でフリーズし、我に返って以降、穂高は春奈の言葉の意味を考え、帰宅しても尚、答えを出せずにいた。
(学校ではモテモテ、良い人なら選びたい放題のはずの春奈が、冴えない俺を……。
――とゆうか、大貫は??
文化祭の練習とかで、交流あったし、劇の最後の方は、端から見た感じ良い雰囲気だったろ?)
様々な事を頭の中で巡らせる穂高だったが、脳裏に焼き付いた光景が、ふと思考中の穂高に思い返される。
「好きだよッ!! 変な意味でッ!」
思い返される春奈は、少し顔を赤く染め、高揚したような、少し興奮しているようにも見え、快活な笑みを浮かべた彼女は、ハッキリと穂高にその言葉をぶつけていた。
「変な意味って、なんだよ…………」
告白をされてからここまで、穂高は何度もこの光景が頭を過っており、春奈の真意を考えようとしても、彼女の笑顔が浮かぶと、すぐに集中力を切らし、考えが吹き飛んでいた。
「あぁ~~ッ! もう駄目だッ!!
これ以上考えるのは止めよう!
――俺もアイツの雰囲気に、変に流されて良くない事を考えそうだ」
穂高は、何度目かの思考を、脳裏の光景に邪魔された事で、それ以上放課後の事を考えるのをやめようと、そう決断した。
(どんな意図で言ったであれ、くっそぉ~~~ッ!
明日、どんな顔して話せばいいんだ……)
穂高は春奈に悪態を付いた後、気分転換も兼ね、ゲーム機を起動させた。
◇ ◇ ◇ ◇
杉崎邸 一室。
部屋に籠る、春奈はベットに寝そべりながら、電話相手の親友へと呼びかける。
「ど、どどど、どうしよぉ~~~、瑠衣ぃ~~!!
――あ、明日の学校から、ど、どんな顔して会えば……」
意を決して気持ちを伝えた春奈だったが、自分の部屋では、放課後の出来事を酷く後悔しており、瑠衣に対して、泣きつくようにそう話した。
「どうも何も、今まで通り、普通に接するしかないでしょ。
――とゆうか、ハル!
私は春奈を見直したよぉ~~~!
遂に、告白をするなんてねぇ~~」
弱気な春奈に対し、瑠衣は前向きな様子であり、気持ちを伝えた春奈を、純粋に褒め称えていた。
そんな、どこか他人事のように話す瑠衣に、春奈は釘をさす様に、声を上げる。
「もうッ! 真剣にッ!!
――ねぇ、瑠衣~~、しばらく瑠衣の後ろに隠れさせてぇ~~~」
「いや、変だし、キモいよ……。
てか、ハル?
告白したのは、凄いけど、天ケ瀬君からの返事は??
付き合うの? とゆうか既に恋人???」
春奈と穂高の放課後の出来事を、包み隠さず知りたい瑠衣は、続けて踏み込んだ質問を投げかけた。
「えぇッ!? い、いや、つ、つつ、付き合うとかじゃ……。
た、ただ、気持ちを一方的に伝えただけだし、返事とかも聞いてない」
どんどんとか細く、自信なさげに春奈は話し、そんな春奈の言葉を聞き、瑠衣は大きな声を上げる。
「えぇ~~~ッ!?!? 返事聞いてないの?
な~~んの為に告白したのよぉ~~、ハル~~~。
パインは? なんかメッセージ飛んできたりはッ!?!?」
「と、特には…………」
瑠衣の声に急かされ、携帯を見る春奈だったが、メッセージの通知は無く、穂高からの連絡は、何もなかった。
「何やってんのよ~~、天ケ瀬君も~~~~!
ハル! 今すぐ何か、メッセージッ!!」
「い、いやいや、今日はもう無理ッ!!
もう限界ッ!!!」
瑠衣は執拗に呼びかけるも、春奈のキャパはもう無く、しばらく二人のそのやり取りは続くものの、結局春奈はその日、行動に移す事は出来なかった。




