姉の代わりにVTuber 218
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放課後 校舎 屋上
穂高は、春奈に呼び出され、人気のない学校の屋上へと訪れる。
春奈が指定したその場所に訪れると、そこには穂高の事を待つ春奈がいた。
漫然と屋上から、校庭を見つめる春奈に、遅れて来た穂高は、声をかける。
「――悪いな、忙しいのに待たせて……」
穂高の声に、春奈は反応し、視線だけを穂高へと向ける。
「ううん……、呼んだのは私だし、良いよ。
気にしないで?
今日、穂高君当番でしょ??
仕事あるんだし、遅れるのは分かってたよ」
「そうか」
穂高は、春奈に許しを得た事で、それ以上遅れた事に対して、謝罪することは無く、返事を返しながら、春奈の隣へと移動した。
「――VTuber関連の話しか?
人前じゃ出来ない話だろうし……」
人気のない所へ呼んだ理由を、何となく考えていた穂高は、春奈に対し、そんな風に言葉を投げかけた。
「ん? う~~ん、まぁ、VTuber関連ではあるね。
人に聞かれたくない話でもある」
含みのある物言いに、穂高は違和感を感じつつも、概ねはデビューの話だと、そう考えた。
「俺に手伝える範囲はもう超えてるし、アドバイスも上手く出来ないぞ?
――まぁ、愚痴を聞くとかなら出来ると思うけど……」
穂高は、春奈の抱える問題に、力になれる事は少ないと思いつつそう答え、穂高尚そんな言葉を聞き、春奈は苦笑いを浮かべた後、話し始める。
「もう十分に助けて貰ってるし、デビュー前の相談とかじゃないよ、穂高君を呼んだ理由は……。
まぁ、愚痴? っと言えば、愚痴になるのかなぁ~~」
春奈は意味深にそう呟くと、穂高を正面に捉える様に、体と顔を穂高へと向け、本題を切り出す。
「穂高君……。 私に内緒にして、フォローしてる事あるでしょ??」
「フォロー??
最近は、特に力に慣れてないと思うぞ?
姉貴とか紹介はしたけど……」
ピンと来ていない穂高に対して、春奈は単刀直入に、続けて問いかける。
「88(ハチハチ)……、浜崎 唯さんに全部聞いたよ?
――準備は忙しかったけど、勉強の為に『チューンコネクト』の配信は見てたし、疑問にはなってた」
春奈のその言葉に、穂高は一気に思い当たる節が、自分の中に出てきた。
しかし、まだハッキリと、代役を断言されていない事もあり、穂高は取り繕うように、誤魔化すように答える。
「なッ、なんの事だ?? 唯?
話しが見えないんだが……」
「穂高君なんだよね?
今、堕血宮 リムで配信してるのって…………」
春奈の言葉を聞き、穂高は一気に頭が真っ白になる。
(――は? な、なんで、春奈がそんな事を知って……。
ハチが教えたのか?? なんで???)
穂高の目の前に移る春奈は、どこか悲し気に見え、爆弾を投下された事により、頭の中はパニック状態だった。
そして、穂高は寄りにもよって、自分の一番知られたくない人物に、自分の一番知られたくない秘密を、知られている事を、ゆっくりと認識し始めた。
「――――悪い……、幻滅したよな……」
春奈にとって憧れである、『チューンコネクト』を、どんな理由であれ、汚してしまったと感じた穂高は、素直に謝罪した。
姉の為とはいえ、リムの代役を引き受け、罪の意識を感じつつも、何とか穂高は活動して来た。
しかし、成り代わりを行う大前提として、視聴者にバレてはいけないとだけを考えて活動してきた為、ファンである春奈の失望をおもんばかり、ただただ申し訳ないと穂高はそう思った。
「――どうして、リムを演じてたのか……、教えてくれる?
私にも……」
春奈に問われ、穂高は観念したように、リムの代役を引き受ける事になった経緯を話す事にした。
(これを全て伝えれば、俺は……、多分、春奈に軽蔑されるんだろうな……)
内心では、春奈には話したくないと思いつつも、観念した穂高は、全てを春奈に話した。
姉である美絆の話し、リムの生みの親である月城 翼の話も踏まえて、穂高は話し、穂高の話を聞き終えた春奈は、少しの間、何も話す事は無く黙り込んだ。
「――ファンに対して、こんな事頼むのは、どうかと思うけど、この話は内緒にしておいて欲しい。
誓って、リムに成り代わって、他のメンバーにすり寄ったり、個人的に関わろうとか、そんな事はしてないから」
「わ、分かってるよ! ほ、穂高君は、そんな事しない……。
――お姉さんの気持ちも、分かるし…………」
過剰な穂高の弁解に、春奈はその言葉を強く否定したが、発した声色暗く、穂高はそんな春奈を見て、落胆していると、そう思い込んだ。
しかし、そんな穂高の考えは、春奈の言葉により、すぐに否定される。
「ど、どうして、私も頼ってはくれなかったの?」
「――は?」
春奈の言葉に、穂高は間抜けな声を出すが、春奈は気にする事無く話を続ける。
「わ、私だって、穂高君の役に立てる事があったかもしれない!
――ゆ、唯さんには、教えてて……、私だって…………、協力したのに……」
てっきり、ファンに対しての裏切り行為を、断罪されると思っていた穂高は、春奈の言葉に面を食らった。
そして、バレている事を自覚してから、春奈に嫌われてしまうと、そのことだけが頭の中にあった穂高は、段々と体から緊張が解け始める。
「きょ、協力って……、『チューンコネクト』の大ファンである春奈に、言えないだろ、こんな事……。
それに……、も、もし、言ったら、多分嫌われるし…………」
「嫌わないよッ!!」
珍しく弱腰な穂高に対して、春奈はキッパリと、自分の気持ちを断言した。
「そんな事で、嫌わないよ。
――――ほ、穂高君は、た、たた、大切なひっ……と、友達だしッ」
顔を赤く染め、恥じらいながらも、はっきりと言葉にする春奈に、穂高は一気に脱力し、その場にしゃがみ込んだ。
「――わッ! わわ、大丈夫ッ!? 穂高君?」
しゃがみ込んだ穂高に、春奈は心配そうに声をかけ、歩み寄ろうとするが、そんな春奈を制すように、穂高は力なく腕を上げ、問題無いとゼスチャーを送った。
そして、穂高は遅れて返事を返す。
「悪い、絶対に軽蔑されるって思ってたから、春奈の返事を聞いて、つい力が抜けた」
穂高はそう声を掛けた後、「よいしょ」と掛け声を上げながら、立ち上がり、再び春奈に向き直る。
そして、穂高は大きく息を吐いた後、清々しい、憑き物が取れたような表情で、春奈に続けて言葉を発する。
「――でも、夢を壊した事は事実だから、きちんと謝らせてくれ。
春奈の大切な『チューンコネクト』を穢すような行いをして、すみませんでした。
――それと……、許してくれて、受け入れてくれて、ありがと」
穂高は深々と頭を下げた後、顔を上げ、春奈に感謝の意も続けて伝えた。
穂高の表情は明るく、優し気な穂高の笑顔に、春奈は目を奪われた。
そして、そんな穂高に対して、春奈は唐突に、何の前触れも無く、衝動時に溢れた気持ちを声に出す。
「――――好きだなぁ……、やっぱり…………」
春奈の口に出したその言葉は、決して小さな声ではなく、穂高の耳にもしっかりと届いていた。




