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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十四章 代役の終わりと門出
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姉の代わりにVTuber 218


 ◇ ◇ ◇ ◇


放課後 校舎 屋上


穂高ほだかは、春奈に呼び出され、人気のない学校の屋上へと訪れる。


春奈が指定したその場所に訪れると、そこには穂高の事を待つ春奈がいた。


漫然と屋上から、校庭を見つめる春奈に、遅れて来た穂高は、声をかける。


「――悪いな、忙しいのに待たせて……」


穂高の声に、春奈は反応し、視線だけを穂高へと向ける。


「ううん……、呼んだのは私だし、良いよ。

気にしないで? 

今日、穂高君当番でしょ??

仕事あるんだし、遅れるのは分かってたよ」


「そうか」


穂高は、春奈に許しを得た事で、それ以上遅れた事に対して、謝罪することは無く、返事を返しながら、春奈の隣へと移動した。


「――VTuber関連の話しか?

人前じゃ出来ない話だろうし……」


人気のない所へ呼んだ理由を、何となく考えていた穂高は、春奈に対し、そんな風に言葉を投げかけた。


「ん? う~~ん、まぁ、VTuber関連ではあるね。

人に聞かれたくない話でもある」


含みのある物言いに、穂高は違和感を感じつつも、概ねはデビューの話だと、そう考えた。


「俺に手伝える範囲はもう超えてるし、アドバイスも上手く出来ないぞ?

――まぁ、愚痴を聞くとかなら出来ると思うけど……」


穂高は、春奈の抱える問題に、力になれる事は少ないと思いつつそう答え、穂高尚そんな言葉を聞き、春奈は苦笑いを浮かべた後、話し始める。


「もう十分に助けて貰ってるし、デビュー前の相談とかじゃないよ、穂高君を呼んだ理由は……。

まぁ、愚痴? っと言えば、愚痴になるのかなぁ~~」


春奈は意味深にそう呟くと、穂高を正面に捉える様に、体と顔を穂高へと向け、本題を切り出す。


「穂高君……。 私に内緒にして、フォローしてる事あるでしょ??」


「フォロー??

最近は、特に力に慣れてないと思うぞ?

姉貴とか紹介はしたけど……」


ピンと来ていない穂高に対して、春奈は単刀直入に、続けて問いかける。


「88(ハチハチ)……、浜崎はまさき ゆいさんに全部聞いたよ?

――準備は忙しかったけど、勉強の為に『チューンコネクト』の配信は見てたし、疑問にはなってた」


春奈のその言葉に、穂高は一気に思い当たる節が、自分の中に出てきた。


しかし、まだハッキリと、代役を断言されていない事もあり、穂高は取り繕うように、誤魔化すように答える。


「なッ、なんの事だ?? 唯?

話しが見えないんだが……」


「穂高君なんだよね?

今、堕血宮おちみや リムで配信してるのって…………」


春奈の言葉を聞き、穂高は一気に頭が真っ白になる。


(――は? な、なんで、春奈がそんな事を知って……。

ハチが教えたのか?? なんで???)


穂高の目の前に移る春奈は、どこか悲し気に見え、爆弾を投下された事により、頭の中はパニック状態だった。


そして、穂高は寄りにもよって、自分の一番知られたくない人物に、自分の一番知られたくない秘密を、知られている事を、ゆっくりと認識し始めた。


「――――悪い……、幻滅したよな……」


春奈にとって憧れである、『チューンコネクト』を、どんな理由であれ、汚してしまったと感じた穂高は、素直に謝罪した。


姉の為とはいえ、リムの代役を引き受け、罪の意識を感じつつも、何とか穂高は活動して来た。


しかし、成り代わりを行う大前提として、視聴者にバレてはいけないとだけを考えて活動してきた為、ファンである春奈の失望をおもんばかり、ただただ申し訳ないと穂高はそう思った。


「――どうして、リムを演じてたのか……、教えてくれる?

私にも……」


春奈に問われ、穂高は観念したように、リムの代役を引き受ける事になった経緯を話す事にした。


(これを全て伝えれば、俺は……、多分、春奈に軽蔑されるんだろうな……)


内心では、春奈には話したくないと思いつつも、観念した穂高は、全てを春奈に話した。


姉である美絆みきの話し、リムの生みの親である月城つきしろ つばさの話も踏まえて、穂高は話し、穂高の話を聞き終えた春奈は、少しの間、何も話す事は無く黙り込んだ。


「――ファンに対して、こんな事頼むのは、どうかと思うけど、この話は内緒にしておいて欲しい。

誓って、リムに成り代わって、他のメンバーにすり寄ったり、個人的に関わろうとか、そんな事はしてないから」


「わ、分かってるよ! ほ、穂高君は、そんな事しない……。

――お姉さんの気持ちも、分かるし…………」


過剰な穂高の弁解に、春奈はその言葉を強く否定したが、発した声色暗く、穂高はそんな春奈を見て、落胆していると、そう思い込んだ。


しかし、そんな穂高の考えは、春奈の言葉により、すぐに否定される。


「ど、どうして、私も頼ってはくれなかったの?」


「――は?」


春奈の言葉に、穂高は間抜けな声を出すが、春奈は気にする事無く話を続ける。


「わ、私だって、穂高君の役に立てる事があったかもしれない!

――ゆ、唯さんには、教えてて……、私だって…………、協力したのに……」


てっきり、ファンに対しての裏切り行為を、断罪されると思っていた穂高は、春奈の言葉に面を食らった。


そして、バレている事を自覚してから、春奈に嫌われてしまうと、そのことだけが頭の中にあった穂高は、段々と体から緊張が解け始める。


「きょ、協力って……、『チューンコネクト』の大ファンである春奈に、言えないだろ、こんな事……。

それに……、も、もし、言ったら、多分嫌われるし…………」


「嫌わないよッ!!」


珍しく弱腰な穂高に対して、春奈はキッパリと、自分の気持ちを断言した。


「そんな事で、嫌わないよ。

――――ほ、穂高君は、た、たた、大切なひっ……と、友達だしッ」


顔を赤く染め、恥じらいながらも、はっきりと言葉にする春奈に、穂高は一気に脱力し、その場にしゃがみ込んだ。


「――わッ! わわ、大丈夫ッ!? 穂高君?」


しゃがみ込んだ穂高に、春奈は心配そうに声をかけ、歩み寄ろうとするが、そんな春奈を制すように、穂高は力なく腕を上げ、問題無いとゼスチャーを送った。


そして、穂高は遅れて返事を返す。


「悪い、絶対に軽蔑されるって思ってたから、春奈の返事を聞いて、つい力が抜けた」


穂高はそう声を掛けた後、「よいしょ」と掛け声を上げながら、立ち上がり、再び春奈に向き直る。


そして、穂高は大きく息を吐いた後、清々しい、憑き物が取れたような表情で、春奈に続けて言葉を発する。


「――でも、夢を壊した事は事実だから、きちんと謝らせてくれ。

春奈の大切な『チューンコネクト』を穢すような行いをして、すみませんでした。

――それと……、許してくれて、受け入れてくれて、ありがと」


穂高は深々と頭を下げた後、顔を上げ、春奈に感謝の意も続けて伝えた。


穂高の表情は明るく、優し気な穂高の笑顔に、春奈は目を奪われた。


そして、そんな穂高に対して、春奈は唐突に、何の前触れも無く、衝動時に溢れた気持ちを声に出す。


「――――好きだなぁ……、やっぱり…………」


春奈の口に出したその言葉は、決して小さな声ではなく、穂高の耳にもしっかりと届いていた。

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