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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十四章 代役の終わりと門出
217/228

姉の代わりにVTuber 215

7/10 内容を改編しました。


「私の二年目ねぇ~~。

思ったより私のチャンネルでの思い出より、てっちんのチャンネルの方での、思い出の方がよく覚えてるかもね」


「お前……、それはどうなんだ??」


今や大物配信者となり、歌手としても活躍する88(ハチハチ)に対して、まだ88がそこまでメジャーでない時に知り合い、付き合いも長い事から、てっちんは、タメ口で馴れ馴れしく返事を返す。


この人、88とそんなに仲良いの?

あのハチにこの対応、今じゃこの三人以外考えられないよなぁ~~

ここ数年で一気に88は売れたし、今日の三人、特にてっちんの事を知らない人は多いよな

元々、てっちんの視聴者だったけど、てっちんが配信辞めてから、完全にこっちに移行した人とかいたよな


88とてっちんの思い出話に、視聴者は視聴者で、当時の状況を懐かしく振り返っており、配信を追っていた人の気持ちが、コメント欄ではよく伺えた。


88の卒業配信を自室で見る、春奈はるなもコメントを読み、当時を懐かしんだ。


そして、様々な過去の配信を振り返る中、みっちょんが思い出したように、急に声を上げる。


「――あッ! そういえば!

私、この二人に聞きたい事があったんだッ!

ハチとテツってさぁ、当時付き合ってたりしてた??」


みっちょんの素直な疑問に、配信内は一気に不穏な空気となり、コメント欄もざわめき出した。


いや、やっぱりッ!?!?

だよなぁ~~、当時、俺もそう思ってたわ!

えぇ?? この人と88さんがぁ???

無いでしょ、88さん、こないだ有名な男子アイドルグループとコラボしてたし

ちょっと、仲の良すぎた時期あったよな……


みっちょんの言葉に、当時の視聴者も、思い当たる節があるのか、有識者達は次々に、関係を疑うコメントを流し、てっちんの事をよく知らないリスナーは、まるで疑っていない様子で、コメント欄は二極化した。


みっちょんに尋ねられた質問に、88もてっちんも苦笑いを浮かべつつ、二人の返事を視聴者達は心待ちにし、春奈も画面を見入るようにして、返事を待った。


「無いだろ」

「付き合っては、無いね」


みっちょんの質問に二人の答えは一致した。


「ホントにッ!?

AQUAあくあと私は、絶対二人は恋人同士だって思ってた」


「――ちょ、ちょっとみっちょん、今、配信中だし、88がそれに答えるのマズいでしょ??」


みっちょんの質問は、想定されていないものだったのか、AQUAがその話題を制止した。


しかし、みっちょんの質問は、視聴者の誰しもが気になっていた事だった為、二人の答えに、コメント欄は沸いた。


――よ、よかったぁ~~、ガチ恋勢としては……

付き合ってないか~~、お似合いだったけどなぁ~

付き合うわけないでしょ、88は有名なんだし……

当時、二人共学生だったし、青いものを見てる感覚でした(笑


「そっかぁ~~、付き合ってなかったかぁ~~。

なんか、ちょっと残念」


「なんで、未貯金(MICHOKIN)が残念がるんですか?

この状況だと、残念がるのは、俺じゃないんですか? 多分…………」


穂高ほだかは、残念と感じた事は一度も無かったが、88とてっちんの現状を見るに、一般的に考えて、悔しがる立場にいるのは、自分だとそう判断した。


「当時、仲良かった友達が、今や大物女優になっちゃったみたいな?

あんとき付き合っときゃ良かった~~、みたいな?」


「そんな感じですね」


みっちょんの言葉に、てっちんは遠慮なく答え、てっちんの答えが引っ掛かったのか、今度は88がそれを言及する。


「え? なに?? 残念だったん? てっちん~~。

なんなら今からでも交際スタートする??」


「バカか? そんなことしたら、お前のファンに殺されるわ」


88とてっちんは、互いに気を遣わず、冗談で話す二人だったが、際どい88の冗談に、一部のファンはヒヤヒヤとした様子で、配信を見ていた。


そして、その一部のファンの中には、春奈の存在もあった。


(――てっちんと一緒に配信するなんて…………、羨ましいなぁ、ゆいさん)


気さくなやり取りを、配信を通して見せられる春奈は、どこか心に棘が刺さったような、胸が締め付けられるような、そんな感覚を感じていた。


かつてファンとして、てっちんの配信を見ていた春奈にとっては、その気持ちは湧き出ては来ず、『チューンコネクト』のオーディションに受かり、自分も配信者として、同じ舞台に上がる身になったからこそ、そのような感想が出てきていた。


88はてっちんも交え、そのまま、過去の活動を振り返っていき、てっちん達がゲスト出演するギリギリまで、予定通り配信を続けた。


「――と、ここまでが私の活動4年目までの動画だね……」


88は予定通り、ゲスト三人を交え、自身のデビューからの四年間を振り返り、考え深く、そして寂しそうに呟いた。


呟いた悲し気な声に、視聴者の多くが、その意図を理解、また悲し気な声色にすら気付かず、今後の展開を知る、てっちん、みっちょん、AQUAは、88のテンションの下がりように気付き、気持ちも何となく察する。


88が予定していた卒業配信は、内容を大きく分けると、二部構成のような形になっており、長く活動した88の卒業配信振り返るにあたり、前半と後半に登場するゲストが異なっていた。


88の今の活動内容の大きさと、今と昔では、関わる配信者も変わっている事から、てっちん達の出番は、もうそろそろ終わりであり、配信の進行では、てっちん達三人のゲストは、近々退場する流れとなっていた。


「――え、えっとぉ……、も、もう一本付き合って貰おうか…………」


ここまで大きく外れる事は無く、比較的予定通りに、配信を進行してきたはずの88は、自ら時間を押すような、そんな発言をするが、88のか弱い声は、かつての仲間達によって遮られる。


「ハ~~チッ! もう、次に行かないと!」


「そうそう、ウチ等だけじゃなく、他にも待機してるゲストがいるんだから~~」


みっちょんとAQUAは、明るく、88を促す様に声をかけ、88のやろうとしている事を、優しく止めた。


「お前の活動は、長いんだから、引っ張ると終わらないぞ?」


「――――で、でもッ! も、もうちょっとさ??

まだ、話したい事も……。

せ、せっかく昔みたいに話せるわけだしさ? ね??」


「駄目だ」


88の行動は、完全に放送事故であったが、てっちん達はそれを視聴者に感付かせないよう、あくまで我儘を言う88に見える様に、そう務めた。


88は配信を振り返る中で、当時の事を思い出し、当事者がいる事から、配信の空気も、当時のソレと近い物になってしまった事から、ずっとその空気を味わっていたいと、そう願ってしまっていた。


『88の行動は、寂しさからきている』その事に、てっちん達三人は気付いていたが、その甘えを許す事は出来なかった。


「いつまでも、俺らに構ってないで、進行しろ。

まだ、何も視聴者には伝えてないんだろうけど、お前は、次に進むんだろ?

――――俺達は別に、お前が会いたくなったり、声を聞きたくなったりすれば、いつでも付き合ってやるから」


「だねぇ~~、ウチ等、友達だし?」


「ハチ!

今度、結婚式に呼ぶから、必ず来てね??」


一見、振り返りをまだやりたい88に対して、その我儘を諭すようにも見える光景だったが、その実、未だに88が、一番楽しいと感じていた頃からケジメを付け、前に進むようてっちん達は、88の背中を押しており、配信に対してネガティブな感情を持ちつつあった88へのエールだった。


「――う、うん……、そうだねッ! そうだよね!!

分かった、先に進むよ」


88は、気を取り直し、本来の進行へと配信を戻し、視聴者にこの卒業配信は、前半と後半で構成する事、88の後半の活動を振り返る際には、てっちん達も配信から離れてしまっている事もあり、ゲストが異なる事を説明した。


そして、てっちん達ゲスト3人と88のやり取りも程々に、穂高は、ある約束を果たす為、88に一つのお願いをする。


「――あ、そうだ、ハチ。

お前の卒業配信で言う事しゃ無いんだけどさ?

当時、俺の配信を見てて、そして、今は88の卒業配信に来ている人達に、一言だけいいか??」


「ん? あぁ、そうだね。

最後に皆に、一言ずつ貰おうかッ」


88はそう言って、てっちん達に締めの言葉を貰おうとした。

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