姉の代わりにVTuber 215
7/10 内容を改編しました。
「私の二年目ねぇ~~。
思ったより私のチャンネルでの思い出より、てっちんのチャンネルの方での、思い出の方がよく覚えてるかもね」
「お前……、それはどうなんだ??」
今や大物配信者となり、歌手としても活躍する88(ハチハチ)に対して、まだ88がそこまでメジャーでない時に知り合い、付き合いも長い事から、てっちんは、タメ口で馴れ馴れしく返事を返す。
この人、88とそんなに仲良いの?
あのハチにこの対応、今じゃこの三人以外考えられないよなぁ~~
ここ数年で一気に88は売れたし、今日の三人、特にてっちんの事を知らない人は多いよな
元々、てっちんの視聴者だったけど、てっちんが配信辞めてから、完全にこっちに移行した人とかいたよな
88とてっちんの思い出話に、視聴者は視聴者で、当時の状況を懐かしく振り返っており、配信を追っていた人の気持ちが、コメント欄ではよく伺えた。
88の卒業配信を自室で見る、春奈もコメントを読み、当時を懐かしんだ。
そして、様々な過去の配信を振り返る中、みっちょんが思い出したように、急に声を上げる。
「――あッ! そういえば!
私、この二人に聞きたい事があったんだッ!
ハチとテツってさぁ、当時付き合ってたりしてた??」
みっちょんの素直な疑問に、配信内は一気に不穏な空気となり、コメント欄もざわめき出した。
いや、やっぱりッ!?!?
だよなぁ~~、当時、俺もそう思ってたわ!
えぇ?? この人と88さんがぁ???
無いでしょ、88さん、こないだ有名な男子アイドルグループとコラボしてたし
ちょっと、仲の良すぎた時期あったよな……
みっちょんの言葉に、当時の視聴者も、思い当たる節があるのか、有識者達は次々に、関係を疑うコメントを流し、てっちんの事をよく知らないリスナーは、まるで疑っていない様子で、コメント欄は二極化した。
みっちょんに尋ねられた質問に、88もてっちんも苦笑いを浮かべつつ、二人の返事を視聴者達は心待ちにし、春奈も画面を見入るようにして、返事を待った。
「無いだろ」
「付き合っては、無いね」
みっちょんの質問に二人の答えは一致した。
「ホントにッ!?
AQUAと私は、絶対二人は恋人同士だって思ってた」
「――ちょ、ちょっとみっちょん、今、配信中だし、88がそれに答えるのマズいでしょ??」
みっちょんの質問は、想定されていないものだったのか、AQUAがその話題を制止した。
しかし、みっちょんの質問は、視聴者の誰しもが気になっていた事だった為、二人の答えに、コメント欄は沸いた。
――よ、よかったぁ~~、ガチ恋勢としては……
付き合ってないか~~、お似合いだったけどなぁ~
付き合うわけないでしょ、88は有名なんだし……
当時、二人共学生だったし、青いものを見てる感覚でした(笑
「そっかぁ~~、付き合ってなかったかぁ~~。
なんか、ちょっと残念」
「なんで、未貯金(MICHOKIN)が残念がるんですか?
この状況だと、残念がるのは、俺じゃないんですか? 多分…………」
穂高は、残念と感じた事は一度も無かったが、88とてっちんの現状を見るに、一般的に考えて、悔しがる立場にいるのは、自分だとそう判断した。
「当時、仲良かった友達が、今や大物女優になっちゃったみたいな?
あんとき付き合っときゃ良かった~~、みたいな?」
「そんな感じですね」
みっちょんの言葉に、てっちんは遠慮なく答え、てっちんの答えが引っ掛かったのか、今度は88がそれを言及する。
「え? なに?? 残念だったん? てっちん~~。
なんなら今からでも交際スタートする??」
「バカか? そんなことしたら、お前のファンに殺されるわ」
88とてっちんは、互いに気を遣わず、冗談で話す二人だったが、際どい88の冗談に、一部のファンはヒヤヒヤとした様子で、配信を見ていた。
そして、その一部のファンの中には、春奈の存在もあった。
(――てっちんと一緒に配信するなんて…………、羨ましいなぁ、唯さん)
気さくなやり取りを、配信を通して見せられる春奈は、どこか心に棘が刺さったような、胸が締め付けられるような、そんな感覚を感じていた。
かつてファンとして、てっちんの配信を見ていた春奈にとっては、その気持ちは湧き出ては来ず、『チューンコネクト』のオーディションに受かり、自分も配信者として、同じ舞台に上がる身になったからこそ、そのような感想が出てきていた。
88はてっちんも交え、そのまま、過去の活動を振り返っていき、てっちん達がゲスト出演するギリギリまで、予定通り配信を続けた。
「――と、ここまでが私の活動4年目までの動画だね……」
88は予定通り、ゲスト三人を交え、自身のデビューからの四年間を振り返り、考え深く、そして寂しそうに呟いた。
呟いた悲し気な声に、視聴者の多くが、その意図を理解、また悲し気な声色にすら気付かず、今後の展開を知る、てっちん、みっちょん、AQUAは、88のテンションの下がりように気付き、気持ちも何となく察する。
88が予定していた卒業配信は、内容を大きく分けると、二部構成のような形になっており、長く活動した88の卒業配信振り返るにあたり、前半と後半に登場するゲストが異なっていた。
88の今の活動内容の大きさと、今と昔では、関わる配信者も変わっている事から、てっちん達の出番は、もうそろそろ終わりであり、配信の進行では、てっちん達三人のゲストは、近々退場する流れとなっていた。
「――え、えっとぉ……、も、もう一本付き合って貰おうか…………」
ここまで大きく外れる事は無く、比較的予定通りに、配信を進行してきたはずの88は、自ら時間を押すような、そんな発言をするが、88のか弱い声は、かつての仲間達によって遮られる。
「ハ~~チッ! もう、次に行かないと!」
「そうそう、ウチ等だけじゃなく、他にも待機してるゲストがいるんだから~~」
みっちょんとAQUAは、明るく、88を促す様に声をかけ、88のやろうとしている事を、優しく止めた。
「お前の活動は、長いんだから、引っ張ると終わらないぞ?」
「――――で、でもッ! も、もうちょっとさ??
まだ、話したい事も……。
せ、せっかく昔みたいに話せるわけだしさ? ね??」
「駄目だ」
88の行動は、完全に放送事故であったが、てっちん達はそれを視聴者に感付かせないよう、あくまで我儘を言う88に見える様に、そう務めた。
88は配信を振り返る中で、当時の事を思い出し、当事者がいる事から、配信の空気も、当時のソレと近い物になってしまった事から、ずっとその空気を味わっていたいと、そう願ってしまっていた。
『88の行動は、寂しさからきている』その事に、てっちん達三人は気付いていたが、その甘えを許す事は出来なかった。
「いつまでも、俺らに構ってないで、進行しろ。
まだ、何も視聴者には伝えてないんだろうけど、お前は、次に進むんだろ?
――――俺達は別に、お前が会いたくなったり、声を聞きたくなったりすれば、いつでも付き合ってやるから」
「だねぇ~~、ウチ等、友達だし?」
「ハチ!
今度、結婚式に呼ぶから、必ず来てね??」
一見、振り返りをまだやりたい88に対して、その我儘を諭すようにも見える光景だったが、その実、未だに88が、一番楽しいと感じていた頃からケジメを付け、前に進むようてっちん達は、88の背中を押しており、配信に対してネガティブな感情を持ちつつあった88へのエールだった。
「――う、うん……、そうだねッ! そうだよね!!
分かった、先に進むよ」
88は、気を取り直し、本来の進行へと配信を戻し、視聴者にこの卒業配信は、前半と後半で構成する事、88の後半の活動を振り返る際には、てっちん達も配信から離れてしまっている事もあり、ゲストが異なる事を説明した。
そして、てっちん達ゲスト3人と88のやり取りも程々に、穂高は、ある約束を果たす為、88に一つのお願いをする。
「――あ、そうだ、ハチ。
お前の卒業配信で言う事しゃ無いんだけどさ?
当時、俺の配信を見てて、そして、今は88の卒業配信に来ている人達に、一言だけいいか??」
「ん? あぁ、そうだね。
最後に皆に、一言ずつ貰おうかッ」
88はそう言って、てっちん達に締めの言葉を貰おうとした。




