姉の代わりにVTuber 212
88(ハチハチ)の料理配信に対し、様々なコメントが流れ、流れるコメントの中で、唯は一つ引っ掛かるコメントを見つける。
料理配信、面白かったし、またやってほしかったなぁ~~
ハッちゃんって、料理好きだよね? 意外……
――てか、振り返り企画なのに、自分のデビュー配信はスルーなのな?ww
「で、デビュー配信ね……、やっぱり触れる??」
デビュー配信に触れたコメントが一つ出ると、コメント欄では段々と、初配信の時に言及するコメントが増え、88も触れざるを得ない状況になった。
「いや~~、マジで嫌なんだよね~~。
配信慣れてないの見え見えだし……、ちょっと声、違うしさぁ~~」
見ようよッ!!
おい、逃げるな!
俺たちの手料理デジタルタトゥーを晒して、自分のは晒さないつもりかッ!
偶に見返すけど、マジで声違うんだよなぁwww
「デジタルタトゥーじゃないからッ! マジ失礼だね、君ら!
――はぁ~~~、しょうがないなぁ~~。
今から流すけど、これからコメント欄で、声が違うってコメントは禁止ね?」
視聴者達が、初配信を見せろ見せろと盛り上がり始め、88は、ため息交じりに仕方なく、それを了承し、渋々デビュー配信を流し始める。
「――――こ、こんばんわ~~……、は、初めましてッ
私は普段、動画で歌い手として活動してます。 88でぇ~~す…………」
88の卒業配信に、彼女のデビュー当時の動画が流れ、当初の88の声はかぼそく、自信の無さげな声に、それを聞いた唯は悶絶した。
「~~~~~~~~ッ!!!」
言葉にならない呻き声をあげる88に対し、視聴者達は大喜びで盛り上がり、コメントも勢いよく流れる。
声違うわwww
声、作ってんだろw わざと
声ちげぇw
最後の消えてしまいそうな声よ
88でぇ~~すwwwwww
「おいッ!! てめぇら、声についてコメントすんなって言ったろッ!?
約束破ったな? エンコじゃッ! 指だせぇッ!!」
しばらく悶絶していた唯だったが、顔を上げ、モニターにて視聴者のコメントを見ると、怒りを露に、強い口調で言い放った。
この初配信見ると、威厳も感じないな
ハッちゃん~~、言葉汚いよぉ~~笑
――もう、ヤクザじゃん(泣 wwww
初配信でこんなに大人しいのに、ここまで変わる人いる??www
初配信の頃と、今の88を比べ、余計に視聴者はそのギャップを、面白可笑しく、楽しみ始め、このままでは埒が明かないと考えた唯は、初配信の動画を止めた。
「――もう、おしまいッ!!
羞恥心で、頭おかしなるぅ~~」
少し涙声な88は、そう言い放ち、次の動画をピックアップしようとする。
「次ぃ~~~。
あ、これぇ! これなら安心してッ……」
88が気になる過去配信を見つけた所で、88の配信に、彼女以外の声が乗る。
「「ちょっと待ったぁ~~ッ!!」」
88の声を遮るように、二人の女性の声が、配信に流れ、視聴者含め、唯も一瞬、驚いた。
そして、そんな割り込みながら入った女性二人は、続けて話し出す。
「長いッ! 長いよ!? ハチ??」
「動画一本流したら、すぐ私ら紹介するって言ったよねぇ~~ッ!?」
88に文句を言いながら入ってきたのは、88が呼んだ、今日の特別ゲストであり、88の古い配信友達である、みっちょんとAQUAであった。
88の古参であるリスナーは、彼女達の声で、すぐに誰か気付き、一部の層のファンが、異様な盛り上がりを見せた。
マジッ!? マジ!?!?
すげ~~~! マジで久しぶりじゃん???
誰?
有名な人??
あぁ。この人達の声、聞いた事あるような……
コメント欄は見事に二つに反応が分かれ、配信に乱入して来た人達を知るリスナーは、特に強い反応を見せた。
「――あぁ~~、ごめんね?
つい、盛り上がっちゃって……。
――――えっとぉ、知らない人もいるだろうから、ちゃんと紹介するね?
私の古い友人である、元配信者のみっちょんもAQUAです!」
懐かしすぎるッ!!
みっちょんさん! 俺、歌聞いてました!!
二人共、昔はめちゃくちゃ有名な歌い手さんなんだよなぁ~~
新規税は知らんかぁ~~ 知らんかぁ~~
あまりの盛り上がりに、古参ファンではない視聴者は少しだけ、置いてきぼりを食らったが、88は余計な負担を新規のファンにかけない為に、やり取りを続けていく。
「いやぁ~~、二人共良く出てくれたねぇ~~?
もう普通に、二人共一般人でしょ??」
「ビックリしたよ! 声掛かって!」
「ホント、こっちのセリフだよね? よく声かけて来たね??」
88の配信は、一気に女子会のような雰囲気が出始め、88はコメントを確認し、ゲストの説明を更に続けた。
「最近、私を知ったよ~~?とか。
まぁ、私がレーベル契約した時期に知ったよ?とかの人達は知らないかもだけど……。
二人共、私よりも先に活動してて、当時、ブイブイ言わせてた人達なんだよ??」
「別にブイブイは言わせてないけど……」
「いや、みっちょんは凄かったでしょ? なんか、イベントみたいな所で歌ってたりしたじゃん?
ニヤニヤ超会議、みたいなイベントでさ??」
「それは、AQUAちゃんもでしょ!?
AQUAちゃんも出てたじゃん!?」
みっちょんとAQUAは昔話に花を咲かせ、唯はそんなやり取りを見て、自然と笑みが零れた。
みっちょんとAQUAがゲストで来るとは……
他にもゲストいるんだよね? え?? ちょっと待って? 期待していいのかな??
すげぇ、体がソワソワして落ち着かない
ハチは、今までも連絡取り合ってたの? 配信止めた後も?
「あ、今、コメントで流れたけど、取ってたよぉ~~。
みっちょんとAQUAとは……。
今後、まだ控えてるゲストの中には、最近、連絡取れた人なんかもいるけど」
「私達、引退しても、ハチちゃんは連絡取ってくれて、オフで旅行とかも言ったことあるよね~~?」
「ネズミのテーマパークも行ったし、もう普通に友達だよね??」
みっちょんとAQUAの引退後も、唯は二人と連絡を取り合っており、久しぶりの配信ではあったが、88と二人の距離感は、端から見ていても良い距離感を保っていた。




