表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十四章 代役の終わりと門出
213/228

姉の代わりにVTuber 211


静香しずかが日本を旅立ち、数日後。


穂高ほだかは、運命の日を迎えていた。


土曜日、12時半。


緊張の面持ちで、自室のデスクの前に座る穂高は、30分後に始まるイベントに対して、並々ならぬ思いを持っていた。


「――い、いよいよか……」


静かな自室で、時を待つ穂高は、緊張やその場の雰囲気で、自室なのに落ち着きなく、独り言も自然と多くなっていた。


「リムの成り代わりを、始めてした時以来の緊張だな……」


「―-へぇ~~……、そんなに緊張してくれたんだ??」


自然と出る穂高の独り言に、いつの間にか、許可なく部屋に入ってきた、美絆みきが返事を返した。


「なッ!? 本番前だぞ!

勝手に入ってくんじゃねぇッ!」


緊張がMax状態の穂高は、余裕がない様子であり、急に現れた美絆に対しても、強い言葉で注意した。


そんな、穂高の言葉に美絆が怯むわけも無く、iいつものニヤニヤとした、悪い笑みを浮かべながら、穂高に歩み寄る。


「いいじゃん別に~~。

慣れたもんでしょ? 配信なんか」


「―-は? 今日は訳が違うだろッ!?

いつもと……」


美絆の絡みに、穂高はうっとおしく感じながら、美絆にそう告げた。


「まぁ……、確かに、いつもとは違うね?

リムの配信じゃないし、大物配信者の晴れ舞台だしね??」


(コイツッ……、わざわざ分かり切った事と言ってッ!!

変に意識しないよう、平常心で居たいのにッ!)


悪戯っぽく笑う美絆に、穂高は睨むような視線を一瞬飛ばした後、美絆を構う事を止め、再び、今後のイベントの為、集中し始めた。


穂高の控えているイベントとは、88(はちはち)の卒業配信であり、穂高はゆいとの約束を果たす為、ゲストとして、88の配信に呼ばれていた。


88の過去の功績、今や大物配信者となっている状況から、穂高は失敗する事が許されない立場であり、必然的に緊張感は高まってしまっていた。


美絆との会話を打ち切った穂高に対し、美絆は会話を一方的に進める。


「――弟の晴れ舞台だし、私もなんかしようかなぁ~~?

穂高の喋ってる後ろで私も声、入れてみよっかッ?」


「やめろバカッ!

リムの声が入ってるってバレるし、色々ややこしい事になんだろうがッ!!」


美絆の言葉で、再び集中し始めた穂高は、その集中を遮られ、穂高の反応を見て、美絆はケタケタと笑い声を上げていた。


「――揶揄うのが目的ならもう十分だろ?

早く部屋から出てってくれ……」


状況が状況である為、穂高は美絆に完全降伏せざるを得ず、呆れ気味に話す穂高を見て、春奈はそれ以上穂高を揶揄うのをやめる。


「そう、分かった。

――でも最後に、リムの成り代わり初配信でも、そんだけ緊張してくれてた事に対して、お礼じゃないけど穂高に一言、二言……。

あんまり、気負わないで?

素で良いんだよ、素で!

88は、手慣れた有名配信者じゃなく、既に配信を止めた、素人同然のアンタを呼んだんだから……。

盛り上げたり、笑いを取ろうなんか考えず、ただ素直に。

『てっちん』として活動してたあの頃の様に、接したあげな??」


美絆はそう告げると、穂高の部屋から出ていき、穂高は、美絆の言葉で少しだけ、重荷が軽くなったような、そんな感覚を覚えた。


美絆が部屋から出て行ったのを確認すると、穂高は再びデスクに向き直り、配信の準備と、気持ちの整理を始める。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――――いやいや、ごめんねぇ~~、仰々しくこんな配信しちゃってぇ~~」


88の最後の配信は、もっとシリアスに、重く始まるかと思われたが、88はいつも通りの様子で明るく、取り繕うことなく配信を始めた。


いつも通りに、視聴者に簡単に挨拶を済ませると、これから行う配信について、内容を話していく。


「今日、みんなには、88卒業配信とだけ銘打って、内容については何も話してなかったから、何をしていくか簡単に説明していくね?」


88は、動画の進行を続けるが、視聴者達はまだまだその気になっていないのか、卒業を惜しむ声ばかりが上がる。


ハチ……、嘘だよな!? 配信止めるなんて……

先月、発表されたけど、やっぱりまだ納得できない!

ハチちゃん辞めないでぇ……


「――ハハハ…………、流石にコメントもあんまり乗り気じゃないね……。

でも、ごめん。

もう決めた事だから、88としての活動は、今日で最後。

今まで、辞める理由だとか、私の気持ちとか、何にも話してこなかったけど、ちゃんと、今日の配信で話すから。

――まずは、ごめんだけど、我儘だけど、みんなと過ごした軌跡を、思い出を一緒に振り返らせて欲しい」


引退を惜しむコメントは、当然、ゆいの目に入り、そのコメントに対して触れない事が出来ずに、88は進行を止め、視聴者に語り掛けた。


「――しんみりさせるような事、言っちゃってごめんねッ!

今日は、過去最高に楽しい配信になるよう、私も色々準備して来たからッ!!

きっと、私史上最高の配信になるだろうし、特別ゲストも呼んでるから、みんな期待して欲しいなッ」


88は、無理やり盛り上げるように、声明るく、そう言い放ち、まだまだ惜しむ声も上がる中、自分の用意した企画に、視聴者を引き釣り混む。


長年配信を行ってきた事もあり、88はすぐに自分のペースへと持ち込み、用意した企画は、順調に進みだした。


「――――デビュー年、一番盛り上がった配信は、これかぁ~~。

『チキチキ 第一回 見栄え評価 料理対決 視聴者参加もあるヨッ!!』

年末にやったやつねッ!」


88はデビュー年から、自分の配信を視聴者と振り返り、デビュー1年目の動画でソートを掛け、視聴者と自分が気になった配信をピックアップしていく。


「これもさぁ~~、皆が原因で出来た企画だからね!? 覚えてないと思うけど……」


? 俺らが原因……??

まるで覚えがないぞ

――デビュー1年目で、歌い手として、活動を始めた配信者とは思えない企画……


「いや、ホントだよッ!!

今でこそ、こうして色々配信してるけど、私は元々歌い手出身だよッ!?

歌を上げて、活動するのが主だったんだからッ!!」


88は、自分でも常々思っていた事を、視聴者に指摘され、思わずヒートアップする。


「あのさ! 覚えてないって人多いけど、酷くないッ!?

――事の発端は、私がズイッターで自分の手料理をあげた時に、見た目が悪いだの、美味そうじゃないだの、心無いリプライが来て、じゃあ、本気でやってやろうじゃん!ってなったのが発端だからねッ!?

私だけ何度もあげるのも癪だから、君ら視聴者にも料理作らせて、写真送って貰って、皆で品評会みたいな事をしたわけだから……」


色々と酷い話だw

当時ファンじゃ無かったから知らないけど、当時のファン酷い~~!

結果、視聴者含め、みんな傷ついて、第二回は開催されなかったという……

男のリスナーで、凝った料理出して、逆にキモイとか言われてた奴おったな

――――それは、俺です(泣


企画の内容も相まって、視聴者段々と、88の卒業配信を楽しみだし、完全に普段の配信のノリになった88は、そのまま企画を進めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ