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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十三章 進む道
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姉の代わりにVTuber 209


「あッ! 二人共!

見送りありがとねぇ~~、わざわざ来てもらっちゃって……」


空港で静香しずかの姿を確認した、穂高ほだか美絆みきは、静香に駆け寄ると、そんな言葉を掛けられた。


「お母さん、帰る時も急だね?」


「アハハ……、ごめんねぇ……」


美絆の指摘に、静香は乾いた笑みを浮かべながら、少しばつが悪そうにそう呟いた。


「親父と一秒でも離れたくないんでしょ?

相変わらず、アツアツな事で……」


少し嫌味っぽく指摘した美絆に続き、穂高も便乗して静香にそう伝えると、静香は何故か、息を吹き返したかのように、顔を上げる。


「ま、まぁねッ!!

――で、でも、お父さんが悪いのよ? あんなにイケオジなんだからぁ……。

絶対、私が近くにいないと、変な虫が寄り付くッ」


「お父さんは別に、心配いらないでしょ?

基本、絵にしか興味ない人だし……。

絵に興味津々なお父さんにとって、変な虫は、母さんなんじゃないの?」


「――んなッ!? 美絆ッ!?!?

お、親に向かってなんで事をッ!?」


美絆の言葉は静香に、クリティカルだったのか、かなり効いている様子であり、静香のそんな反応を見て、美絆は悪戯っぽく、笑みを浮かべた。


「――だ、大体、プロポーズしてきたのは、お父さんなのよッ!?

お父さんがお母さんに惚れたんだからッ!」


「またその話か……。

結婚の申し出なんだから、男が申し込むのは一般的だろ??

――それよか、恋人になる時の告白は、母さんからみたいじゃん?

母さんが最初に惚れてたんじゃないの?」


「ち、違うッ!! 告白もお父さんッ!!

お母さんからじゃないから!!」


穂高は昔、父親から教えられた話を、静香に話すと、静香は必死にその事実を否定し、静香のそんな反応を見て、穂高はため息しか出なかった。


ニヤニヤと笑みを浮かべる美絆と、呆れた様子の穂高を見て、静香は続けて反論する。


「――それに、私とお父さんの子なのよ? アンタ達は!

今、お母さんをバカにしている片鱗は、貴方達にも十分に受け継がれてるんだからね??

美絆、既に美絆には、その片鱗を感じるわよ? お母さん」


「えぇ~~、ないない。

私、彼氏いないもん!」


必死に訴える静香に対して、美絆は真面目に取り合わず、冗談っぽく返事を返した。


「いいや、あるわね美絆には。

――なにより、穂高を手放そうとしない所が特に匂うわ……」


「手放そうって……、別にそんなつもりないけどなぁ~~」


静香の言葉にピンと来ていない様子の美絆はそう答え、静香は標的を変え、今度は穂高へと視線を移した。


「穂高。 あんたもよ?

まだ、片鱗は見えないけれど、美絆よりも、穂高はお母さんに似てる節があるんだからッ」


「恋愛関連は、親父に似たんだろ?

母さんみたく、恋愛に熱いタイプじゃないよ」


静香と同じように、穂高も淡々とした様子で、静香に言葉を返し、そんな自らの子供の反応に、静香は納得がいかなかった。


「――ッ! 二人して澄ましちゃってぇ~~。

恋愛相談持ち掛けられても、お母さん、相談に乗ってあげないからねッ!!」


「いいよ、別に」

「いいよ~~、しないから」


静香の言葉に、穂高と美絆は二人で反応し、二人の答えに、静香は驚愕した後、落胆したように肩を落とした。


そんな、他愛のない会話を続けた、天ケあまがせ親子であったが、着々と、飛行機の離陸時間が迫り、静香はそれに気付くと、荷物に手をかけ、旅立つ素振りを見せた。


「もう行くの?」


「うん、そろそろ時間だしね?」


静香はそう伝え、歩み出そうとしたが、そんな静香を穂高は、呼び止める。


「――母さんッ!

俺、ここ最近の出来事で、決めた事があるんだ」


真剣な穂高の様子に、静香は歩みを止め、穂高に向き直る。


そして、静香に視線を合わせたまま、穂高は宣言するように、発言する。


「高校卒業したらさ?

来年、母さんの元で手伝いをしたいと思ってる。

――手伝いって言っても、俺じゃなんの役にも立たないから、基本的には、勉強させてもらうって形になると思うけど……」


清々しい表情で告げた穂高の言葉に、静香は目を見開いたまま、驚きの表情を見せ、美絆も穂高の言葉に驚いてはいたが、静香よりも先に、穂高に声を上げた。


「ほ、穂高ッ!? な、なに言ってんの??」


酷く困惑した様子の美絆を尻目に、穂高は美絆の言葉には応えず、静香に向かって話し続ける。


「今回の文化祭で、より分かったんだ。

育てる楽しさというか、自分の良いと思ったものに、磨きをかける感覚……。

俺は、この感性を大切にしたい。

様々な才能を埋もれ差すことなく、世に出したい!」


「――そ、そう…………」


穂高の意志の強い言葉に、静香は自分が望んできた状況でありながらも、声に力は無く、ただ穂高の言葉を受け止めた。


「母さんは、芸の良し悪し、作品の良し悪しを外さない。

詳しくない業界であっても、見出そうとする事をするし、必要であれば、知識を得る努力をする。

売り出すためにプロデュースもするし、より育てる、あるいは活躍できるように、環境を整える。

俺も、そんな事をしていきたい」


「――――なんで?」


静香は、ただ穂高の言葉を受け止め、穂高の話しを、遮ることなく聞いたうえで、穂高にそう思う理由を尋ねた。


「関係あるか分からないけど、姉貴の仕事を手伝った事も関係してると思う。

姉貴のVを引き受ける上で、俺は、成り代わりを完遂させる事と同時に、姉貴の配信を一度でもいいから、超えてみたいと思ってた。

目に見える数字で……」


穂高は会話の途中、美絆に視線を向けると、美絆は、ばつの悪そうな表情を一瞬見せたが、穂高の話す内容に納得がいかないのか、依然として怪訝そうな表情を浮かべていた。


「――でも、それは叶わなくて。

ただ、勝てない相手に挑戦している期間は、悪いものじゃなかった。

対策を考えて、実験して……、また駄目なところが出て…………」


穂高は、春奈はるなの事を思い返しながら、話を続ける。


「――今、似たような境遇にある子を、手助けしてるんだ。

まぁ、俺が勝手に動いてるだけなんだけどね?

どうしても、無事にデビューさせてあげたいし、その為なら、惜しみなく協力する。

母さんがスカウトした、大貫おおぬきと同じように、才能持つ素晴らしい人だからッ」


「成程ね、穂高の考えは分かった」


穂高の言葉を受け止めた静香は、そう答えると、穂高に背を向け、飛行機の乗り場へと歩み始めた。


会話を打ち切ったように見える静香に、穂高は彼女の背を見つめていると、静香は去り際に、穂高に声をかける。


「卒業したら、迎えに来るわ。

――英語、勉強しておいてね?」


穂高に視線をくれず、歩みながら話す静香だったが、その言葉は穂高の耳に届き、静香は、別れを告げる様に、背を向けたまま、軽く手を振りながら、穂高達の前から去っていった。

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