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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十三章 進む道
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姉の代わりにVTuber 206


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――以上……、3-B組による『ロミオとジュリエット』の演劇でした……。

続きましては、軽音部による発表となります」


3-Bの演劇が終わり、会場からの拍手が鳴りやむと、司会進行のアナウンスが体育館に流れた。


演者として出演していない穂高ほだかは、他の観客と同じように、舞台を見ており、穂高の隣には、3-Bの劇の発表に間に合った、静香しずかの姿があった。


「――どう? 悪くなかったでしょ??」


真剣な表情で、未だに舞台を見つめていた静香に、穂高は演劇の感想を尋ねた。


「そうね……、穂高の言うように、見る価値があった劇だわ」


静香の答えるそれは、一般の客が単に感想を述べるものとは少し違い、感想を話す静香の様子は、どちらかと言えば、娯楽に対する良し悪しの感想ではなく、3-Bの劇を仕事として、商業として見ている雰囲気があった。


「演者の生徒は舞台袖??

――紹介してくれる?」


「いいよ。

母さんなら、そう言いそうだとも思ってたし……」


穂高は静香にそう答えると、静香を連れ、舞台袖へ案内し、一緒に劇を見ていた美絆みきゆい達も、穂高の後を追った。


舞台の成功を喜ぶ、3-B生徒の集団を見つけた穂高は、大貫おおぬきの姿を探した。


舞台の主役を務めたという事もあり、大貫は一番に、舞台の成功を喜んでおり、大貫の周りに沢山の生徒が集まっていた事から、穂高はすぐに大貫を見つける事が出来た。


大貫の姿を見つけた穂高は、大貫に寄っていくと、偶然にも大貫と視線があった。


「――おッ! 天ケあまがせッ!!」


大貫は穂高を見つけるなり、手を上げ、穂高の名前を呼び、穂高はそんな大貫を見て、驚いた表情を浮かべた。


集団の中心である大貫が、穂高に声を掛けた事で、3-Bの生徒達は一斉に、穂高へと視線を向け、大貫は、穂高に話したい事があったのか、大貫の方から穂高に駆け寄ってきた。


「どうだッ! 凄かっただろ!? 俺の演技は!!」


穂高に駆け寄るなり、大貫は穂高に自慢するように、堂々とそう告げ、大貫のそんな姿を見て、穂高は自然と笑みが零れた。


「凄かったよ……、格段に上手くなってた」


「そうだろそうだろッ! なッ!? 俺が主役で良かったろ??

天ケ瀬よりも上手く、演じられた自信があるぜッ!」


「ふんッ……! 言ってろ……」


舞台を成功させた大貫に、穂高は文句の付けようがなく、大貫は穂高に言われた事を、気にしていたのか、過去の会話を持ち出し、穂高を煽った。


「――ま、まぁ? お、お前が練習に付き合ってくれたおかげも? 無きにしも非ずって感じだけどな……。

―――――感謝してるよ」


「当たり前だ、俺が付き合わなきゃ、お前の演技はダメダメだったしな」


「なッ!? い、言ったなぁ~~! お前ッ!!」


大貫と穂高は、楽し気にそんなやり取りを交わし、大貫と穂高の会話を聞いていた3-Bの生徒は、困惑した表情を浮かべてた。


「あ、天ケ瀬が大貫の練習に付き合った……?」

「全体練習嫌がってたよね?? 天ケ瀬君」

「大貫が病気から復帰したのに、遜色ない出来だったのって……、もしかして…………」


文化祭においては、問題も起こした事もあり、穂高の印象は、クラスからあまり良く思われていなかったが、大貫とのやり取りを踏まえ、そんな疑問を持つ生徒がちらほらと現れた。


生徒たちのそんな声を聞き、その場にいたもう一人の主役である春奈はるなは、何故か嬉しい気持ちになり、同じくクラスメートである為、集団にいた愛葉あいば 聖奈せなは、3-Bの生徒達の身勝手さが不満なのか、不貞腐れた表情を浮かべた。


「――穂高、ちょっといいかしら?」


大貫と穂高のやり取りに、静香は物言いたげな様子で、会話に入り、大貫を真剣な表情で見つめた。


「あなた……、えっと、大貫君??

私は、穂高の母です」


「天ケ瀬の??

――あ、こんちわっす……」


穂高の親が話しかけてきた事で、大貫は少し困惑した様子を見せ、穂高に心配そうな視線を飛ばすが、穂高が口を挟む事はしなかった。


「貴方、演劇に興味がある?

――その、将来性も含めて」


「え? え?

あ、まぁ、ちょっと興味はあるかもしれないです。

でも、演劇をやったのは今回が初めてで、楽しいって思ったのもここ最近の話ですよ?

――将来的にって言われると、ちょっと分からないです」


静香の質問に、大貫は最初、戸惑いつつも、素直に自分の気持ちを答えた。


「成程ね……。

うん、今はそれでいいわ」


大貫の答えに静香は、納得するような様子を見せた後、鞄から一つの紙を大貫に差し出した。


「――名刺??」


静香から渡された紙を、大貫は素直に受け取ると、その紙凝視した。


「貴方の未来の一つの可能性として、それを持っていて?

――もし、演劇に興味があるのなら連絡して欲しい。

私自身、専門外の部分ではあるのだけど、顔は広いの。

その筋の業界とも付き合いがあるわ」


静香は完全に、大貫をスカウトする気であり、大貫は急な展開に、まだ思考が追い付いていないといった様子だった。


戸惑う大貫を見て、静香は続けて大貫に言葉を掛ける。


「そんな構えなくてもいいわよ?

――演劇を自分の将来として、少しでも考えたいというのなら、どこか、プロの劇団のチケットを取ってきてもいい。

まずは、色々見て、それから考えて欲しい」


「あ、ありがとうございます……。

――でも、どうして俺にそんな…………」


至れり尽くせりな状況に、大貫は困った表情のまま、静香に尋ね、静香は優しく微笑みながら、大貫の質問に答える。


「貴方の演技を見て、惹かれるものがあったから。

――他にも要因はあるけれど、一番の理由はそれよ?」


静香は大貫の質問に答える途中、穂高の方へと視線を振ったが、最後は自分の本気を信じてもらう為、大貫を真っすぐに捉え、そう言い放った。


大貫と静香のやり取りは注目を集め、3-Bの生徒達は、一部ザワザワと沸き立った。


春奈は大貫と静香、そして穂高を心配そうに見つめ、聖奈は他の3-Bの生徒と同じように、驚いた表情、困惑した表情を浮かべていた。


「本当に難しく考えないで?

業界人が、気まぐれに名刺を渡してきた、そんな程度に受け取って貰って、構わないから。

――それじゃあ、穂高、私は行くわね? 騒がしてごめんね??」


「ホントだよ、もっと穏便にやってよ…………」


妙な注目を浴びてしまっている事に、穂高は呆れた様子で答え、穂高のそんな表情を見て、静香は楽しそうに笑みを浮かべた。


「――お、おいッ! どうゆう事だよ! 大貫! 天ケ瀬!!」

「大貫、スカウトじゃないッ!? 凄いじゃん!!」

「あ、天ケ瀬の母親って何者ッ?」


静香が去ると、大貫と穂高は一気にクラスメートに囲われ、質問攻めを受けた。


今度は大貫と穂高を中心に、大きくなっていく集団を、春奈は少し離れた位置から見つめていたが、自分もその輪に入ろうと、歩み寄った。


「は~る~なちゃんッ!!」


クラスメートの輪に入ろうとする春奈だったが、急に呼び止められ、春奈は歩みを止め、声の主へと視線を向けた。


視線を向けた先には、唯の姿があり、唯は笑みを浮かべながら、春奈に声をかけて来ていた。


「ごめんね? 春奈ちゃん。

ちょっと、二人で話せたりしないかな?」


「え? 二人でですか??

だ、大丈夫ですよ」


唯の提案は、意外であったが、春奈は断る理由もなく、唯の言葉に従った。

誤字報告ありがとうございます!

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