姉の代わりにVTuber 205
「――えっとぉ……、こちらが穂高君のお姉さん、美絆さん」
穂高達の元に訪れた瑠衣に、春奈は、一人一人、美絆達を紹介していた。
「こんにちはッ! 春奈ちゃんのお友達!!」
「――あ、こんにちは。
四条 瑠衣です」
美絆は春奈に、簡単に紹介されると、気さくな様子で瑠衣に話しかけ、瑠衣も、春奈のテンションに若干押されるも、すぐに返事を返した。
「うひょ~~~ッ! 春奈ちゃんとは、また違ったタイプの生JKだよ? 翼ちゃん!?」
「――う、美絆さん…………、初対面でそのリアクションは……」
瑠衣と会話を交わした美絆は、興奮した様子で、仲の良い翼に話しかけるが、美絆の反応に、翼は乗る事が出来ず、瑠衣の反応を伺いつつ、苦笑いで美絆の反応を注意した。
喜びを見せる美絆に対し、瑠衣は、ドン引きする事は無く、それよりも別の事が気になっていた。
「――ね、ねぇねぇ、天ケ瀬君……。
本当にお姉さん??」
美絆に気付かれないよう、こっそりと尋ねてくる瑠衣に対し、穂高は、美絆の様子を見ながら、ため息交じりに答える。
「不本意ながら、義理でもなく、純度100%の姉貴だよ……」
「め、めちゃめちゃ美人だねッ!?」
「口を開かなければな……」
穂高の姉を称賛する瑠衣だったが、穂高はその称賛を素直に受け止めず、皮肉交じりに答えた。
穂高と瑠衣のやり取りに、春奈は乾いた笑みを浮かべた後、紹介がまだだった翼を紹介する。
「――えっと……、こちらが月城 翼さん。
最近お世話になってて……」
「ん? お世話?? 春奈が?」
春奈は、友人と紹介するには、まだ日も浅かったこともあり、少しだけ濁して説明したが、当然、瑠衣は違和感を感じ、それを口に出した。
「えぇ? あ、えっとぉ…………」
瑠衣の質問に、春奈が答えあぐねていると、翼の方が質問に答える。
「友人ですよ? 杉崎さんとは……。
まだまだ、知り合って日が浅いですが、これからもっと、仲良くなっていきたいと思っています。
――私に、こんな贈り物もくださいましたし……」
翼は淡々と春奈との関係を話し、つい先程、穂高から渡された、『ジイかわ』グッズを、瑠衣に見せるようにし、そう答えた。
「え? あ、あぁ、そうなんですか?
私もハルとは、長い付き合いで……、良ければ、私ともよろしくお願いします!」
「えぇ! こちらこそ、よろしくお願い致します」
翼と瑠衣は、互いに頭を下げ、そんな会話をし、翼にハッキリと友人と呼ばれた事と、仲の良い友人と翼が、そんなやり取りをするのを見て、春奈は、自然と笑みが零れた。
そして、翼の紹介を終えた春奈は、最後に残った一人の女性、唯の紹介をしようとした。
「それで、彼女がッ……」
春奈が口を開き、唯を紹介しようとしたその時、春奈の言葉を遮り、唯の方から瑠衣に声を掛けた。
「浜崎 唯です!
春奈ちゃんとは……、友達っていう感じより、仲間ッ!って感じかな??」
「――仲間…………??」
唯の自己紹介に、瑠衣は困惑の表情を見せ、穂高も唯の言葉には、納得がいかなかったのか、小声で「おい」と呼びかけた。
「まぁまぁ、良いじゃん良いじゃん、仲間ッ!
ねぇ~~? 春奈ちゃん??」
「――えッ?? あ、まぁ、そうですね」
唯は強引に、その紹介の仕方で乗り切り、春奈も否定する理由が特に無かった為、唯の言葉に賛同した。
そうして一通り、春奈と穂高の関係者をし終えた所で、瑠衣は春奈に向けて、疑問を投げかける。
「な、なんか、春奈。
意外な交友関係が広がってたんだね……」
「あ、え……? ま、まぁね~~……」
春奈と一緒に遊ぶことも多かった瑠衣は、春奈の交友関係について、ある程度知っていると思い込んでいたが、穂高の姉である美絆は例外として、唯と翼の存在は意外だった。
翼も丁寧な口調で、お嬢様のような、特徴ある女性であったが、それ以上に、見た目の面で、唯が異色であり、髪は紫に染め、耳にはピアスと、中々に奇抜なスタイルである為、瑠衣は気になっていた。
(ど、どうやって知り合ったんだろ……。
唯さんも翼さんも悪い人には、見えないけど、春奈の今までの交友関係を鑑みても、意外というか、なんと言うか…………)
混み入った話は、唯たちを前にしては聞けず、瑠衣は疑問を胸に秘め、春奈に別の話題を振る。
「――そういえば、ハル、いつ頃戻る? 教室。
そろそろ、演劇の為に戻んなきゃ駄目だよね??」
『桜祭ベストペアSHOW』も終え、いい時間になりつつある状況の中、瑠衣は、春奈に自分のクラスの出し物の話をした。
「うん……、そうだね。
衣装の準備とかもあるし、そろそろ戻った方が良いかも……」
瑠衣の意見に賛同する春奈に、瑠衣たちの会話が気になったのか、唯が声をかける。
「え? なになに?? 春奈ちゃん、演劇でもするの?」
「はい、『ロミオとジュリエット』です」
「えぇ~~? ロミジュリ?? 見たいッ!
穂高は出るの?」
唯はテンション高めに、今度は穂高に話を振った。
「俺は出ないよ。
春奈はジュリエット役だぞ?」
「――そりゃ、そうでしょ?? 春奈ちゃんみたいな美人がやらなくて、誰がやるのよぉ~~。
――――あ、でも、春奈ちゃんの友達の、瑠衣ちゃんがやるのも、悪くないかも……」
唯は、「ヘヘへ」と笑みを零しながら、瑠衣にそんな言葉を放ち、唯の言葉に瑠衣は、検層するように答えていた。
瑠衣と唯のそんなやり取りを尻目に、穂高は美絆に声をかける。
「母さんは、いつ来るんだ?」
「え? あぁ、もうそろそろ来ると思うよ?
穂高に言われた事、気にしてたみたいだし、劇は絶対に見に来ると思う」
「――そうか」
静香の事を、穂高は美絆に確認し、春奈と瑠衣は、劇の準備という事もあり、穂高達の集団から、外れて行った。




