姉の代わりにVTuber 203
「――えッ!? も、もしかして、穂高君ッ!?」
女装した穂高は、イベント係員に従い、自分の出番待ちの所で待機していると、遅れてそこに訪れた、春奈に声を掛けられる。
春奈の姿を見て、穂高は石の様に、一瞬固まり、春奈は穂高の女装姿を見て、関心した声を上げる。
「す、凄いね? 穂高君……。
女の子にしか見えないよ? とゆうか、凄い美人…………」
穂高の女装は、一言でいえばクールビューティな見た目であり、元々キレ顔なイメージがある穂高は、目元が鋭く、賢そうな印象があった。
その穂高の持つ印象をそのままに、可愛い路線でコーディネートさせるのではなく、知的な大人の女性をイメージさせるような、そんなコーディネートを施していた。
真っ黒で跳ねの無い、肩にギリギリ掛かる程の長さのウィッグを付け、化粧は濃い目であり、切れ長の目が、強調されるようなメイクであり、見ようによっては少し、性格がキツそうな印象を持たせていた。
唇も分かりやすく色を乗せ、真っ赤な赤色をしており、前髪は綺麗に分けられ、おでこが見える形にセットされていた。
「仕事できる女性みたいだね」
「――いや、それは眼鏡かけてるから、そう見えるだけだろ?」
春奈の微妙な褒め方に、ようやく穂高は石のような状況から解放され、思い出したかのように、春奈の言葉に返事を返した。
そして、穂高と同じように、スタイリストによって、コーディネートされた春奈を見て、穂高はようやくその感想を話し始める。
「は、春奈もその……、凄いな。
いつものイメージと違うから、ちょっと戸惑った……」
「えッ!? あ、え……、そう?
――あ、あんまり似合ってないかな??」
開口一番の感想が、誉め言葉でなかった事で、春奈は恥ずかしそうにしながら、自信なさげに穂高に尋ねた。
「いやいや! に、似合ってるッ!!
な、なんか、春奈って、運動部だったし、学校以外であった時は、ズボンを履いてる事多かったからさ?
そうゆう……、なんか、ふりふりなロングスカート、イメージに無くて……。
か、可愛いと思うぞ?」
自信なさげな春奈に対し、頬高は精一杯に気を使い、春奈の見た目に関して、嘘偽りなく、素直に感想を伝えた。
「か、かわッ……!?
――そ、そっか…………。
まぁ、確かにあまり自分からは、着ないかも……。
似合ってるのなら、良かった」
穂高の言葉を聞き、春奈は自然な笑みを零し、メイクされ、衣装も着ている春奈のその笑顔は、とてつもない程の魅力を持っていた。
春奈のコーディネートは、ゆるりふわりとしたイメージを持たせ、何より目立ったのは、薄い青を基調とするワンピースであり、薄い生地で所々にフリルが付いている事から、余計にふわふわとしたイメージを強調させた。
普段、短めな髪をしている春奈は、穂高と同様にウィッグを付け、髪は明るい茶色のロングであり、イメージを強調させるため、軽くパーマを当てられていた。
服装と髪型で言えば、少し幼さを感じるコーディネートであったが、春奈が元々、女性にもモテる程の、綺麗な顔つきだった為に、大人っぽさもキチンと残っており、絶妙なバランスを取っていた。
「――可愛い~~ッ! 天使みたい」
春奈の傍を通った、生徒会の生徒が、春奈を見て、そんな感想を零した。
生徒会の生徒が零した感想は、春奈にも十分聞こえる程の声量であり、その言葉が、自分に向けられていると分かった春奈は、顔を赤く染め、恥ずかしそうにした。
褒められ、顔を赤く染める春奈を見て、穂高は、生徒会の生徒が述べた感想に、少しだけ違和感を感じた。
そして穂高は、その違和感を胸に秘める事は無く、意識せず、自然と思った言葉が、口をついて出る。
「――天使っていうより、どちらかと言えば、妖精みたいだよな」
思わず口に出た言葉に、春奈はハッとした表情で穂高を見つめ、春奈のそんな顔を見て、穂高は自分が何を言ったのか、そこで自覚をした。
「え…………?」
「あ、いや……、ごめん。
変な事言った…………」
穂高の言葉で、明らかに妙な空気が二人の間に流れ、穂高は堪らず春奈から視線を逸らし、謝罪する穂高を見て、春奈は益々顔を赤くした。
どう反応していいか困る二人は、少しの間、互いに沈黙したが、沈黙を続けても、妙な空気は拭えず、穂高は無理やり別の話題を切り出す。
「そ、そういえば、俺たちの出番は、何番なんだろうな??」
「――え? あ、あぁ……、ど、どうなんだろ……。
と、トップバッターとか、トリはやめて欲しいね??」
「間違いない」
穂高の話題の転換に、春奈は一瞬乗り遅れるものの、すぐに穂高が気を利かせた事を汲み取り、話題に乗っかった。
穂高と春奈はその後も、無理に会話を続ける事で、妙な空気を払拭させ、お互いの見た目に関して、それ以上に言及することは無かった。




