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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十三章 進む道
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姉の代わりにVTuber 202


桜祭おうさいベストペアSHOW』に参加を決めた、穂高ほだか春奈はるなは、当日参加のイレギュラーだったが、参加人数が増える事を望んでいた生徒会は、あっさりと二人の出場を認めた。


穂高と春奈のペアを含め、計10組の参加となり、出場が決まるなり、穂高は、自分の女装を担当するスタイリストへと案内された。


「――俺が君を担当する、立花たちばな あおいだ。

よろしく……」


穂高が案内されたスタイリストは、少し暗い印象がある、どちらかといえば、取っ付きにくいような雰囲気を持つ、男性スタイリストだった。


「天ケあまがせ 穂高ほだかです、よろしくお願いします」


穂高は、葵に対して挨拶を返し、葵へと視線を戻すと、葵が身に着ける、一つのアクセサリーが目に入った。


(指輪……。既婚者か。

見た目若そうだけど、30代は行って無さそう……)


何気なく振った視線には、葵の左手の薬指にはめた指輪は見え、穂高はそれを見て、葵が既婚者だと判断した。


「――――どんな感じが良いとか、そんなの無いよな??」


挨拶を終え、穂高は促されるように、席に着くと、穂高の背面に立った葵が、そんな言葉を穂高に投げかけた。


「無いです。

正直、なにしても、悲惨な結果にしかならなそうなんで……」


「そうか? 俺は、君、女装似合うと思うけど」


「流石にお世辞ですよね?

絶対似合わない思いますけど……」


穂高と葵の意見は相違し、特に希望の無い穂高は、葵にされるがまま、コーディネートされていく。


初めての体験である穂高は、自分の目の前にある鏡を凝視し、葵の行動の一部一部に興味を示し、葵も最初は、作業に集中している節があったが、余裕があるのか、穂高に世間話を持ち掛ける。


「女装に興味無さそうなのに、なんで参加なんてしたんだ?

一緒に参加してる、相方である彼女の頼み??」


「あぁ、いや、彼女じゃないですし、一緒に参加を決めた春奈はるなの頼みでもないです」


葵の勘違いを穂高は否定しながら、参加を決めた経緯を、その後簡単に、葵に説明した。


「なるほどねぇ~~、イベントの参加賞目当てか」


「すいませんね、本業の人を前に、女装に興味が無いだとか……」


「別に……、気にするな。

むしろ、興味ない人を業界の魅力に引き込むのが、俺らの仕事だし」


穂高の謝罪に、葵は気にしていない様子で答え、そして、続けて穂高に質問を投げかける。


「――さっき、一緒に参加してる女の子は、彼女じゃないって言ってたけど、好きでもないのか??

あんな美人な子、そうそういないし、もし狙ってるのなら、早めにアタックした方がいいぞ?」


「いや、俺が好きかどうか以前に、春奈と俺じゃ釣り合わないですよ?

立花さんの言う通り、春奈は、そうそういない程の美人だし。

対して俺は、パンピーですよ??

仮にアイドルだとするなら、俺はライブに来てる、認知はされてない一般客です」


「饒舌に否定するなぁ~~。

そんなに釣り合わないとも、見えないけど……」


「釣り合わないですよ。

おこがましいです」


春奈の一ファンとして、自身を自覚し始めた穂高は、春奈と自分の価値を同列はおろか、恋愛感情を抜きにして、想像でも恋人同士になれるとは、思えなかった。


「ふ~~ん、そこまで言うか…………。

――それじゃあ、その相方の女性の友達として、どんな男であれば、隣に立てるんだ??」


何気ない様子で尋ねる葵に、穂高は考えたことも無い質問であった為、一瞬、驚いた表情を見せた後、唸るようにして考えた。


そして、しばらく唸るように考えた後、ハッとした表情を浮かべ、葵の質問に答える。


「い、いやッ! そんなの俺が考える事じゃないですよ!?

――春奈が好きだと思った相手と付き合えば…………」


たじろぎながら答える穂高であったが、そんな穂高の言葉を、葵がぴしゃりと遮る。


「それじゃあ、もし、彼女の好きな人が君であれば、恋人として成立するって事だ。

君が最初に言っていた、釣り合う釣り合わないの話は、変わってくるわけで……」


「い、いや……それは…………」


葵の言葉に、穂高は上手く言い返す事が出来ず、葵に言い包められるようになってしまった。


言葉を濁す穂高に、葵は、悪いことをしたなと内心思い、付け加えるように話始める。


「――ごめんごめん、冗談だよ、冗談。

イジメるような形になって、悪かったな」


「人が悪いですね……」


「フフッ……、よく言われる」


怪訝そうに見つめる穂高に対し、葵はにこやかに笑みを浮かべながら答えた。


「最近の若い子の、恋愛に対しての考え方を知りたくてさ?

――娘がいるんだ、まだ幼稚園にも行ってない年齢だけど……」


葵は、自分の娘を想像しながらか、穂高に話を続ける。


「随分と気の早い話ではあるけど、いつかは娘にも、そういった恋愛関連の事象は起こるわけで……。

今日は、仕事でもあるんだけど、やたらと高校生と接する事が多くて、

ふと娘がこのくらいの年齢になった時に、どんな事を考えるのかなって、そんな事が気になってね??」


「流石に気が早いっすね……」


「許してくれ……、高校生とこんなに話す事、滅多に無いからさ?

変にあてられたんだよ、雰囲気に……」


歯に衣着せぬ物言いの穂高に、葵は気まずそうにそう呟き、二人がそんな話をしていると、あっという間に、穂高の女装は、ほぼ完成した。


いつの間にか、完成していた女装に、鏡越しで穂高は感心し、そんな穂高に対して、葵は声をかける。


「どうよ? 悪くないでしょ?

偶にはこういう、まるっきり違う自分も……」


「悪くないかどうかは分からないですけど、凄い変な気持ちです。

凄いですね……、プロって…………」


関心する穂高に、葵は「はい、これで完成」と短く伝え、言葉と同時に穂高に小物である、度が入っていない黒メガネを掛けさせた。


葵の「完成」という言葉聞き、穂高は小さくお礼を伝え、席を立ちあがる.


葵は、他にも対応しなければいけない生徒がある為、穂高から離れて行き、穂高はそんな葵の背を見送った。


 「それじゃあ、もし、彼女の好きな人が君であれば、恋人として成立するって事だ。

 君が最初に言っていた、釣り合う釣り合わないの話は、変わってくるわけで……」


葵の背をしばらく見つめていた穂高は、葵の言葉が脳裏に過った。


「――まぁ、春奈が俺を好きになる可能性が無いよな」


穂高は葵の言葉が脳裏に過るものの、簡単にそう結論付け、それ以上、葵の言葉について、考えるのを止めた。

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