姉の代わりにVTuber 201
「それでは。只今より!
『桜祭ベストペアSHOW』を開催したいと思います!!」
桜木高校の中庭。
昼の11時になると、文化祭参加者が一際多く集まり、『桜祭』初日の一番のビックイベントといっても過言ではない、大きなイベントが始まった。
桜木高校は、それなりの歴史ある学校であったが、役10年程前から、文化祭での伝統行事になりつつある、催し物があり、それが今現在は、形を少しずつ変え、『桜祭ベストペアSHOW』へと昇華していた。
「さてさて今年もやって参りました、『桜祭ベストペアSHOW』ですが、今回ご来場のお客様には。
初めてご覧になられるお客様も、いらっしゃるかと思われます。
そんなお客様の為に、今回のイベントの概要を、司会である私、志村 大成が説明させていただきたいと思います!!」
中庭に作られたステージの上で、堂々と志村がイベントを進行し、多く集まった来場者に臆することなく、イベントを盛り上げる。
「今回の『桜祭ベストペアSHOW』では、桜木高校の生徒をメインに参加者を募り、男女でのペアで、本大会に出場いただいております!
既に10組の男女が参加を表明していただいており、この10組の中で、一番の輝きを放つベストペアを、来場者様の投票で、決めるという大会になっております!!」
壇上で話す志村に、仲の良い生徒や、桜木高校の生徒が、盛り上げるように歓声を上げ、志村は続けて大会の説明をする。
「そして、今回の『桜祭ベストペアSHOW』ですが、ただ、男女で参加いただいて、お似合いなペアを決めるわけではありません。
それではただのベストカップルSHOWですからねッ!?
――今回の『桜祭ベストペアSHOW』ですが、参加者の男性には、女装をしての参加をしてもらいます!!」
志村が宣言すると、会場は一気に盛り上がり、面白い物見たさで、楽し気な歓声を上げる者や、本気でベストなカップルを見たいと、純粋に大会を楽しむ者、多くの視聴者が、様々な思いを、気持ちをのせてた。
「勿論、女装の件ですが、素人が女装するのでは、ただの茶番になりかねませんので、プロのスタイリストを本大会に呼んでおります!!
我が、生徒会が本大会の為に、ある企業にお願いをしたところ、縁もあり、協力いただく事となりました!
――なので、皆さん。
男性の女装に関しては、ご期待しても良いかと思いますよ!?」
志村の説明は、桜木高校の生徒も初耳の者もいるのか、喜びや、驚きの声を上げる者が多く、イベントに対しての期待感は、より一層高まった。
「参加者の女性にも、スタイリストが付きますので、おめかしした男女……、いや、今日は男女と言っていい物なのでしょうかね??
今日だけは、皆さんッ! どうか、男性の参加者も、女性として見ていただきたいと思います……。
そして、これから上がる、女性二人のベストペアをご来場の皆様に、選んでいただきます!!
――それでは、イベントの時間も決められている事ですし、さっそく一組目からご紹介したいと思いますッ!!」
志村が高らかに宣言する舞台裏、参加者としてスタンバイする事になっていた穂高は、思わず愚痴を零す。
「――な、なんで俺がこんな事に…………」
既に女装し、おめかしも終えた穂高は、悲壮感溢れる様子で、そう呟き、穂高の隣に並ぶ、同じく参加者として駆り出された春奈は、穂高を励ます様に言葉を掛ける。
「しょ、しょうがないよ……。
と、とにかく、頑張ろッ!
目的は参加賞だけなんだし!!」
春奈も内心、穂高と同じ気持ちではあったが、穂高ほど悲壮感を感じておらず、既に腹を決め、『桜祭ベストペアSHOW』に出る事を決心していた。
◆ ◆ ◆ ◆
穂高が『桜祭ベストペアSHOW』に参加する数分前。
文化祭パンフレットを見ていた、月城 翼は、急な大声を上げる。
「えッ!? こ、この『桜祭ベストペアSHOW』ってイベント何ッ!?!?」
丁度、お化け屋敷を堪能し、次の目的地を決め、行く宛無く、目についた催し物を楽しんでいた所で、翼は、そのイベントに興味を惹かれていた。
「あぁ~~、桜祭の恒例行事ですね。
去年はミスコンでしたけど……、今年はベストペア…………、まぁ、なんか来場者の投票で、一位を決めるイベントですよ」
翼の出した話題に、穂高は説明するものの、自分の興味が無いイベントであった為、深い知識は無く、抽象的にしか、翼の質問に答える事が出来なかった。
そんな穂高を見かね、春奈が苦笑いを浮かべながら、補足の説明をする。
「今年のベストペアSHOWは、男女一組で参加して、男子は女装するんです。
何組か出る出場者の中で、お似合いなペアを決めるみたいですよ?」
「えぇ~~? 女装??
男は気の毒だな…………」
春奈の説明に、穂高は他人事の様に呟いた。
「い、イベントの内容はどうでもいいわッ!
そんな事より、このイベントの参加賞よッ!!
ジイかわグッズ!? ほ、欲しい……」
イベント内容の話をする穂高と春奈に対し、翼が本当に興味を示したのは、イベントに参加すると貰える、景品の方であり、翼の言葉を着た穂高は、詳細を知る為、自分も自らのパンフレットに、視線を落とす。
「――ベストペアSHOW参加の人には、参加賞をプレゼント…………。
ホントだ、書いてるな」
穂高は、パンフレットの文を読み上げた後、視線を再び翼に向けると、そこには、有無を言わせないといった表情で、鋭い視線を穂高に飛ばす、翼の顔があった。
穂高はその表情と視線で、一気に屋な予感が全身に駆け巡った。
「――――出ませんよ……??」
「穂高さん……、私に多大なる借りがありますよね??」
先手で釘を打った穂高だったが、翼が引くことは無く、穂高が断れない材料を引き合いに出した。
「いやいや……、勘弁してください」
「無理です」
穂高の懇願もむなしく、翼に却下され、そんな穂高を見かねたのか、春奈から助け舟が出る。
「――で、でも、lucky先生??
これはペア参加なので、穂高君だけじゃ出れませんよ?」
春奈の言葉に、穂高は内心「よくやった」と大声で叫ぶが、今度は違う方向から、そんな春奈の助け舟を潰すような発言が出る。
「なら、アタシ出る~~ッ!!
女性と一緒ならいいんだよね?? 穂高、出よ~よ~~ッ!
思い出になるよ~~」
「ふざけるな、そんな思い出はいらん」
穂高達の会話を聞いていた唯が、イベントに出る事を立候補し、春奈の援護もむなしく、穂高は再び窮地へと立たされた。
しかし、そんな穂高に、春奈から再び救いの手が差し伸べられる。
「――唯さん…………。
男女で出る事は勿論なんですけど、これ、桜木高校の生徒だけが対象みたいで、唯さんは多分、出られないと思います……」
「えぇ~~?? マジか~~~……」
春奈の言葉に、露骨に唯は落ち込み、穂高はホッと胸を撫で下ろした。
参加できない全ての条件が出たと思い、穂高が安堵していると、どうしても諦めきれないのか、翼は申し訳なさそうに、春奈に声をかける。
「す、杉崎さん……、ほ、本当に心苦しいのだけれど、出て貰う事は出来ないかしら?
どうしても、シイかわのグッズが欲しくて……」
借りがある穂高には大きく出れる翼であったが、まだまだ出会ったばかりの春奈には、堂々と言える事が出来ず、そもそも翼は、人見知りが激しく、人が苦手である人物であった。
しかし、グッズの為に、春奈に出場をお願いし、そんな翼の姿を見て、翼をよく知る穂高と、その場で会話を聞いていた、美絆は驚いた。
「え? えぇ!?
――ちょ、ちょっと恥ずかしいと言いますか、なんと言いますか…………」
翼の願いもあったが、春奈も穂高と同じように、大会に出るのは、恥ずかしいと思っており、素直に了承する事が出来なかった。
そんな春奈と翼を見て、美絆も春奈に声をかける。
「春奈ちゃん、ごめん。
私からもお願いできないかな?? 何でもするからさ」
「えぇッ!? お、お姉さんまで!?!?」
美絆も頭を下げた状況に、春奈はついに断れきれず、翼の願いを飲む事になった。
そして、春奈と穂高の『桜祭ベストペアSHOW』の参加が決まった。




