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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十二章 祭の支度(後)
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姉の代わりにVTuber 187


「――それで、俺を残した理由は何ですか?

リムの事なら、もう来週の配信を最後に、完全に姉貴にバトンタッチですけど……」


佐伯さえきに引き止められた穂高ほだかは、さっそく佐伯に本題を切り出した。


「穂高君を呼び止めたのは、リムの件じゃないの……。

杉崎すぎさきさんの事で、話したい事があって、穂高君を呼び止めたの」


春奈はるなの事…………?」


穂高は、佐伯と自分との接点は、リムだと思っていた為、春奈の事で、佐伯から尋ねられるとは思っていなかった。


「クラスメートの友人程度の事しか、俺は知らないですよ??」


佐伯がこれからパートナーとなる相手である為、様々な事を具体的に聞かれるかと思った穂高は、佐伯が質問をする前に釘を打った。


「あぁ、杉崎さんの性格とか、考え方とかは、追々理解してく事になるから、別にそこについて聞く事は無いわよ?

――とゆうか、杉崎さんは、ケチのつけようのない、素晴らしい性格をしてるって、もう既に分かってるし…………。

学校でもさぞかし人気あるでしょ??」


佐伯は穂高に笑顔を向けながらそう尋ね、否定する理由の無い穂高はそれに頷き、答えた。


「――春奈ちゃんに聞きたいことは、現在の学校での振る舞いについて」


「振る舞い……ですか…………?」


一呼吸置き、真面目な表情で話す佐伯に、穂高はまだ要領が掴めず、佐伯の求める情報が何なのか分からなかった。


「今、杉崎さん学校で何か任されてるんでしょ??

本人に話だけは聞いてるけど、どれ程の負担なのかは知らなくって……。

忙しいの?」


「あぁ、そのことですか……。

忙しいですね、大げさじゃなく、かなりの負担です」


佐伯の話を聞き、穂高は瞬時に、佐伯が何を求めているのか理解し、ただの高校の文化祭の出し物、普通の生徒であれば、大した負担ではない内容だったが、春奈の現状を正しく理解できている穂高は、誇張して答えた。


「俺が佐伯さんの立場なら、正直今からでも辞めさせたいです。

さっきの土曜日の打ち合わせ内容を聞けば……。

――まぁ、本人の性格上無理でしょうけど」


穂高は、春奈と佐伯の話している話題を思い出し、部外者である自分にとっては少し、行き過ぎた発言かとも思いつつも、それを言わずにはいられなかった。


「はぁ~~……、そう…………。

まいったわね……」


素人である穂高の発言は、佐伯に素直に受け取られ、リムの一件で信頼関係が完成されている佐伯にとって、穂高の意見は十分考慮するに足りうる言葉だった。


「穂高君だから、正直に言うけど、かなり切羽詰まってる……。

ここからの話は、他言無用、勿論杉崎さん本人にも話さないで欲しい話なんだけど、今回の新人デビューは少し、いわくつきって言われてるの……」


「いわく…………??」


雲行き悪い物言いに、穂高は顔をしかめつつ佐伯に聞き返し、佐伯も現状に押しつぶされているのか、愚痴気味に穂高に、春奈を取り巻く状況について話始める。


そして、佐伯は直近で説明された、北川の話を穂高に全て話した。


「――っというわけで、杉崎さんは『88(ハチハチ)』と一緒にデビューするわけ。

あっちは、準備万端。

こっちは杉崎さんの強みもまだわからない中、準備もまだまだままならない状況」


佐伯の話を聞き、穂高は頭の片隅に追いやっていた記憶を思い出した。


(そういえば、オーディションに付き添いで行った時、トイレで噂話を聞いたな。

オーディションの一枠が既に確定されてて、もう一人は88と相性の良い相手を選ぶとか……。

春奈の合格発表で舞い上がるのと、とにかく無事にデビューする事だけを考えてたけど、デビューした途端、ハチをぶつけられるなんて…………)


穂高は、自分でも驚く程に、相方である88の事が、すっぽりと頭から抜け落ちてしまっており、デビューしてゆっくりと力を付けながら、いずれは『チューンコネクト』の先輩達の様に、成長できればと考えていた穂高の考えは甘いと思わされた。


(姉貴も通った道だし、今のリムを姉貴が作り上げたように、配信を重ねて、リスナーとの関係を作り、配信のスタイルを確立すればとだけ考えてた……。

よく考えればわかったはずなのに……、ハチは、佐伯さんの話を聞く限り、これ以上に無いほどのスタートを切ってくる……。

今までのファンもその勢いを後押しするだろうし……。

春奈……、思った以上に時間が足りないんだな)


長考する穂高に、佐伯は穂高の顔を見つめ、佐伯が穂高に一番伝えたかった事を話始める。


「――ねぇ、穂高君。

学校での事は、私が手を出せない。

今抱えてる、杉崎さんの負担も減らせないのだとしたら…………、こんな事、恩人の穂高君に、頼むのは気が引けるんだけど……」


伝えたかった事を言いずらそうに話す佐伯に、穂高は佐伯の意図を察し、佐伯の言葉を遮った。


「俺がフォローします。

これ以上、アイツに負荷かけさせないですし、出来るだけ『チューンコネクト』に集中させます」


頼みずらそうにしていた佐伯とは対照的に、穂高は自分から進んで、佐伯の提案を飲む様に答え、真剣な表情で誓うように答えた。


穂高の発言に、佐伯は目を見開き、驚いた表情を浮かべた後、少し安心したような表情を浮かべ、「ありがとう」と感謝を伝えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


佐伯と話し込んだ帰り、穂高は春奈の負担を減らすことを考えるのは勿論、それとは別の事も考えていた。


(春奈の強み……。

既にレコードデビューもしてるハチに、匹敵するほどの別の強み…………)


穂高は春奈の配信を思い返しながら、春奈の配信の面白いと感じれる部分に関して考えた。


春奈が浜崎はませき ゆいに対抗する為に思考を巡らせる穂高は、自分が敵わない存在である姉、美絆みきに、配信のクオリティーで負けないよう試行錯誤していた時と似ていた。


佐伯は思わず、部外者である穂高に、愚痴りたくなるような状況であったが、試行錯誤する穂高は、何故か高揚感を感じており、いかにして対抗しようか、そう考える事を楽しく感じつつすらあった。


(――――確かに、ハチの配信は文句のつけようのないくらいに素晴らしい。

でも、春奈がそれに全く歯が立たないなんて事、あるんだろうか……)


あまりの長考に、穂高は気付けば、家の目の前まで来てしまっていた。


まだまだ、考えのまとまらない穂高は、自宅に入ることなく、目の前で立ち尽くし、考え事をつづけた。


そんな穂高に気づいたのか、玄関を開け、中にいた美絆が穂高に声をかける。


「アンタ、そんなとこで何やってんの??」


玄関を開けた美絆は、奇妙そうに穂高を見つめ、美絆の呼びかけで穂高は、現実に引き戻された。


そして、美絆の顔を見た穂高は、そんなふとした瞬間に妙案が思い浮かぶ。


「――――あった……、春奈の強み…………」


「は? なんて??」


口を開くと同時に、美絆にとって訳のわからない発言をした穂高に、美絆は穂高の発言を聞き返し、穂高は、ハッとした表情を浮かべた後、ニヤりと笑みを浮かべ、美絆に話しかける。


「姉貴も協力して貰うか」


「――え? 何を??」


笑みを浮かべる穂高に、美絆は嫌な予感を感じた。


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