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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十二章 祭の支度(後)
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姉の代わりにVTuber 177


 ◇ ◇ ◇ ◇


愛葉あいば 聖奈せなに呼ばれ、春奈はるなは校舎の屋上へと訪れていた。


放課後、校舎の屋上には、生徒は誰も居らず、校庭には、部活に勤しむ生徒が多く見受けられた。


聖奈は屋上に着くなり、春奈と適度な距離を取りつつ、話し出した。


「――放課後にわざわざごめん。

どうしても、杉崎すぎさきさんに確認しておきたい事があって」


話しを切り出した聖奈の雰囲気は、ただならぬものを感じ、春奈は聖奈に呼び出された時点である程度、何の話題か見当がついていた。


聖奈の言葉に、春奈が短く相槌を打つと、聖奈は続けて言葉を発する。


「杉崎さんと穂高って付き合ってんの??」


「つッ!? つ、付き合っては無いよ」


あまりにも直球な筆問に、春奈は一瞬たじろぐも、穂高の話題になる事は覚悟していた為、聖奈の質問に対応する事が出来た。


春奈の返事を聞き、聖奈の雰囲気は少しだけ和らぎ、一瞬、ほっとした表情を浮かべたように、春奈には見えた。


「付き合ってないって事は、恋人じゃないって事でしょ?」


「――うん、 そうだね……」


聖奈はしつこくもう一度確認し、春奈は事実ではあったが、自分の口に出すと少しだけ、モヤ付く部分があり、何度もその関係を確認する応答を、快くは思わなかった。


そして、二度の確認をした聖奈は、一呼吸を置いた後、春奈の顔をしっかりと捉え、ハッキリとした口調で話し出した。


「――杉崎さん…………、杉崎さんには、悪いけど、穂高にあんまり近づかないでくれる??」


聖奈の発した言葉は、お願いをするような文ではあったが、彼女の放つ雰囲気と、声色から、春奈はお願いされるというよりは、命令されている様に感じた。


「それは…………、無理だね」


少し敵意も感じるような聖奈に対し、春奈も聖奈の言葉に従うわけにはいかず、聖奈ほどハッキリとした口調では無かったが、それでもしっかりと自分の気持ちを答えた。


春奈の返答に、聖奈は一瞬、顔をしかめる。


「無理って……、杉崎さん、多分、彼氏いるでしょ?

あんまり、良くないと思うよ? 必要以上に付き合ってない異性に近づくのって」


「いないよ、彼氏。

それに、穂高君は大切な友達だし、距離取るなんてしたくない」


学園で一番モテるといっても過言ではない春奈の言葉に、聖奈は驚きつつ、春奈の言葉に答える。


「え? 彼氏いないって、噓でしょ?? 四天王だなんて呼ばれてるのに……。

よく、告白されたなんて噂は聞くし、男子だけじゃなくて、女子からも人望熱いじゃん」


「嘘じゃないよ。 告白された事は、何度かある。

けど、梨沙りさとか瑠衣るいの方が、男子には人気だと思うよ。

自分で言うのもなんだけど、四天王だなんて、梨沙達とよく一緒にいるから、くくられてるだけで、私は梨沙達よりモテないよ」


聖奈は、春奈がてっきり彼氏持ちだと思い込んでおり、春奈の言葉に動揺を隠せなかった。


「――で、でも、口ではそんなこと言ってるけど、杉崎さんの周りには、大貫おおぬき楠木くすのきだっているでしょ?

仲いいし、よく一緒にいるし、あの仲良しグループの誰かと付き合ってるんじゃないの??」


「付き合ってない。 これから付き合うつもりも無いよ」


動揺する聖奈に、春奈はきっぱりと聖奈の言葉を否定した。


そして、今度は春奈から聖奈に質問を投げかける。


「――愛葉さんもそんな事言うけど、かなりモテてるでしょ?

誰が見ても素敵だし」


「え? あ、アタシの事は別に……。

それに、モテてるなんて言っても、アタシはこんな容姿だし、声かけてくんのは、軽い男共ばっかだよ。

ワンチャン狙ってるような」


聖奈も春奈に負けず劣らずの容姿の持ち主であったが、ギャルっぽい見た目である事から、聖奈に告白をしてくる男子は、チャラい男が多かった。


「杉崎さんに、一世一代、覚悟決めてコクってくるような男子は、アタシのとこになんて来ないよ。

――――っていうか、こんな話がしたいわけじゃなくて……」


聖奈の話したい話から、少しずつ脱線していく状況に、聖奈は気付くと、会話をぶった切り、再び真剣な眼差しで、春奈を見つめながら、本題を切り出す。


「杉崎さん。 さっき、近づくのは無理、友達としてって言ったけど、ホントにそれだけ??

穂高の事……、好きなんじゃないの?」


聖奈の問いかけに、春奈は考える暇もなく、直ぐに答える。


「好きだよ」


まるで恥ずかしがる素振りを見せず、ハッキリと答えた春奈だったが、顔は少しだけ赤く染まっており、春奈の堂々とした態度に、聖奈が一瞬、硬直した。


少しだけ、静かな空気が流れ、鳩が豆鉄砲を食ったように、一瞬固まった聖奈だったが、春奈の言葉に反応する。


「す、好きって……、な、なんで、杉崎さんが穂高を?」


「な、なんでってそりゃ……。 カッコいいから以外に理由は無いけど」


聖奈の思いがけない質問に、春奈は困った反応を見せつつも、告白した事で、少し興奮しているのか、聖奈に理由までも答えた。


春奈は、「好きだ」と言葉にする時よりも、明らかに恥ずかしさが見え、顔はより赤く染まっていた。


「か、カッコいいって……、そ、そりゃそうだけど……。

でも、一般的に言えば、アンタの周りにいる、楠木や大貫とかの方がカッコ良いって、言われてるじゃん!

カッコいい人なら、周りにいるでしょ??」


「い、一般的とか関係ないよ。 私にとっては、穂高君が、かッ、カッコいい!」


聖奈の気持ちに薄々気付いている春奈は、聖奈に言いくるめられるわけにはいかず、恥ずかしく感じながらも、自分の気持ちを素直に言葉に出した。


春奈の言葉を最後に、二人の間に、今まで以上の沈黙が流れ、今まで質問攻めだった聖奈は黙り込んだ。


ほんの数分、沈黙が流れた所で、聖奈は落ち着きを取り戻したのか、再び口を開いた。


「あ、アンタも穂高の事、好きなのは分かった……。

ホントは、大貫の劇の代役、穂高に辞めてもらうよう、アンタに協力して貰うつもりだったけど。

――――私も諦めるつもりは無いから」


春奈との交渉が失敗に終わり、状況が飲み込めたのか、聖奈は春奈にそう一言告げると、先に屋上から去っていった。


聖奈が屋上から姿を消したのを見送ると、春奈は緊張の糸が切れた様に、近くの壁によりかかり、そのままその場に腰を下ろした。


「はぁ~~~~~、言っちゃったぁ~~~~」


春奈は、頭を抱え、その場にうずくまり、大きなため息とともに言葉を零した。


疲労感も感じる状況だったが、春奈の気持ちはスッキリとしており、聖奈との会話に後悔は無かった。


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