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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十一章 祭の支度(前)
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姉の代わりにVTuber 168


 ◇ ◇ ◇ ◇


穂高は昼休みになると、あらかじめ、登校時にコンビニに寄って買ったパンを持ち、屋上へと訪れていた。


穂高の学園は、昼休みには屋上を開放しており、高い柵と反しがある為、屋上から容易に飛び降りたり、事故が起きたりしない構造になっていた。


当然、お昼休みには人気のスポットになっており、早めに教室を出たはずの穂高よりも、すでに何名か先約がいる状況だった。


朝から考え事をしていた穂高は、もう少し人が少ない方が、静かで都合がいい環境であったが、折角来た事もあり、引き返すことはなく、景色を見ながら食事をとれそうな場所へと腰掛ける。


(今いる屋上の人数が倍近くなったら、流石に教室に戻るか……)


穂高は屋上で、それぞれ昼食を楽しむ生徒を見渡し、そんな事を考えつつ、パンの袋を破いた。


(才能の証明かぁ~……。

悲しくなる程に何したらいいか、まるで思い浮かばないな……)


パンをかじりながら、茫然と景色を見つめ、流れてくする風を感じながら、美絆みきとの喧嘩で啖呵を切った事ついて考える。


朝から考え、何も思い浮かばな過ぎて、完全に途方に暮れた状況だったが、考えないわけにはいかなかった。


(第一に、あの変人、変態の母鬼に何したら認めてくれるんだ?

からっきし才能は無いけど、親父みたいに絵でも描いてみるか??

がむしゃらにやってみれば、一回や二回、母親の想像を超えるような作品が生まれるかも…………)


穂高は、今は海外で活躍している画家の父親を真似し、既に昔に才能なしと、母親から烙印を押された美術で対策しようと考えた。


しかし、すぐにその案は無いなと自己完結する。


「親父の凄さを日頃から感じえる母親にそれはないよな……。

流石に相手が悪すぎる」


考えが出なさ過ぎて、もう半分ヤケクソみたいな、そんな案しか思い浮かばない自分に呆れ、穂高は思わず独り言が漏れた。


そして、そんな穂高の独り言に、反応する声が上がる。


「え? あきら??

珍しいな、お前がこんな所に来るなんて」


思わず零した穂高の独り言に、反応したのは、楠木くすのき あきらだった。


驚いた表情を浮かべる穂高に、彰はまるで最初から予定していたかの様に、自然に穂高の隣に腰を下ろした。


「穂高がいち早く、教室から出てくのが見えたから……。

どうせ一人で、屋上で飯でも食べるんだろうっても思ってさ、なら、久しぶりに二人で食おうかなって」


「一人で静かに飯食うつもりなのを分かってて付いてくるなよ……」


「つれないなぁ~、穂高……。

瀬川せがわ武志たけしも寂しそうにしてたぞ??」


穂高の返事を聞きつつも、本格的に彰は隣で昼食を取り始め、そんな彰を見て、穂高は一人で昼食をとることを諦めた。


「なんで、今日は一人なんだ??

なんか悩みでもできたか?」


「悩み……、そうだな、大きな難題があんだよなぁ」


「穂高は、いつも難しい顔してるよなぁ~?

偶には武志みたいに楽観的に生きたらどう??」


「無理だな……。

脳がしぼんでそのうち様滅する」


穂高は、この場にいない相手を盛大にディスりながら、悪びれる様子もなくパンをかじり、穂高の言葉に、彰は「酷いな」と言いながら、笑みを浮かべ、穂高に続き、弁当をつまむ。


そして、一度会話が途切れたことで、彰は他の話題を穂高に振り始める。


「――最近、春奈はるなと放課後に練習してるんだって?」


「ん? 杉崎すぎさきに聞いたのか??」


「いや、春奈じゃなくて、瑠衣るいから聞いた。

なんでそんな事になってるんだ?」


二人は淡々と食事をとりつつ、景色を見ながら会話を続ける。


「なんでそんな事って……、単純に頼まれたんだよ、杉崎に」


「ふ~~ん。

でも、穂高が人の頼みを聞くなんて、珍しいね? 

昔はどちらかと言えば事なかれ主義で、めんどくさがりな所もあったのに……」


「最近は頼まれ事ばかりで、感覚がマヒしてるんだろうな。

何でも引き受けてるような気が、自分でもするよ」


彰は穂高の言葉を聞き、一度、弁当を食べるのを止め、穂高の方へと視線を向けた。


穂高は会話の最中、まるで抑揚なく、ただ事実を淡々と述べているようで、穂高の考えを知りたいと思っていた彰は、今の質問では何も情報が得られていなかった。


「穂高、春奈の事……、好き??」


彰は穂高の機微を捉える為に、穂高を観察しながら、その質問を投げかけた。


「――好きか嫌いかで言われれば、好きだろうな」


「それは、恋愛対象として?」


一度目の質問では、穂高の様子がまるで変わらず、飄々とした様子だった事から、彰は続けて質問を投げかけた。


しかし、彰の思うような反応は、穂高は見せず、穂高もパンをかじるのを止め、彰に視線を向けた。


「考えたこともないから分からん!

――とゆうか、まだそんな色恋沙汰で、うだうだ探り合ってんのか??」


穂高の言い返しに、彰は一瞬驚いた表情を浮かべるも、直ぐに真面目な表情へと戻る。


「――当然、俺にとっては死活問題だからね?」


大貫おおぬきがさっさと告白すれば良い話だろ?

いつまで外堀埋めてんだ? あのバカは」


「告白なんて、今させられる状況なわけないだろ!?

告白したら、間違いなく振られる」


「別に振られてもいいだろ? お前が振られるわけじゃないし」


穂高は、彰の事しか考えておらず、大貫が振られた事による、他の危険性はまるで考えなかった。


「いいわけないだろ! 今まで仲良くしてきたグループに亀裂が入りかねない。

確実に二人はぎくしゃくするし、周りも気を遣う。

――それに、春奈が好き相手は…….

はぁ~~~~、ややこしい事になったなぁ」


「大変そうだな、男女仲良しグループは」


廻りからは羨まれる、言わば男女のの一軍グループと呼ばれるものに、所属する彰だったが、人気者には人気者なりの悩みがあるんだと、穂高は他人事様に呟きながらそう思った。


「他人事みたいに……。

俊也しゅんやは、この文化祭で多分、春奈に告白する」


「やっとか……。

どうなるかは分からんけど、結果だけは気にあるな」


「結果なんて分かり切ってるだろ……。

――――多分、春奈が好きなのは……」


彰は、春奈の意中の相手を言うつもりはまるでなかったが、彰の言葉を遮るようにして、会話の当事者であった者に声を掛けられる。


「あッ! こんなとこに居た!

彰……と、ほ、穂高君ッ!?」


声を掛けてきたのは春奈であり、彰を探していた様子の春奈は、彰の隣にいた穂高を見て、驚いた表情を浮かべた。


「――ん? あぁ、彰といるの珍しいか??」


「あ、い、いやッ、友達だもんね?

普通だよ、普通……」


穂高の存在は想定外だったのか、彰に用があったであろう春奈は、少しだけばつの悪そうに見え、穂高はそんな春奈の気持ちを察するように、彰に声をかけた。


「――ほら、お前にお客さんだよ、行ってこい。

俺に気を使わなくてもいいからな? 杉崎。

元々、一人で昼飯を食べてたところに、彰が乱入してきただけだから」


穂高は、彰に軽く肘を当て、春奈の元に行くように促す。


彰はため息を付いた後、春奈に向き直る。


「どうしたの? 春奈」


「あ……、みんなで昼食食べようって。

俊也達も彰を探してるよ?」


「――分かった」


春奈の言葉を聞き、彰は食べかけの弁当をしまい、立ち上がった。


そして、穂高へと視線を向けると、少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、声を上げる。


「穂高も一緒に行くか??」


彰の提案に、春奈は一瞬、ビクりと体を跳ねらせ、少しだけ、穂高の同席を期待した。


「嫌味か? お前……。

お前のキラキラグループに、俺が入れるか。 気まずすぎて、食事も喉に通らないよ」


「そっか」


不機嫌に答える穂高に、彰は軽く笑いながら、春奈と共に、教室へと戻っていった。


「ほ、穂高君が、一人で屋上で食べるなんて、珍しいね?」


「え? あ、あぁ、まぁ確かに、最近は武志達と食べてたし、珍しいか……。

高一の頃はよく、穂高と二人で屋上で飯食べてたよ? いや、武志もいたか……」


楽しそうに話す彰に対して、穂高と屋上でお昼というワードに惹かれたのか、春奈は小さく「羨ましい」と呟く。


春奈のそんな様子に、彰は再びモヤ付いた感情が芽生える。


(――はぁ……、俺も諦めたのにな……)


少しだけ顔を赤らめ、穂高の事を考えているのか、そんな春奈に、彰は心の中で、ポツリと呟いた。


すみません、誤字脱字報告ありがとうございます。

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