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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十章 終わる者 始まる者
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姉の代わりにVTuber 155


「落ち着いたか……?」


穂高ほだかは、急に泣き出した春奈はるなを連れ、あまり目立たない、腰を降ろせる場所へと移動し、春奈が落ち着きを取り戻したところで、再び声を掛けた。


「うん……、ありがと」


春奈は恥ずかしさから穂高に顔は見せようとせず、ただ返事だけは返した。


ここに付いた後、自販機で穂高から買ってもらったコーヒーに、春奈は口を付け、一息つく。


「とりあえず、後数分休憩したら、帰るとするか?」


「――――うん」


未だにどうしていいか分からない様子の穂高は、春奈を気遣い、春奈も返事を返すだけで精一杯の様子だった。


先程まで普通に話せていた二人が、嘘のようにぎこちない雰囲気になっており、お互い言葉が出てこなかった。


二人はそのまま沈黙し、数分経ち、頃良いと判断した穂高が春奈に声を掛ける。


「――そ、そろそろ行くか?」


春奈の事情がまるで分からない穂高は、春奈を気遣い、声を掛けた。


穂高の問いかけに、今まですぐに返事を返してきた春奈だったが、この質問にはすぐに答えず、少しの間、沈黙が流れ、言葉を発したと同時に、その場から立ち上がっていた穂高は、何も言う事なく春奈の様子を伺った。


そして、そんな気を遣う穂高に対し、気持ちが落ち着いた春奈は、意を決したように、話始める。


「――え、えっと……、さっきの話だけど……。

天ケあまがせ君って、昔『てっちん』で活動してたんだよね?」


「あ……、いや、まぁ……そうだけど……」


春奈の様子が異常だった事もあり、今日は早々に春奈と別れるつもりだった穂高だったが、少しだけ落ち着きを取り戻した春奈は、穂高の過去の話を掘り下げた。


「――そ、そうなんだ……。

え、えっと……、こんなこと急に言われても困るかもしれないけど、私、見てたよ?

天ケ瀬君の配信……」


春奈のリアクションから、そうではないのかと薄々感づいていた穂高であったが、口に出してそれを言われると、わかっていても動揺せざる得なかった。


「な、なッ!? そ、そう……なのか…………。

で、でも! 『てっちん』なんて名前、ありきたりだし、杉崎が見てたのとは違うかもだぞ!?」


穂高は動揺のあまり、あり得ない事であったとしても、それを口に出してしまっていた。


「ふふッ、そんなわけないじゃん! よく雑談配信をしてくれてた『てっちん』でしょ?

確かに、他にもいたかもしれないけど、今でもZoutubeで『てっちん』て検索すれば、一人しか出てこないよ。

一番有名な人しか……」


穂高の珍しい動揺に、春奈は自然と笑みがこぼれ、穂高の言った可能性を否定した。


「い、いや……、その有名な人が俺だとも限らないわけだし――」


「高校受験配信!」


まだ、渋るように否定する穂高に、穂高の言葉を遮るようにして、春奈は声を上げた。


「してたでしょ?? 高校受験を控えた中学三年生が、ひたすら手元移しながら、ペラペラ話しながら受験勉強をする配信。」


春奈は、穂高が過去に行った配信の内容を伝え、その配信は穂高の心当たりのあるものだった。


「いつもはリスナーと雑談したり、たまにゲームしたりの配信ばかりだった『てっちん』が、珍しくそのシーズン中は、受験勉強をするだけの配信をしてた……。

最初は今まで配信を見てくれてた人も、多くが困惑して、ぐっと視聴者も落ちた中での配信だったけど、今まで作ってきた和気あいあいと、気兼ねなくやり取りができる、配信雰囲気のおかげもあって、次第に『てっちん』に勉強を教える人が来たり、同じ境遇の人が、同じように受験勉強をしたりして……。

そんな奇妙な配信する人、一人しかいないでしょ?」


春奈は『てっちん』のリスナーであり、当時、その生配信を体験した一人でもあった。


「――み、見てる奴がこんな近くにいたとは…………」


「同接3000人近くいたんだから、身近に至って不思議じゃないでしょ?」


「いやいや、日本に何人、人がいると思ってるんだよ……」


個人の配信者としたら同時接続者3000人は、それなりに凄い数字ではあったが、リアルにリスナーと、しかも普通の日常生活で出会うとは、穂高は到底思えなかった。


「――でも、よくもまぁ、あんな配信を見てたな……。

少なくとも、学校の人気者が見るような、そんな配信じゃなかった思うんだけど」


「そんな配信って……、確かに、見たきっかけは本当に偶然で、たまたまオススメに上がってきたから見ただけだったけど、当時のあの、お互いになんでも言い合える雰囲気を持つ配信、すごく居心地良かったんだよ」


『てっちん』の配信は、視聴者数もそれなりだが、何より配信を見るリスナーのチャットが膨大だった。


チャットをせず、見る専門のリスナーもいたが、リスナーとの会話のやり取りを重視する配信だった為、書き込めば、穂高はそのチャット拾い、穂高の意見には多くのリスナーの反応が返ってきていた。


「ほんと、大好きだったな……。

あの雰囲気が…………。

――――でも、どうしてやめちゃったの? 配信……」


昔を思い出し、穂高の配信に参加していたことを懐かしむ春奈だったが、春奈にとって、『てっちん』のリスナーにとって当然の疑問を穂高に投げかけた。


春奈は今まで、姿を消してしまった『てっちん』と再び、形は違えど再会でき、嬉しい感情と、どうして配信界隈から姿を消してしまったのか、その疑問だけが頭の中を占めていた。


そして、いつもは穂高に遠慮し、聞きたい事も後回しにする事の多い、春奈だったが、この機を逃せば、もう二度と聞けないような気がし、穂高に尋ねたい事を真っすぐに尋ねた。

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