姉の代わりにVTuber 154
(今までは、ただがむしゃらに、姉の役割を果たす事だけを考えて来たけど、
思い返せば、色んなトラブルを一人じゃ無く、他のメンバーとも協力して乗り越えて来たし、
リムだけじゃ無く、思っていた以上に、『チューンコネクト』自体にも愛着を持っていたんだな……、俺は……)
春奈との会話で、『チューンコネクト』への想いを改めて思い返せた。
「杉崎の言ってた違和感は、多分合ってるんだと思う。
――これは、杉崎に謝らなきゃいけない事なんだけど、実は、俺は元々『チューンコネクト』のファンじゃないんだ。
前に、杉崎や四条達とカラオケに行った時、杉崎達からファンなのか聞かれて、咄嗟にそうだって話合わせてた。 ごめん」
「――そ、そうだったんだぁ…………」
穂高の告白に、春奈は俯きながら、悲しそうにポツリと呟いた。
「最初から『チューンコネクト』に詳しかったのは、単にあの姉貴が、ここまで熱心になれる物に興味があったってだけ……。
時には、無理やり姉貴に、『チューンコネクト』の配信を見させられたりしてたし。
――だから、初めて杉崎と『チューンコネクト』の話をした時とか、知識だけはあるけど、熱量は無い状態だったんだと思う」
穂高は口に出しながら当時の事を思い返した。
そして、どんどんと暗い表情になる春奈に、穂高は今の素直な気持ちを打ち明ける。
「でも、今は違うぞ?
杉崎みたいに、推しみたいなのはいないけど、純粋に配信を楽しんで見てるし、今後の配信で面白うそうな配信が予定されていれば、それも見逃さないようチェックしてる。
杉崎並の熱量はまだないけど、きっと、同じ物を俺も持ってる」
穂高は楽し気に笑顔を浮かべながら春奈に話し、普段ぶっきらぼうな穂高には似つかわしくない、珍しい表情だった。
「そ、そっか……、それならよかった。
――天ケ瀬君、佐伯さんと知り合いだったり、お姉さんが『チューンコネクト』のメンバーだったりとかで、ファンというよりはどちらかというと、関係者寄りに見えちゃって……。
こんな事言ったらアレだけど……、ファンでは無いのかなって、思う事もあったりしてさ?」
「やっぱり、本物のファンから見れば、変に見えるか……」
ここまで、春奈には『チューンコネクト』のファンである事を偽ってきたが、春奈も穂高に対して違和感を以前から感じており、穂高が本当の気持ちに気付いた事もあり、妙なわだかまりは二人から無くなっていった。
「じゃあ、改めて……。
天ケ瀬君の推しって誰かいるの??」
「推しかぁ~~、正直まだ推しみたいな子はいないな。
『チューンコネクト』全体を応援してる。
――まぁ、個人の配信を見る割合で言えば、三期生のシノブかな?」
「シノブちゃんね! 確かに面白い!!」
穂高は、初めて一ファンとして、春奈と『チューンコネクト』の事について、語り合えた気がしていた。
そして、『チューンコネクト』について、二人でしばらく話していたが、春奈はまた違う話題を穂高に投げかけた。
「――なるほどね、一先ず天ケ瀬君が、『チューンコネクト』をどう思っているのかは、分かったよ。
今は同じ『チューンコネクト』を応援する同士だって、改めて確認出来て良かった。
ところで、天ケ瀬君ってさぁ、昔、配信者として活動してたんだよね??
それについても、ちょっと教えて欲しんだけど……?」
穂高が、基本的には、何でも質問を答えると、伝えていた為、春奈は最初の質問よりも、少しだけ図々しく、穂高の機嫌を伺いながら尋ねた。
「その話か……」
穂高は当然尋ねられると思っていた為、ある程度心の準備をしていたが、それでも面と向かって、改めて尋ねられると、どうしても憂鬱さは感じざるを得なかった。
「や、やっぱり話たくない??」
「まぁ、あんまり自分から話すような事でもないしな……。
――どうしてもって言うなら話すけど」
極力は話さない方向で、意向を示した穂高だったが、春奈は穂高の答えを着ても引く事は無かった。
「知りたい! 今後、配信者として活動する上でも、教訓になるかもしれないし!」
春奈は穂高に理由を告げたが、後半に付け加えた理由はあくまで建前であり、本音はただ、自分が知らない穂高の過去を、知りたいという純粋な想いだけだった。
「なんの糧にもならないと思うけど……。
――中3の頃から始めて、約三年間はやってた。
高3に上がる前には既に辞めてたな」
「中3…………。
あ、は、配信って例えば何してたの??」
思い返す様に答える穂高に、春奈は明らかに様子がおかしくなり、激しく動揺した様子で続けて質問した。
「基本的には、雑談配信って呼ばれる配信が多かったな。
ゲーム実況なんかもしてたりするけど……。
始めた当時は、中3って事もあって、無名でたいして面白い配信じゃなくても、珍しい物見たさに、配信を見てくれる人もいたな……。
小童が恥も外聞も無く夢を語りながら、リスナーとあぁでもないこうでも無いって、最初はやってたな」
あまり人に言いずらい、穂高にとって、恥ずかしい過去でもあったが、それと同時に穂高の中で、今でも色あせない、楽しかった日々の思い出であり、今思い返しても自然と笑みが零れるような、大切な思い出だった。
「え、えっと……、さっきは嫌がられちゃったんだけど……、
良ければやっぱり、天ケ瀬君が配信してた時の名前聞きたいな……」
落ち着きのない様子が続く春奈に、穂高は気付きつつも、答えるかどうか悩んだ。
「う~~ん、正直、俺を知ってる人に教えるのは恥ずかしいんだけどなぁ。
最初の配信とか追っかけられたら、ホントたまんないし…………」
穂高は、リアルの自分を知らない世界だからこそ、色々な事を恥ずかし気も無く、配信で話せていた節もあり、それを知り合いに見られるのは、どうしても抵抗があった。
そんな言い淀む穂高に、春奈は続けてお願いする。
「お願い、教えて?」
頼みごとをするというよりは、もう少し思いの強い、懇願するような様子で、春奈は穂高に頼み込んだ。
ここまで折れない春奈に、穂高は少しため息を吐いた後、決意を決め、その名を口にした。
「昔、配信してた時は『てっちん』って名前でやってた。
好きだったラジオパーソナリティが居てさ……、その人のあだ名をそのまま借りてた」
穂高は少し恥ずかしそうにしながらその名前を告げ、穂高が答え終えると、何故か聞きたがっていた春奈からの反応は無く、二人に沈黙が流れた。
何の反応も無い事に、穂高は気付くと、すぐに春奈の方に視線を向けた。
するとそこには、目を見開き、驚いた表情を浮かる春奈がおり、しっかりと穂高を捉えた瞳からは、何故か一筋の涙が零れていた。
「え? わッ! ど、どどうした!?」
穂高は突然の出来事に、慌てふためき、何が起こったか理解できない様子だった。
「だ、大丈夫、大丈夫……。
何でもないから」
心配して駆け寄る穂高に、春奈はそう答えながらも、どうしようもなく溢れて来る涙を止める事は出来ず、両手で顔を覆いながら、涙を流した。




