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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十章 終わる者 始まる者
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姉の代わりにVTuber 153


 ◇ ◇ ◇ ◇


レストランにて時間を過ごしていた穂高ほだか達は、話題が全く尽きる事無く、一時間半程過ごしたところで、時間に気付いた穂高が、他二人を促し、レストランから出ようとしていた。


「いやいや~~、結構話し込みましたなぁ~~」


支払いを済ませ、レストランを出ると、開口一番に、ゆいは上機嫌に声を上げた。


「少しだけ長居しちゃいましたかね……」


「――まぁ、混んでも無かったし、楽しかったから良いでしょ!

春奈はるなちゃんとの『チューンコネクト』トークも盛り上がったし!!」


面接の後、特に予定が無い春奈はるなは、少しだけ気まずそうに話したが、唯は全く迷惑に思っておらず、むしろ楽しかったと答えながら、数分前の事を思い返していた。


「も、盛り上がりはしましたけど……、唯さんは忙しそうな身ですし……。

午後の予定とか大丈夫なんですか?」


「ん? まぁ~~、予定があったかと聞かれれば、無いわけじゃ無かったんだけど~~。

予定って言っても、告知もしてないゲリラ配信だし、飛ばしたって誰も文句言わないよ!

私の中で、やろうかなぁ~~ってその程度に予定建ててただけだし……」


「えッ! 配信するつもりだったんですか!?

な、なら私、ファンの方に迷惑を掛けちゃってるじゃないですか!?」


ほぼ未定の配信ではあったが、唯の口から直接規定しまった以上、春奈は配信予定だったものを、一つ潰してしまった事を申し訳なく思った。


「め、迷惑って……、告知してないから大丈夫だよぉ~~?」


「だとしても申し訳ないです!!

ファンからしたら貴重な一つの配信枠ですし! その罪は重いです!!」


配信者である唯と、視聴者側である事の多い春奈とでは、一つの配信に対する思いがまるで違い、春奈の勢いに押され、唯は困った様子で穂高を見る。


「いや、俺を見られてもなぁ……」


助けを求めるような唯の視線だったが、当然、穂高も春奈の熱量を分かってやれなかった。


しかし、そんな穂高に対して、今度は春奈から声が掛けられる。


「天ケ瀬君ならきっと分かるよねッ! 同じ『チューンコネクト』のファンだし!!

配信者だった期間もあるんだろうけど……、今はファン側だよね!?」


唯を困らせた話題が、今度は穂高にまで飛び火し、この件に関しては口を出すつもり無かった穂高だったが、春奈には熱心な『チューンコネクト』のファンであると、過去に嘘を付いていた手前、話を合わせざる得なかった。


「ま、まぁ、そうだな。

実は予定した枠があって、それが無くなったのだとしたらショックだな……」


穂高は春奈の意見に賛同し、穂高がそんな事を言うと思わなかった唯は、驚きの声を上げる。


「え、えぇ~~~?? 穂高、いつの間にそんな熱心なリスナーになってたの??」


「そうなんです! ショックなんですよ!? ファンは……。

――――だからこそ、私の罪は重い……」


「いやいや、ほんと気にする事無いって!!」


穂高が賛同した事で、春奈は余計に沈み、唯は続けてフォローする。


穂高はその光景を見ながら、余計な事は言えないと思い、春奈のフォローは唯に丸投げする事に決めた。


そして、店を出た後も、数分話し込んでいた穂高達だったが、唯が予定がある為、解散の流れになり始める。


「ごめんね? 二人とも。

予定が無ければ、もうちょっと話してたいんだけど……」


「いや、俺らこそ悪いな、店出た後も引き留めちゃって」


「有名人ですもんね! 忙しくて当然です!」


申し訳なさそうにする唯に、穂高は逆に謝罪を返し、この数時間である程度、唯と打ち解けられた春奈は、多忙な唯を気遣う様に返事を返した。


「じゃあね? 穂高。

春奈ちゃんもまたッ!」


唯は笑顔で二人に別れを告げ、その場から離れようとしたが、最後に一言どうしても伝えたかった事があった穂高は、咄嗟に唯を呼び止めた。


「あ、ちょっと待てハチ!」


穂高に呼び止められた唯は、不思議そうに穂高に向き直る。


「何度も悪いな? 呼び止めて……。

今日さ、夜電話かけても大丈夫か?」


穂高は、春奈と三人で居た手前、唯に聞きたかった事が一つも聞けておらず、どうしても知りたかった為、慣れないよう様子で唯に尋ねた。


穂高の問いかけに、唯はまるで予想できなかったのか、目を大きくし、驚いた表情のまま一瞬硬直し、学校での穂高を知る春奈もまた、穂高から異性にそんな事を尋ねるなど、想像もできない事で驚いていた。


「え……、な、なに? 珍しいじゃん、穂高からそんな事言ってくるなんてぇ~~。

別に、わざわざ許可取らなくても、いつでも連絡してきていいよ~!」


「そうか。 じゃあ、夜、気にせず電話するから。

悪いな……、引き留めて。 そんだけだ……」


「そッ、じゃあね!」


唯は少し顔を赤らめ、上機嫌になりながら、今度こそ、その場から去っていった。


「――それじゃ、俺らも帰るか?」


「そ、そうだね」


唯が離れていくのを見送ると、穂高は春奈にそう告げ、穂高と唯のやり取りに、モヤモヤとした物を感じつつも、穂高の問いかけに春奈は答えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


四鷹駅に向かう道中。


穂高と春奈は、唯と別れた後、当たり障りのない会話をしては、途中で会話が途切れ、何とも微妙な雰囲気のまま、駅へと向かっていた。


春奈の方は、この空気感に違和感を感じている様子はなく、むしろ、春奈が原因であり、穂高が何か会話を振っても、どこか上の空の状況が何度か続いていた。


(な、なんか元気ないな……、考え事か??

それか、大事な面接だったし、疲れてるのかもしれないな……)


春奈の状態に、穂高は違和感を感じつつも、原因はハッキリと分からず、気まずい雰囲気ではあったが、穂高から無理に、雰囲気を変えるような事はしなかった。


理由は分からなかった穂高であったが、自分の中で簡単に、疲労が溜まっているのだろうと結論付け、無理に話題を振ることをやめ始める。


交流の無い、あまり知らない相手との沈黙であれば、穂高も気まずくなり、無理に話そうとしたが、春奈と二人きりの時の沈黙は、そこまで穂高にとって、気にはならないものだった。


そのまま数分、穂高は、疲れている春奈に気を使わせないよう、沈黙し、ただ歩き続ける二人だったが、今度は春奈の方から穂高に声を掛け始めた。


「――あ、あの……、天ケ瀬君。

ちょっと色々気になる事があって……、聞いても良いかな?」


春奈は、穂高の様子を伺う様にして、下から尋ね、春奈から話しかけてきたことに、穂高は一瞬、少し驚いた。


「気になる事?? まぁ、変な事じゃ無けりゃ、基本何でも答えるけど……」


「そ、そっか……。

――な、なら一つ目、天ケ瀬君って『チューンコネクト』の事詳しいけど……、それはやっぱりお姉さんの影響だってりするの?」


「あ、まぁ……、姉貴の影響もあるな」


穂高は、唯が告白した事もあり、てっきり他の事、昔配信していた時期の事などを、聞かれるかと思い、身構えていたが、春奈の質問はそうでなく、少しだけ面を食らっていた。


「天ケ瀬君が『チューンコネクト』を知ったのって、お姉さんがデビューした後?」


「んん~~、姉貴きっかけで知ったわけではあるけど、厳密にいえば、存在を知ったのはデビュー前、姉貴が色々準備していた時期かな」


「そ、そうなんだぁ……」


穂高の答えに、春奈は少し気分を落としたように見え、穂高はそれを見逃さなかった。


「――な、なんかマズかったか??」


「いや、マズい事なんて無いよ!?

――ただ、ちょっと今まで感じてた違和感がはっきりしたというか、なんというか」


春奈の言葉の意図が、穂高にはまるで伝わらず、穂高が不思議そうな表情を浮かべていると、春奈は続けて話した。


「いやね? 前々から、ちょっと私とは、ファンとしての熱量が違うなって思ってたんだ。

同じ『チューンコネクト』のファンで、話は勿論合うんだけど、応援の仕方?というか、スタンス?が違うというか……」


春奈の言葉に、穂高はようやく春奈が何を言わんとしているか、徐々に伝わり、春奈の指摘は、ほぼほぼあっていた。


(――確かに杉崎との熱量は明確に違うよな……。

そもそも、その場しのぎの嘘で『チューンコネクト』のファンを名乗ったわけだし。

まぁ、今では、『チューンコネクト』の魅力がよくわかるし、リムとか関係なく、グループ全体を応援しているけど……。

それでもやっぱり、ただの一視聴者の熱狂的なファンと比べると、俺の熱量はベクトルが違うのかも。

これは、杉崎からしたら違和感なんだろうな……)


春奈との想いの少しの違いに穂高は気づかされたが、偽っていた頃の自分と、今の自分では『チューンコネクト』に対する思いが、変わっている事にも気づかされた。

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