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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十章 終わる者 始まる者
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姉の代わりにVTuber 151


 ◇ ◇ ◇ ◇


二次試験が始まる数分前。


控室に入った事で、春奈はるなは緊張MAXになっており、落ち着かない時間が続いていた。


控室には、春奈と同じように面接を受けに来た女性が多数おり、春奈と同じように緊張している者が多くいた。


携帯をしきりに弄る者、一次試験通過時に自宅に送られた二次面接の案内をひたすら見る者、春奈と同じようにソワソワと辺りを確認する者。


各々が試験まで時間を潰している中、春奈は一人の人物が目に留まる。


春奈よりも後に控室に入ってきたその女性は、見た目が派手で目立っており、特徴的な紫の髪が目を引いた。


「――あれ? あの人どこかで……」


見た目の派手さもあったが、見覚えがある事に気になった春奈は、じっとその女性を見つめていると、不意にその女性と目が合った。


「あ…………」


春奈は紫髪のその女性と目が合い、それが誰なのか分かると自然と声が漏れ、春奈の存在に気付いたその紫の女性は、春奈の方へと早足で向かってくる。


「ね! あなた、穂高のお友達よね!?

確か……、南室なむろ駅の近くで会った」


春奈に声を掛けたのは、浜崎はまさき ゆいだった。


唯は満面の笑みで、友好的に春奈に話しかけており、春奈は何度か唯を見かけ、きちんと挨拶を交わしたことは無いが、面識はあった。


「そ、そうですね、南室以来……。

改めて、初めまして、杉崎すぎさき 春奈です」


「お、おぉ~、ご丁寧に。

浜崎 唯です! よろしくね?」


年下の春奈が礼儀正しく挨拶をしてきた事に、唯は少し面を食らいながらも、名前を名乗った。


「まさか、知り合いがいるとは~~。

緊張で不安MAXだったから嬉しいよぉ~~。

頑張ろうね! 今日」


唯は情けなくそう言いながら、春奈の手を両手で握った。


少し軽い感じの物言いだったが、唯の言葉を裏付けるように、春奈の手を握った唯の手は少しだけ震えていた。


「私も知ってる人がいるとは思いませんでした。

頑張りましょう! お互いに!!」


今まで、緊張MAXだった春奈にとって、唯の存在は何故か少し心が落ち着き、知り合いもいるという環境が春奈にとって、緊張が和らぐ要因になった。


春奈は、唯に色々と話したい事があったが、試験前という事もあり、お互いにそれ以上は言葉は交わさず、すぐに試験開始時刻になった。


試験開始から一時間後。


唯と春奈は、同じでは無かったが、面接のタイミングが近く、後から試験を受けた春奈が控室に戻ると、帰り支度をしている唯の姿があった。


「あッ! 終わった? 春奈ちゃん!」


控室に戻った春奈に、唯は笑顔で話しかけてきた。


「ぶ、無事終わりました~~。

緊張しすぎて、心臓飛び出るかと思いました」


唯の顔を見た春奈は一気に力が抜け、大きく肩を降ろしながら、試験の感想を答えた。


「そうかそうか同士よ。

さっきはお互い試験もあって話せなかったけど、語らい合おうじゃないかい!」


「そ、そうですね」


試験が終わり緊張から解き放たれたのか、唯のテンションは上がっており、唯のノリに春奈は少し戸惑いつつも、笑顔で答えた。


お互い帰り支度をし、他にもまだ試験を控えた応募者もいた事から、控室からはすぐに出た。


「いやぁ~~、春奈ちゃんいて良かったよぉ~~。

緊張和らいだというか、なんというか……」


「私もです。

顔見知りがいるってだけで、結構落ち着けました」


「春奈ちゃんもそう思ってくれたの?? 

えへへ……、なんだか嬉しいなぁ~~」


ニコニコと笑みを絶やさず明るい唯に、春奈も自然と笑みが零れる。


「春奈ちゃんもここに来てるって事は、『チューンコネクト』に憧れて?」


「はい! 元々ファンで、自分も彼女達みたいになりたいって……。

憧れの人たちに会いたいっていうのも有りますけど」


「分かる~~。

私も、そこまで古参じゃないけどファンでね~~。

推しは? 好きな世代とかは??」


唯も『チューンコネクト』のファンであり、お互いの好きな事が話題になっていた為、会話は尽きなかった。


話ながら歩いていると、気付いたら本社一階エントランスまで到着しており、会話が盛り上がった事から、お互いに色々と積もる話も多かった。


「――どうしよっか? 喫茶店にでも行こうか??」


一階に到着するなり、既に別れが惜しくなってきていた唯は、春奈に午後も一緒に居る事を提案した。


「え、えっとぉ、喫茶店に行くのは良いんですけど、付き添いがいまして……」


「ん? 付き添い??

――――もしかして、穂高?」


唯と穂高の関係がイマイチ分からない春奈は、穂高の名前を伏せ、同行人がいる事を伝えたが、唯はそれが誰なのか、一瞬にして言い当てた。


穂高の名前が簡単に出た事で、春奈は驚いた表情を浮かべ、唯の問いかけに首を縦に振る。


「やっぱそうか~~。

――実は、さっきここで穂高を見かけたんだよね~。

穂高と仲の良い春奈ちゃんもいたし、そうかな~~って思ったけど……」


唯の声色は少し低く、表情も一瞬だけ微かに曇り、続けて春奈に尋ねる。


「もしかして、彼女さん??」


「え!? あ、いやぁッ! そ、そそんなんじゃ……。

ふ、普通に仲良くしてもらってる友達です」


「そ、そっか、友達かぁ~~。

ごめんね、変な勘違い……、あははは…………」


お互いに気まずい雰囲気へと変わり、一気に会話が減っていった。


沈黙が流れ、空気に耐え切れず、お互いが何かを言いかけるが、互いにうまく言葉が出なかった。


そして、少しの間流れた沈黙は、再び唯によって破られる。


「あ、あの……さ? 提案なんだけど…………」


唯は口ごもりながらも春奈に、ある提案を投げかけた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「えっとぉ~~~、これは一体? どうゆう事??」


試験が終わった連絡を受けた穂高は、春奈の元へと向かうと、そこには唯の姿もそこにあった。


春奈は気まずそうに、苦笑いを浮かべ、唯はちらちらと穂高の様子を伺う様にして、その場に立っていた。


「い、いやぁ~~、春奈ちゃんが穂高と一緒に来てるって言うし……、親睦を深めようと……」


「親睦だぁ??」


穂高は唯に聞きたいことが何点かあったが、望む状況は、春奈がいるこの状況では無かった。


それに加え、二人はこの後、昼食を一緒に取ろうとしており、穂高はそんな二人に驚愕していた。


(お互いに同じ面接を受けてるのは知ってるんだよな?? ライバル関係だよな?

普通、面接終わって一緒に飯食いに行くとかするか? 面識も無い二人が…………)


「――杉崎はいいのか? こいつ強引なとこあるし、嫌だったらハッキリ言った方がいいぞ??」


「なッ! 穂高!? 酷いんじゃない? その言い方は!」


穂高は一旦、唯の事は後回しに考え、春奈の気持ちを優先させた。


唯は文句を言っていたが、それに穂高が反応を返すことなく、春奈の言葉を待った。


「い、嫌じゃないよ? さっきまで唯さんとは普通に話してたし、同じ『チューンコネクト』のファンとして、語り合いたい事もあるから……。

――――それに、色々聞きたいことも……」


春奈は穂高の質問に嘘偽りなく答え、最後にボソリと誰にも聞き取れないような声量で呟き、唯へと視線と飛ばした。


唯は依然として、穂高の物言いに納得していない様子で、不満げな表情絵を浮かべており、春奈の言葉を聞いた穂高は、ため息を一つ吐いた。


「杉崎がそう言うならいいか……。

俺も昼はまだだし、どっか適当に入って済ませよう」


穂高は少しけだるげに答え、三人は昼食を取る為、その場から離れていった。

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